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「飽きたな…」
10mはあろう巨大なドラゴンの死骸に座りながら、この俺、鏡 翔は呟いていた。
16歳の頃に異世界に飛ばされ、流れるままに冒険者になり早10年、チート盛り盛りの能力を駆使して冒険者世界順位5位に上り詰めた俺は今の生活に飽きてきていた。
「とりあえずこのドラゴン回収して依頼の報告に行くか」
翔は軽くドラゴンに手をかざすと、ドラゴンは一瞬にして消えさり。
「転移、マリジュヤ」
そう呟いた翔自身もその場から消えた。
ある王国のマリジュヤ街、王都ではないがそこそこに栄えており、飯も美味い、翔が拠点にしている街である。
「ショウ様お帰りなさい。 例の件は問題なく終わりましたか?」
冒険者ギルド、魔物の討伐や街の手伝いまでありとあらゆる仕事を受けられる場所だ。
「ああ、いつもの場所に置いてくる」
「流石ショウ様ですね、もしかしたら順位も上がっているかも知れませんよ?」
受付嬢が黒く四角い石のような物を机の上に置くが、俺はそれを断る。
「いや、もう俺には必要ない。 実はギルドを抜けようかと思っているんです。 だから冒険者カードも返上しようと思う」
「…えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
建物が揺れるのではと思うほどの声量で受付嬢が叫んだ。
俺は軽く耳を塞ぎながら適当な理由を述べていく。
「俺もそろそろいい歳ですから安定した収入の仕事をしようかと思いましてね、明日が誕生日ですしキリがいいかと」
「あ、それはおめでとうございます。 で・は・な・く・て! ショウ様なら遊んで暮らせるほどの財力をお持ちでしょう! 今更安定した職種を選ぶ必要性はありませんよね!?」
それはそうなんだが、かと言って遊んで暮らすのも直ぐに飽きそうだし、何かしら仕事のような事がしたいだけだ。
「まあ、とりあえず返上手続きしてもらえますか? 冒険者の決まりでは去る者は追わずですよね」
「それはそうですけど…ショウ様は一桁順位なのですよ? そう簡単に辞められては、こちらも面子と言うものが…せめて次の仕事を見つけるまでは続けてはいただけないでしょうか」
仕方ない、今までお世話になってきた身だ、それくらいの理由付けはしておくか。
俺は軽く当たりを見渡すと、ギルド内にある掲示板が目に入る。
この世界のあらゆる物事が貼ってあり、御目当ての物を探すのに一苦労するのであまり使われていない情報掲示板だ。
その中にある真新しい紙を手に取ってみる。
「モリージア国の学園の教師募集か、たしかこの世界唯一貴族と平民が一緒に通える学園だったか?」
教師、悪くないかもな、安定収入の代表格だ。
俺は受付嬢に教師になると理由付けをして冒険者カードを返却したが、受付嬢に教師になるまで返却はしないほうがいい、一桁ランクってだけで有利になると勧められた。
しかし本気で教師になる気はないので断った。
「転移、モリージア」
返却手続きが終わり、ギルドの外に出て人気のない場所でそう呟くと、一瞬にして景色が変わる。
そこはマリジュヤから二国離れたモリージアの王都だ。
「うっぷ… やっぱり距離が離れれば離れるほど気分が悪くなるな、船酔いしている気分だ」
チート能力の派生の一つである転移のデメリットに軽く苦しみながら街に入っていき、洋風の城の様な建物に着くと、門番が俺を怪しんでか駆け寄ってきた。
「何者だ、ここは関係者以外立ち入り禁止だ」
「教師募集を見て来ました。 受付はどちらですか?」
門番は俺を訝しむ様な瞳で全体を見ると、最低限の危険はないと判断したのか、話を続けてくれた。
「名前と身分がわかる物を見せてもらえれば私が受け付けている。 冒険者カードでも構わないぞ。 それにしても随分とギリギリの参加だな、田舎からでも来たのか?」
だから冒険者カードの返上を次の仕事が決まるまで持っていたほうがいいと言っていたのか、ミスったな。
あ、そういえばある実験で昔冒険者カードを作ったっけ。
名前は同じだしそれでいいか。
「二国離れた場所からきましたからね、間に合って良かったです」
そう言って冒険者カードを渡し、参加受付を完了した。