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変化とは、常に勇気を必要とするもの。――8

 ストレージから一枚のカードを実体化させて、ゴブリンに突きつけるようにして使用する。


「『怨恨破(えんこんは)』、発動!」


 オオォォオオオォオオォ……!!


 亡者(もうじゃ)の叫びのような音がダンジョンに反響し、カードから闇が溢れ出した。




・怨恨破

 カードタイプ:ソーサリー

 消費MP:40

 効果:闇属性の魔法攻撃(威力:弱)。怨恨破の威力は、この戦闘で戦闘不能になったクリーチャーの数だけ上昇する。




 もしも、どこかで誰かがこの戦闘を眺めていたら、俺はこう問いたい。「賢明(けんめい)なあなたはお気づきですか?」と。


 怨恨破は、死亡したクリーチャーが多いほど威力が上がる。


 そして、この戦闘で死亡したクリーチャーは、マナウィスプ四体、分裂アメーバ四体、分裂アメーバの分身四体、カカシ六体の、計一八体。


 そう。俺がチャンプブロックと生け贄を繰り返していたのは、怨恨破の威力を上げるためだったのだ。


 怨恨破を単体で用いても、与えられるダメージは微々(びび)たるもの。威力を上げるため、クリーチャーを戦闘不能にさせる必要がある。


 だが、クリーチャーを喚び出すにはMPが必要だし、能動的に戦闘不能にさせる方法がなければ、戦術として安定しない。


 だからこそのリッチの秘宝だ。


 リッチの秘宝は、それ一枚でMPの獲得と味方の戦闘不能を実現させられる、怨恨破と相性ピッタリのカードなのだ。


 加えて、リッチの秘宝の生け贄対象を、MPを生み出せるマナウィスプ、分身も生け贄に捧げられる分裂アメーバ、一度に六体ものクリーチャーを喚び出せるカカシ作りにすることで、(実質的に)MPを消費しないよう工夫してある。


 これこそが、今回俺が考えたコンボ。『リッチの秘宝×マナウィスプ×分裂アメーバ×カカシ作り×怨恨破』の、大ダメージコンボだ。


 カードから闇がドンドン溢れてくる。際限(さいげん)なく湧き出てくる。膨れ上がり、(たけ)り狂っている。


『ギャギャッ!?』


 思いも寄らない事態だったのだろう。ゴブリンが足を止め、頬を引きつらせた。


 あとはどれくらいの威力になるかだ! 頼むぞ!


 願いを込めて――放つ。


「いけえぇええええええええええええええええええええええええええっ!!」


 膨大な闇が開放された。


 さながら漆黒(しっこく)濁流(だくりゅう)


 洞窟内を黒が塗りつぶす。


『ギャ……ギャ……ギャ……ッ!!』


 恐れおののくようにゴブリンが声を震わせて――闇の濁流にのみ込まれた。


 闇の濁流は(とど)まることを知らず、進行方向にあるすべてを、ひとつ残らず()らい尽くしていく。


 やがて闇の濁流が収まったとき、そこには()があった。


 ゴブリンは影もかたちも残っていない。地面は、トンネル掘削機(くっさくき)が通過したあとのようにえぐられている。


 俺は目をパチクリさせた。


「…………はへぇ?」


 思わず()頓狂(とんきょう)な声が漏れる。


 あんぐりと大口を上げながら、俺は心のなかで叫んだ。


 つ、強すぎません!? こんな強力な攻撃、見たことないよ!?


 怨恨破の威力は異常としか言えなかった。バスタードの魔法使いであり、Cランク探索者でもある赤井くんの魔法さえも(はる)かに凌駕(りょうが)している。あまりの威力に声を失ってしまうほどだ。


 驚きのあまり、俺はただ呆然と立ち尽くす。


 そんななか、遅れて実感がやってきた。


 俺はゴブリンを倒せたんだ……それも、あんなにも簡単に。


 喜びが溢れ出してきた。


 俺はやれたんだ……最弱ステータスでも勝てるんだ!


「――――っしゃあっ!」


 喜びのあまりガッツポーズをとった。


 俺の予想は当たっていた。カードはゴミアイテムなんかじゃない。コンボで使えば優秀アイテムなのだ。


 いや、ある意味、予想が外れたと言うべきかもしれない。ここまでの威力が出るとは考えてもみなかったのだから。


 カードの可能性は本物だ。最弱ステータスの俺にとって、カードゲーマーの俺にとって、神アイテムだったのだ。


 確信しながら、俺はストレージを確認する。


「戦闘が終了したことで、消費したカードもちゃんと復活しているな」


 これならば、カードがなくなってピンチに(おちい)ることもない。


 消費と獲得が同じ(あたい)になったので、MPは戦闘前と変わらず100のまま。


 失ったものはなにもない。無傷かつ無消費で勝利できた。


 完璧だ。計算通りだ。


 行ける! これは行けるぞ!


 満面の笑みを浮かべ、俺は拳を突き上げた。


「よし! この調子でドンドン行くぞ!」


 自信と勇気を手に入れて、俺はダンジョンを奥へと進んだ。

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