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変化とは、常に勇気を必要とするもの。――5

 Eランクダンジョンのゲートは、台東区にある(はい)ビルの、二階にあった。


 ゲートは二メートルほどの楕円形(だえんけい)。黒を基調としており、無数に(ちりば)められた、キラキラ輝く白い粒が(うず)を描いている。


 学術雑誌に載っている銀河のような、神秘的な光景。この先に凶悪なモンスターがたむろしているのだから、皮肉な話だ。


 ゲートの(そば)には、探索者協会の職員が二名、立っていた。


 ゲートから出てきたモンスターが人々を襲わないよう、探索者協会はゲートの管理をしている。彼らはゲートの監視役なのだろう。


 俺は職員のひとりに声をかけた。


「ダンジョンに挑みたいのですが」

「探索許可書はお持ちですか?」


 対応してくれた職員に、柳さんに発行してもらった探索許可書を提示する。


 探索許可書を受け取った職員は、それが本物かどうかをじっくり確かめて――


「承りました。どうぞお気を付けて」


 俺をゲートの前まで案内してくれた。


 ゲートを前にして、緊張と不安が(よみがえ)る。思わず後退(あとずさ)りそうになり――俺は気合で持ちこたえた。


 やるって決めただろ! 尻込(しりご)んでどうする!


 弱気な自分に負けないよう、俺は両手で頬を叩く。ヒリヒリとした痛みが俺に(かつ)を入れてくれた。


「よし!」


 自分を(はげ)ますように声を上げ、俺はゲートをくぐった。


 ぐにゃりと視界が歪み、体が浮遊感を覚える。


 視界が戻り、浮遊感がなくなると、俺はダンジョンのなかにいた。


 周りが岩で構成された洞穴(ほらあな)。左右の壁には、誰が用意したのかわからない松明(たいまつ)がかけられている。


洞窟(どうくつ)系ダンジョンか……」


 ダンジョンにはいくつもの種類があるが、このダンジョンはもっとも多い系統――洞窟系のようだ。


 ダンジョンの種類を確認し、俺は歩き出した。


 俺のステータス的に、モンスターに不意(ふい)を突かれたらマズい。対応できないまま一気に押し切られてしまう。


 そのため、俺は辺りを警戒しながら慎重(しんちょう)にダンジョンを進んでいった。


 五分ほど歩いたとき、俺は視界の先に一体のモンスターを(とら)えた。


 深緑の肌をした、体長一五〇センチほどの小鬼。手にするのは木製の棍棒(こんぼう)


 Eランクダンジョンに生息しているモンスターの代表格『ゴブリン』だ。


 ドクンッ! と心臓が跳ねる。


 ゴブリンに見つからないうちに、俺は急いで近くにあった岩陰に隠れた。


 そろりと(うかが)うと、ゴブリンは獲物を探すようにキョロキョロと辺りを見回している。気づかれてはいないようだ。


 ふぅ、と一息つきながらも、俺の鼓動は荒ぶっていた。まるでバスドラムが連打されているかのようにうるさい。頭のなかも恐怖で濁っている。


 ソロでモンスターに挑むのははじめてなのだから、しかたない。


 俺のステータスはゴブリンよりわずかに上だ。とはいえ、普通に戦ったら勝率は六割くらいだろう。負ける可能性は――死んでしまう可能性は充分にある。


 怖い。怖くて怖くてたまらない。


 だけど、逃げない。


「こういうときは、あれだ」


 俺は目をつむり、顔の前で手を合わせた。


 ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐く。


 プロのカードゲーマーだったとき、試合前にいつも行っていたルーティン。一〇〇パーセントの状態で試合に(のぞ)むための儀式(ぎしき)だ。


 荒ぶっていた鼓動が(しず)まっていく。恐怖で濁っていた思考がクリアになっていく。


 大丈夫だ。もう気負(きお)いはない。覚悟も決まった。


 俺は目を開ける。


「行くぞ、勝地真」


 一言、そう口にしてから、俺は岩陰を離れた。

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