プロローグ――2
俺と天原さんはふたりで宝箱の蓋に手をかけた。ギイィ、と軋みをたてて蓋が開き、宝箱の中身が姿を現す。
複数枚のカードと、ヴァンパイアノーブルが持っていたそれに似た、サーベルだ。
カードの出現に、俺は思わず「おおっ!」と声を上げる。そんな俺を見て、天原さんがクスクスと目を細めた。
「勝地くんは相変わらずですね」
「し、しかたないよ。新しいカードが手に入るとテンションが上がっちゃうのは、カードゲーマーの性なんだから」
気恥ずかしくなった俺は、熱くなった頬をポリポリと掻きながら弁解する。
きっとまた、天原さんに子どもっぽいと思われているんだろうなあ。まあ、天原さんが口にする『子どもっぽい』は褒め言葉らしいけど。
気を取り直し、俺はカードを手にとった。
パートナーになってからも、はじめて一緒にダンジョンに潜ったときと同様、天原さんからはすべてのカードを譲ってもらっていた。もちろんその代わり、カード以外のアイテムは、ほとんど天原さんに譲っている。
今回もいつもと同じく、俺たちの取り分は、俺がカードで天原さんがサーベルだ。
獲得したカードを手にとり、その効果を確認する。
俺は目を丸くした。
「うわっ! どれもメチャクチャ使ってみたい!」
いずれのカードも、魅力的な効果を持っていたからだ。
・漲る魔力
カードタイプ:ソーサリー
消費MP:20
効果:MPを100得る。このMPはカードを発動させるためにしか使えない。
・召喚学の進化論
カードタイプ:ソーサリー
消費MP:50
効果:召喚学の進化論の発動に際し、クリーチャーを1体、生け贄に捧げる。生け贄に捧げたクリーチャーの消費MPよりも、10多い消費MPを持つクリーチャーカードを1枚、コストを支払うことなく発動できる。
・まやかしの扉
カードタイプ:アイテム
消費MP:100
効果:消費MPが50以下でクリーチャータイプのカードを、コストを支払わずに発動できる。まやかしの扉の効果で召喚されたクリーチャーは、攻撃することも防御することも魔法を使うこともできない。
『漲る魔力』は、消費MPが二倍になった代わりに、獲得できるMPも二倍になった『魔力ブースト』。いわゆる上位互換というやつだ。
獲得したMPはカードにしか使えないので、カードを使わないひとにとっては無価値だけれど、カード使いの俺にとってはシンプルに強い。魔力ブーストと併用すれば、いままで使えなかったカードも使えるだろう。
そして、『召喚学の進化論』と『まやかしの扉』。これらを一言で表せば『ヤバい』。活用のし甲斐がありすぎる。
なぜならば、どちらもコストを支払わずにカードを使用できるカードだからだ。
『本来のコストを支払うことなくカードを使う行為』を、カードゲームの世界では『コスト踏み倒し』と呼ぶ。
このコスト踏み倒しを行えるカードは、数々のコンボを生み出してきた『コンボの申し子』なのだ。
どれくらい強力か想像できないひとは、先ほど俺が用いた『加護シリーズ×溢れ出す真価×スパークリングキャット』のコンボを思い出してみてほしい。
あのコンボの要は、『消費MPが高すぎる溢れ出す真価を、スパークリングキャットの臨界点突破を利用して使う』ところにある。つまり、あのコンボもコスト踏み倒しの一種なのだ。
超強化されたスパークリングキャットには、Sランクダンジョンのモンスターですら太刀打ちできない。そのことを考えれば、コスト踏み倒しがどれほど有力な手法か理解できるだろう。
もちろん、コスト踏み倒しはそう簡単に行えるわけじゃない。召喚学の進化論は、コスト踏み倒しを行う前に、消費MPが10少ないクリーチャーを生け贄に捧げないといけないし、まやかしの扉で召喚されるクリーチャーは、攻撃することも防御することも魔法を使うこともできない。
だが、これらのデメリットをなんとかするのがカードゲーマーの腕の見せ所であり、デメリットを超えた先にあるのが勝利なのだ。
むしろ、デメリットがあるほうが燃えるまであるよね。なんとしてでも使ってやろうって気になっちゃうよ。
頬を緩めながらなおもカードを眺めて――俺は気づいた。
「ん? 下のほうになにか書いてある」
召喚学の進化論と、まやかしの扉。それらのカードの下部に、小さな文字でなにかが記されていたのだ。
俺は目をこらす。
・召喚学の進化論
~~~~~~~~
制限カード:このカードは一度の戦闘に1枚しか使用できない。
・まやかしの扉
~~~~~~~~
禁止カード:このカードは使用できない。
「…………はへぇ?」
素っ頓狂な声が漏れた。
しかたないだろう。
まさか、ダンジョンアイテムのカードに制限や禁止があるなんて、思ってもみなかったのだから。




