勇気とは、絶対に逃げないと決意すること。――11
漆黒の稲妻が四条、宙を裂きながらドラゴンエンペラーに迫る。
さながら漆黒の四つ首竜。
四条の黒雷が牙を剥き、ドラゴンエンペラーに食らいついた。
『GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHH!!』
ドラゴンエンペラーが絶叫し、苦しみ悶える。
あまりの破壊力に空間そのものが耐えきれないのか、ドラゴンエンペラーの姿はぐにゃりと歪んで見えた。
この世のものとは思えない轟音が鳴り響く。
余波だけで吹き飛ばされそうになり、俺は両脚を踏ん張った。
ダンジョンが震撼し、地面に亀裂が走る。
蒸気と黒煙と砂埃がモウモウと立ちこめる。
天災級の破壊をもたらして、漆黒の稲妻は消えていった。
蒸気と黒煙と砂埃が晴れ、ドラゴンエンペラーの姿が現れる。
ドラゴンエンペラーは全身黒焦げになっていた。
ドラゴンエンペラーの膝がガクリと崩れる。
上体が倒れていき、ドラゴンエンペラーが両腕を地面についた。
しかし――
『GO……OOHH……』
ガクガクと震えながらも、ドラゴンエンペラーは体を支えている。
超弩級の魔法攻撃を四つ同時に放っても、ドラゴンエンペラーを倒すには至らなかったのだ。
最大のピンチを乗り越えて、ドラゴンエンペラーが口端を上げる。
『GOOOOOOOOOOHHHH!!』
耐えきった己を賞賛するように、俺と天原さんへの憎悪を爆発させるように、ドラゴンエンペラーが咆哮した。
ドラゴンエンペラーの咆哮が大気を揺さぶるなか、俺は静かに語りかける。
「ひとつ、忘れていることがあるよ? ドラゴンエンペラー」
『GO……?』
ドラゴンエンペラーが、怪訝そうな唸り声を上げて俺を見た。
「終末の稲妻を四発も耐えたのは驚きだよ。本当に、きみは凄まじいモンスターだ」
けどさ?
「これで終わりだなんて、誰が言った?」
直後、俺を中心として漆黒の稲妻が迸った。
ドラゴンエンペラーが目を剥き、あんぐりと口を開ける。「そんな馬鹿な……!?」との言葉が相応しい表情だ。
しかたないだろう。
使用可能上限数である四枚まで消費した。もう終末の稲妻は放てない。
そのはずなのに、四発の終末の稲妻が、再び発動したのだから。
「タネは簡単だよ」
絶句するドラゴンエンペラーに俺は説明する。
「終末の稲妻の消費MPを0にするため、俺は無限コンボを用いた。その無限コンボのパーツは、連立式複製装置・命の対価・聖霊の恵み・神秘の鏡。連立式複製装置に命の対価と聖霊の恵みを取り込ませ、神秘の鏡でコピーすることで、俺は無限ループを成立させていたんだ」
さて、ここで問題。
「神秘の鏡がコピーできるのは、どんなカードでしょう?」
ドラゴンエンペラーは答えない。ただ体を強張らせるだけだ。まあ、人語を話せないから当然だけどさ。
問いの答えは、神秘の鏡の効果を見ればすぐにわかる。
・神秘の鏡
カードタイプ:アイテム
消費MP:80
効果:神秘の鏡の使用者が、消費MPが5以下でソーサリータイプのカードを使用するたび、そのコピーを作成して発動する(コピーの発動にMPは不要)。この効果は、カードのコピーでは誘発しない。
神秘の鏡がコピーできるのは、『消費MPが5以下でソーサリータイプのカード』。その条件に当てはまるのが、命の対価と聖霊の恵みだったわけだ。
ただ、いまに限っては、もう一種類、コピー可能なカードがある。
「俺が無限ループを行っていたのは、終末の稲妻のMPを0にするため。そして、終末の稲妻はソーサリータイプのカード」
もうわかるよね?
「現在、終末の稲妻は、『消費MPが5以下でソーサリータイプのカード』――神秘の鏡でコピーできるカードなんだ」
これこそが、いまの俺にできる最大級のコンボ。
『連立式複製装置×命の対価×聖霊の恵み×神秘の鏡×終末の稲妻』の、超弩級魔法攻撃八連発コンボだ。
ドラゴンエンペラーの強さは常軌を逸している。終末の稲妻を四発も耐えるなんて、普通じゃない。
けれど、もはやドラゴンエンペラーは満身創痍。ここで再度、終末の稲妻を四発食らったらどうなる?
結果は火を見るより明らかだ。
俺は言い切る。
「俺たちの勝ちだ、ドラゴンエンペラー!!」
漆黒の稲妻が四条、放たれた。
ドラゴンエンペラーは微動だにしなかった。動くことすらままならなかった。
漆黒の稲妻が牙を剥く。四つ首竜のごとく食らいつく。
それで、仕舞い。
漆黒の稲妻が消えたとき、そこには宝箱だけがあった。




