勇気とは、絶対に逃げないと決意すること。――10
戦闘開始から八分が経過した。
守護神の加護によって無敵状態になった天原さんは、怒濤の攻撃を仕掛けてくるドラゴンエンペラーに負けじと、目にもとまらぬスピードでレイピアを繰り出している。
まさに激闘。
天原さんとドラゴンエンペラーがしのぎを削るなか、俺はひたすらコンボを続けていた。
命の対価と聖霊の恵みの発動回数は、コピーも含めてどんどん増えていった。
一〇〇回……一六〇回……二〇〇回……五〇〇回……一〇〇〇回……一五〇〇回……
ついに二〇〇〇回に達した瞬間、俺は天原さんに呼びかけた。
「準備が完了したよ、天原さん! ドラゴンエンペラーから離れて!」
「はい!」
天原さんが頷き、力強く地面を蹴って後退する。
離れていく天原さんを追うためにドラゴンエンペラーが一歩踏み出し――不意に動きを止めた。
きっと、本能的に察したのだろう。
いま追うべきは天原さんではない、と。
俺を警戒しなければいけない、と。
そうしなければ己の命が危うい、と。
ドラゴンエンペラーの判断は正しい。
いまの俺には、ドラゴンエンペラーですら倒しきる手段があるのだから。
ドラゴンエンペラーが俺のほうを向き――愕然とした。
俺を中心として、漆黒の稲妻が暴れ狂っているからだろう。
漆黒の稲妻は、渦を巻くように俺を取り巻き、頭上に見える赤い空にまで達していた。
その様は、天を貫く黒い槍だ。
漆黒の稲妻の正体は、俺が発動させた四枚のカードだった。
・終末の稲妻
カードタイプ:ソーサリー
消費MP:2000
効果:雷属性の魔法攻撃(威力:超弩級)。終末の稲妻の発動時に消費するMPは、この戦闘でカードを発動させた回数につき1減る。
魔法攻撃の威力は、弱・中・強・強大・極大の五段階に分けられている。少なくとも俺が知る限り、極大以上の威力を持つ魔法はない。
つまり、『威力:超弩級』の終末の稲妻は、この世に存在するどの魔法よりも強力ということになる。
ただ、終末の稲妻の消費MPは尋常じゃなく多い。二〇〇〇ものMPを保有しているのはSSランク探索者くらいだし、そのSSランク探索者でも、終末の稲妻を一発撃てば、MPが枯渇寸前になるはずだ。
この世のなによりも強力だが、この世のなによりも扱いづらい魔法攻撃。それが、終末の稲妻なのだ。
一応、終末の稲妻の消費MPはカードを発動させればさせるほど減少するが、一回の戦闘で二〇〇〇近くのカードを発動させるとなれば、途方もないMPが必要になる。消費MPを減らすためにMPを消費しては、本末転倒だ。
だが、もしもMPを消費せずにカードを発動させられる手段があったら、どうだろう? MPを消費せずに二〇〇〇回カードを発動させられたらどうだろう? そんな手段があったら、終末の稲妻も活用できるんじゃないか?
では、その手段とはなんだ? どうすればできる?
ここまで考えれば、流石に答えは見つかった。
そう。無限ループだ。
終末の稲妻を発動させる手段として、俺は無限ループを用いたのだ。
天原さんが時間を稼いでくれたおかげで、俺は二〇〇〇回カードを発動させることができた。
いま、終末の稲妻はMPを消費せずに発動できるのだ。
終末の稲妻を、使用可能上限数である四枚まで使用して、俺はドラゴンエンペラーを指さす。
「けりを付けよう、ドラゴンエンペラー!」
超弩級の魔法攻撃が放たれた。




