仲間とは、尊敬の上に築かれる関係のこと。――14
一部始終を呆然と眺めていた俺は、天原さんがレイピアをストレージに収めたところで、ようやく我に返った。
「あ、ありがとう、天原さん」
「お気になさらず。それより、大丈夫ですか? ケガはしていませんか?」
「大丈夫。なんともないよ」
俺が微笑むと、心配そうに眉根を寄せていた天原さんが、「よかったです」と胸を撫で下ろした。
天原さんが俺に微笑み返す。
「万が一ケガでもしていたら、改めて五十嵐くんたちを刺し殺しに向かわなくてはなりませんでした」
「あ、あはははは……そっかぁ……」
じょ、冗談だよね、天原さん? 本当に刺し殺すわけないよね? 瞳孔が開ききってるけど、大丈夫だよね?
背筋をゾッとしたものが走るなか、俺は現実逃避気味に笑った。
「それにしても意外だったよ。天原さんも怒るんだね」
「当然です。わたしも人間ですから」
「けど、天原さんってクールなひとだと思ってたからさ」
「そのような性格だとわたしも自覚しています。ですが今回は、とてもじゃありませんが、感情を抑えられませんでした」
いまだに憤っている様子で、天原さんが打ち明けた。
「憧れのひとを悪し様に言われて、我慢できるはずがありません」
「…………へぁ?」
俺の口から素っ頓狂な声がこぼれる。
思いも寄らない言葉に思考が急停止。再起動して天原さんの言葉を理解するまでには、たっぷり一〇秒はかかった。
そんな俺を見て、天原さんが小首を傾げる。
「どうされたのですか、勝地くん?」
「い、いや……俺って、天原さんの憧れのひと、なの?」
「はい。そうですよ」
天原さんが迷わず頷く。
俺の困惑は加速するばかりだった。
「どうして、Sランク探索者の天原さんが、最弱ステータスの俺を?」
天原さんが俺に憧れる理由が、わからないからだ。
天原さんと俺とのステータスには、天と地ほどの隔たりがある。カードの真価を見出して、Aランクダンジョンさえも攻略できるようになったけど、それでもなお、俺の力は天原さんの足元にも及ばないと思う。
それなのに、どうして天原さんは、俺に憧れを抱いているんだ?
俺の疑問に、天原さんが一息の間を置いて、語り出した。
「たしかにわたしのステータスは高いです。わたしほどのステータスを持つ方は、なかなかいないでしょう」
しかし、
「わたしのステータスは自分で手に入れたものではありません。運が良かっただけです。神様の気まぐれで、わたしはたまたま高いステータスを手に入れた。ですから、誇れるものではないのですよ」
そこまで口にして、天原さんが俺に目を向ける。
「ですが勝地くんは違います。勝地くんは高いステータスを手に入れられませんでした。それどころか、得たステータスは最弱クラス。言うなれば、勝地くんは運に見放されてしまったのです」
結構ぼろくそに言われているが、不思議と苛立つことはなかった。
きっと、天原さんの表情に、眼差しに、声色に、俺への敬意が込められているからだろう。
「それでも勝地くんは諦めませんでした。とてつもない不運に見舞われながらも、知恵と工夫をもって乗り越えたのです。運命に打ち勝ったのです。神様に抗ったのです」
だから、わたしは尊敬しているのです。
「わたしには、勝地くんのような真似はきっとできませんから。わたしの目には、勝地くんが輝いて映るのですよ」
天原さんが柔らかく微笑んだ。
「探索者のひとりとして、ひとりの人間として、わたしはあなたに憧れています」
「そ、そっか……」
天原さんの言葉が、眼差しが、思いが、真っ直ぐすぎる。
顔が燃えそうなほどに熱い。胸の鼓動は、耳の横で鳴っているのかと思うほどにうるさい。
照れくさくて、恥ずかしくて、くすぐったくて、ゴロゴロと地面を転げ回りたい気分だ。
それでも、ここまでの敬意を向けてくれるひとがいることが、どうしようもなく嬉しかった。




