仲間とは、尊敬の上に築かれる関係のこと。――9
「勝地くん、準備はいいですか?」
「バッチリ。いつでもOKだよ」
最後の確認をして、俺と天原さんは頷き合う。
「行きましょう」
「うん」
覚悟と準備を終えた俺たちは、木の陰を出て広場へと立ち入った。
『ヨオォォォォ……ホオォォォォ……!』
グランドネクロマンサーが俺たちに気づき、悪霊じみた不気味な叫びを上げる。
戦闘開始。
直後、俺は素早くストレージを開き、五枚のカードを実体化させた。
「魔力ブースト、発動!」
まずはいつも通りMPを得る。
使用する魔力ブーストは四枚。これで俺のMPは160上昇だ。
次はコンボパーツとなる一枚。
「『卑怯者のネックレス』、生成!」
カードが消滅し、俺の右手にひとつのアイテムが現れる。コウモリを模した飾り付けがされた、ネックレスだ。
・卑怯者のネックレス
カードタイプ:アイテム
消費MP:50
効果:卑怯者のネックレスの所有者はカードの効果を受けない。卑怯者のネックレスの所有者はMPが0になる。
珍妙なカードと言える。
こちらがカードを使用する側なのに、その効果を受けられなくなっては意味がないのではないか? との意見が聞こえてきそうだ。
相手もカードを使うなら、その対策になるだろうけど、この世界でカードを使っているのはおそらく俺だけだし、そもそもモンスターはカードを使わない。
しかも、卑怯者のネックレスを身につけているとMPが0になってしまうのだ。意味のないことをするためにMPを0にしなくてはならないのだから、ゴミアイテムにしか見えないだろう。
まあ、物は使いようだよ。
それでも俺には、卑怯者のネックレスの活用法が思いついている。極悪非道とも言える戦術が。
『ヨオォォォォ……ホオォォォォ……!』
コンボの準備をしていると、グランドネクロマンサーが両腕を広げた。
同時、広場の地面一帯に、紫色の魔法陣が浮かぶ。おそらくこれが、死霊召喚の兆候なのだろう。
「勝地くん!」
「うん!」
少しだけ焦った様子の天原さんに、俺は卑怯者のネックレスを手渡した。
天原さんは卑怯者のネックレスを即座に首にかける。
これで天原さんのMPは0。タウントはMPを消費するスキルなので、現在の天原さんは盾役として機能しなくなってしまった。
それでいい。問題ない。
なぜならば――
「この一枚で勝負は決まるからね」
一枚のカードを実体化させて、使用する。
卑怯者のネックレスの相方であるコンボパーツを。
「『停滞の捕縛』、発動!」
カードが消滅し、俺を中心とした青白いフィールドが展開された。
フィールドは見る見るうちに拡大していき、死霊召喚を発動させようとしているグランドネクロマンサーに迫る。
『ヨオォォォォ……』
迫りくるフィールドを恐れることなく、グランドネクロマンサーはなおも死霊召喚の準備をしていた。
足元の魔法陣がひときわ眩く輝く。死霊召喚の発動まで、もうわずか。
俺は焦らなかった。
「ごめんね。それ、中断させてもらうよ」
フィールドがグランドネクロマンサーを取り込み――
『ヨオォ……――』
グランドネクロマンサーがピタリと動きを止めた。
魔法陣はいまだに輝いている。だが、それだけだ。輝いているだけでなにも起きない。輝きが増すことも減ることもない。
まるで時間が止まったかのようだった。
なにしろ、それがこのカードの効果だからね。
俺は心のなかで呟いた。グランドネクロマンサーや魔法陣と同じく、俺も動きを封じられているから。
・停滞の捕縛
カードタイプ:ソーサリー
消費MP:90
効果:戦闘に参加しているものは動けず、魔法を使えず、スキルを使用できず、カードを扱えなくなる。停滞の捕縛の発動中、使用者のMPは毎秒1減少する。使用者のMPが0になったとき、停滞の捕縛は効果を失う。
停滞の捕縛も、卑怯者のネックレスに負けず劣らず珍妙なカードだ。
相手の動きを封じられるのはいい。ただし、戦闘に参加しているもの全員に効果が及ぶため、味方まで動けなくなってしまう。
互いになにもできなくなるだけのカード。しかも、使用中はMPが少しずつ減っていってしまう。一体なにがしたいんだ、とツッコみたくなるカードだ。
だがしかし、停滞の捕縛は、卑怯者のネックレスとタッグを組むと、たちまちバランスブレイカーと化す。
卑怯者のネックレスは、身につけているものにカードの効果が及ばないようにするアイテム。つまり、卑怯者のネックレスを身につけていれば、停滞の捕縛が発動しているなかでも動けるのだ。
相手側は全員動きを封じられてしまうが、こちら側には動けるものがいる。
卑怯者のネックレスと停滞の捕縛を組み合わせると、こちらが一方的に攻撃できる状態ができあがるわけだ。
グランドネクロマンサーの、死霊召喚による物量作戦は面倒だ。
それならば、停滞の捕縛で動きを封じてしまえばいい。
天原さんが、俺に目を向ける。
あとはよろしくね、天原さん。
心の声でのお願いなので、きっと届いてはいない。だから偶然だろう。それでも天原さんは、コクリと頷いてくれた。
「あとは任せてください」
心強い一言とともに、天原さんがレイピアを構える。
「作戦とはいえ、勝地くんの動きが封じられてしまうのは忍びありません」
「ですので」と、天原さんがレイピアの切っ先をグランドネクロマンサーに向けた。
「容赦なくいかせてもらいます」
天原さんがグランドネクロマンサーを倒すまで、三〇秒もかからなかった。




