仲間とは、尊敬の上に築かれる関係のこと。――5
俺はスパークリングキャットに命じた。
「臨界点突破を発動させるんだ、スパークリングキャット!」
「了解!」と言うように、スパークリングキャットが『ミャア!』と鳴く。
スパークリングキャットの体から赤い電流が迸り、俺が手にしているカードが輝きを放った。
俺はスパークリングキャットに対し、力の加護・守りの加護・叡智の加護・精神の加護・疾風の加護・匠の加護を三枚ずつ、計一八枚使用している。それにより、臨界点突破の発動条件を満たしたのだ。
これで、俺が手にしているカードの消費MPは0になった。
このカードこそ、今回のコンボにおける最後のピース。
俺はそのカードを使用する。
「『溢れ出す真価』、発動!」
カードが消滅し――スパークリングキャットの体が膨張をはじめた。
一般的な猫と変わらないほど小さな体が、大型犬サイズに成長し、馬のように大きくなり、それでも収まらず、どんどん巨大化していく。
最終的に象をも超える巨体になり、スパークリングキャットが、『ミャアァアアアアアア!』と咆哮を響かせた。
『ウ……オォ……?』
流石にうろたえたのか、グリーントロールは右腕を振りかぶった体勢でたじろぐ。呆然とスパークリングキャットを見上げるその目には、明らかな恐怖が滲んでいた。
それもそうだろう。グリーントロールとスパークリングキャットの力関係は、溢れ出す真価によって、いまや完全に逆転しているのだから。
・溢れ出す真価
カードタイプ:ソーサリー
消費MP:300
効果:クリーチャー1体のHPを、そのクリーチャーが強化された回数×50上げる。それ以外のステータスを、そのクリーチャーが強化された回数×15上げる。
効果だけを見れば非常に優秀だが、消費MPが多すぎる。Sランク探索者の天原さんでさえ、二枚使うのが精一杯だ。
しかし、発動できさえすれば強力極まりない。だからこそ、考えるべきは『どうすれば発動できるか』。
その手段として、俺はスパークリングキャットの臨界点突破を用いたわけだ。
おまけに、臨界点突破の発動条件をクリアするために使用したカードは、すべて強化カード。溢れ出す真価は強化された回数だけステータスを上昇させるので、一石二鳥だ。
結果として、スパークリングキャットの現在のステータスは――
HP:922/922
MP:278/278
攻撃力:282
防御力:280
魔法力:283
魔法耐性:280
敏捷性:285
精密性:284
マックスまで強化された、英雄願望のトナカイのそれさえも超えていた。
力の加護・守りの加護・叡智の加護・精神の加護・疾風の加護・匠の加護で強化できる値は小さすぎる。純粋にバフとして使うのは難しい。
しかし、消費MPは5と非常に少ない。俺はそこに目を付けた。
加護シリーズを、臨界点突破の条件を満たすために使い、同時に、溢れ出す真価の効果が最大限発揮されるようにする。
溢れ出す真価の多すぎるコストは、臨界点突破でクリアすれば問題ない。
これが、『加護シリーズ×溢れ出す真価×スパークリングキャット』のコンボ。『英雄願望のトナカイ×カカシ作り』コンボよりも時間がかかるが、最終的なステータスは、スパークリングキャットのコンボのほうが高い。
天原さんが、距離があるうちにグリーントロールに気づいてくれたからこそ、使えたコンボといえるだろう。
スパークリングキャットが、おののき震えるグリーントロールを見下ろす。その体から雷光が迸った。
俺は命じる。
「やれ! スパークリングキャット!」
スパークリングキャットから迸る雷光が、上空に集まって球体を作る。
雷球はバチバチと大気を爆ぜさせて――炸裂した。
上空から紫電の柱が降ってくる。
さながら神の鉄槌。
網膜を焼くほどの光。
鼓膜をつんざく轟音。
紫電の柱がグリーントロールを押しつぶす。もちろんグリーントロールに抗う術はなく、跡形もなく消し飛んだ。
戦闘終了。
スパークリングキャットが消滅し、カードに戻る。
よし、勝った! いい感じだ!
俺はグッと拳を握った。
「いまのが勝地くんの戦い方……まさか、カードを使われるなんて……」
俺に駆け寄ろうとしていた天原さんは、その場に立ち尽くしてポカンとしていた。ゴミアイテムであるカードを使うなんて、思いもしなかったらしい。
天原さんが目をパチクリとさせる。その様子が珍しくて、可愛らしくて、おかしくて、悪いと思いながらも、俺はついつい笑みを漏らしてしまった。
「みんなからゴミアイテムって呼ばれてるけどさ? カードって、コンボで使えば強いんだよ」
「コンボ?」
「組み合わせて使うってこと。一枚一枚はたしかに弱いけど、カードにはいろいろな効果のものがあるんだ。それらを上手に組み合わせると、いまみたいにAランクモンスターも圧倒できるんだよ」
「なるほど……ですから勝地くんは、『このダンジョンで入手したカードを譲る』という条件を加えたのですね?」
「そういうこと」
俺が頷くと、天原さんは感嘆するように息をついた。
天原さんがポツリと呟く。
「勝地くんはスゴいですね」
今度は俺がポカンとする番だった。
最弱ステータスの俺が、Sランク探索者から『スゴい』と褒められるなんて、思いもしなかったからだ。
意外すぎて実感が湧かず、俺は自分を指さして聞き返した。
「スゴい? 俺が?」
「はい。カードにこのような使い道があるなんて知りませんでした。それを編み出した勝地くんはスゴいです」
そんな俺に、天原さんは微笑みながら賞賛の言葉を繰り返す。
その微笑みは柔らかく、その言葉は温かかった。
ここまで真っ直ぐに褒められることってあまりないから、なんだかくすぐったいなあ。
俺は赤くなっているだろう頬をポリポリと掻く。
けど、認められたみたいで嬉しいな。




