仲間とは、尊敬の上に築かれる関係のこと。――3
俺たちはゲートをくぐり、ダンジョンを進んでいた。
ダンジョンには木々が鬱蒼と生い茂り、枝葉の隙間から見えるのは曇天だ。
両脇に並んだ木々が作る道を歩きながら、俺は天原さんの立ち回りに感服していた。
天原さんは俺の数歩先を歩き、茂みなど、モンスターが潜んでいる可能性がある場所では、俺を背に庇うように位置取る。背後に目を配ることも忘れない。
いつモンスターが襲ってきても、俺を守れるようにしているのだ。
流石の一言だ。Sランクパーティーで盾役を務めているだけはある。
俺がソロでダンジョンに挑戦しているときは、辺りを警戒するのに神経をすり減らさなくてはならないが、今回は天原さんが代わりにこなしてくれている。ありがたすぎて拝みたい気分だ。
「止まってください」
感謝の気持ちで一杯になっていると、天原さんが片手で制止の合図を出した。
「どうしたの、天原さん」
「モンスターを発見しました」
「え? どこに?」
「あそこです」
天原さんが進行方向を指さす。
目をこらしてよく見ると、豆粒ほどの緑色がうろついていた。
俺は目を見張る。
「この距離で見つけたの!?」
「そうですが?」
驚く俺を不思議がるように、天原さんが小首を傾げた。
不思議がるということは、天原さんにとって、これくらいはいつものことなのだろう。天原さんの探知能力には舌を巻くほかにない。
ポカンとしている俺に、天原さんがモンスターの正体を伝えてきた。
「あれは『グリーントロール』ですね」
「グリーントロール……重戦士系のモンスターか」
「ええ。体の一部を巨大化させるスキル『パンプアップ』を保有していますので、力押しされないように気をつけないといけません。まあ、パンプアップを使用されても受け止めきれますが」
「スゴい自信だね」
「事実ですから」
天原さんが当たり前とばかりに言い切った。平然と口にするくらいだから、強がりでもなんでもないのだろう。天原さんには驚かされてばかりだ。
苦笑しながら頬を掻いていると、天原さんが大盾とレイピアを構えた。
「相手はまだこちらに気づいていません。戦闘準備をしましょう」
「ちょっと待って」
俺が止めると、天原さんはこちらを向き、パチパチとまばたきをする。
「どうしました?」
「ここは俺に任せてくれないかな?」
天原さんが目を丸くした。
「ひとりでは危険です。それに、一緒にいるのに、どうしてひとりで戦おうとするのですか?」
心配するように天原さんが眉根を寄せる。
天原さんの意見はもっともだ。心配してくれるのもありがたい。
けど、俺はなんの考えもなくひとりで挑もうとしているのではない。今後のことを考えたら、俺が戦う様子を、天原さんに見ておいてもらったほうがいいのだ。
「俺がどんな戦い方をするか、天原さんに知ってほしいんだ。そうすればこの先、連携を取りやすくなるでしょ?」
俺が意見すると、天原さんはハッとした。
俺の意見を吟味するように黙り込み、しばらく間を置いてから天原さんが頷く。
「一理ありますね。では、グリーントロールの相手は勝地くんにお願いします」
「ただし」と、天原さんが付け加える。
「危なくなったらすぐに参戦します。よろしいですか?」
「うん。よろしく頼むよ」
俺が微笑むと、天原さんは「お気を付けて」と言いながら距離をとった。
俺はグリーントロールに近づいていく。
近づくにしたがって、グリーントロールの容姿がはっきりしてきた。丸まるとした人型のモンスターで、全身はこけに覆われている。
グリーントロールを観察していると、濁ったふたつの瞳が俺を捉えた。
『ウウゥオオオオオオ!』
グリーントロールが吠え、ドスドスと重い足音を立てながら迫ってきた。
戦闘開始だ。
ストレージを開きながら、俺は状況を整理する。
天原さんが早い段階で発見してくれたから、グリーントロールとの距離はだいぶ空いている。加えてグリーントロールは足が遅い。俺に接近するには時間がかかるだろう。
「なら。今回はこっちでいこうか」
状況を踏まえて戦術を決定し、俺はストレージから五枚のカードを実体化させた。




