表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/65

人情とは、苦悩を知る者が持ち得るもの。――11

 屋上に来た俺は、ドアから誰もいないのを確認して、天原さんを手招(てまね)きした。


 天原さんはキョトンしている。なぜ俺が警戒しているのか、なぜ教室から移動したのか、いまだにわかっていないようだ。


 天原さんって微妙(びみょう)にズレてるんだなあ。


 高嶺の花の意外な一面を垣間見(かいまみ)つつ、俺は屋上に出て天原さんと向き合った。


 実を言うと、俺からも天原さんに聞きたいことがある。


 俺は口を開いた。


「ヴァルキュリアのひとたちは大丈夫?」

「はい。みなさん、目を覚まされましたし、容態も安定しています。障害(しょうがい)なども残らないとのことです」

「そっか。よかった、ずっと気になってたんだ」


 一命を取り留めたとは聞いていたが、障害が残れば、探索者として復帰することはできない。それがずっと気にかかっていた。


 けど、心配はないみたいだ。ようやく胸のつかえがとれたよ。


 俺は安堵の笑みを浮かべる。しかし、俺とは対照的に、天原さんの表情は曇っていた。


「ただ、しばらくのあいだ、ヴァルキュリアは活動できません。そのせいで問題が起きてしまったのです」

「問題?」

「ええ。わたしたちはいくつかの依頼を受けていたのですが、そのなかにどうしても達成しなくてはならないものがあるのです」


 探索者協会が定めた制度のひとつに、『依頼制度』がある。探索者協会を仲介(ちゅうかい)して、特定、または不特定の探索者・パーティーに、ダンジョンでのアイテム入手・モンスターの討伐(とうばつ)などを頼める制度だ。


 当然、依頼料が必要となるが、自分ではできないことをこなしてもらえるため、利用者は結構いる。


 Sランクパーティーのヴァルキュリアとなれば、依頼される量は相当なものだろう。


「もしかして、三日前にCランクダンジョンを探索していたのも、依頼と関係しているの?」

「はい。あの日は、通信石版の採取(さいしゅ)を依頼されていました」

「それで、報酬が出ないにもかかわらずCランクダンジョンにいたのか」


「ふむふむ」と、俺は頭を縦に揺らした。


 高ランク探索者が低ランクダンジョンの攻略を独占(どくせん)しないよう、自分のランクより三つ下以降のダンジョンでは、攻略報酬が払われない決まりになっている。


 なぜヴァルキュリアがCランクダンジョンにいたのか気になっていたけれど、どうやら通信石版を手に入れるためだったらしい。あの日のCランクダンジョンは鉱山系――通信石版が採れるダンジョンだったしね。


「ドラゴンエンペラーに襲われる前に、充分な数の通信石版を入手できたので、そちらの依頼はこなせました。残りのほとんども期限に余裕があります。ただ、期限が迫っている依頼がひとつあるのです」

「どんな依頼?」

「『霊薬樹(れいやくじゅ)琥珀(こはく)』の納品です」


 俺の質問に天原さんが答える。


 天原さんは思い悩むように眉を下げていた。


「とある大手医療法人からの依頼です。霊薬樹の琥珀のストックが切れかかっているらしく、このままでは急患(きゅうかん)に対応できなくなってしまうそうです」

「それは急がないといけないね」


 俺は(しぶ)い顔をする。


 なるほど。天原さんが(あせ)っている理由がようやくわかった。


 霊薬樹の琥珀は、浸した水を回復薬に変えるアイテムだ。回復薬は病気にも効くため、医療関係者からの需要が絶えない。


 ただし、霊薬樹の琥珀ひとつから無限に回復薬を作れるわけではない。霊薬樹の琥珀は消耗(しょうもう)するアイテムなので、定期的に補充(ほじゅう)しなくてはならないのだ。


 霊薬樹の琥珀のストックが切れれば、助かる命が助からなくなる可能性がある。だから天原さんは焦っているのだ。


「知り合いのパーティーに協力をお願いしたのですが、どこも依頼で(いそが)しいらしく、無理とのことでして……」

「なるほど」


 俺は(さと)った。


「天原さんは、依頼の達成を俺に手伝ってほしいんだね」

「その通りです」


 天原さんが頷く。


 天原さんの『お話』とは、俺への協力要請だったのだ。


『わたしたちの今後にかかわる重要なお話』ってそういう意味だったのか。納得したけれど、(まぎ)らわしい表現はやめてほしかったなあ。


 乾いた笑いを漏らしつつ、俺はひとつ、天原さんに確認する。


「話はわかったけど、俺のステータスは最弱クラスだよ? それでもいいの?」

「はい」


 天原さんは即答した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ