人情とは、苦悩を知る者が持ち得るもの。――8
恐怖からくる震えを気合で止め、俺はストレージから四枚のカードを実体化させて、即座に使用する。
「魔力ブースト、発動! 弾性スライム、召喚! 敵愾心マグネット、生成!」
二枚の魔力ブーストでMPを獲得。そのMPで物理攻撃無効の弾性スライムと、相手のターゲットを引き寄せる敵愾心マグネットを生み出した。
敵愾心マグネットを弾性スライムにのみ込ませる。
よし! 行くぞ!
俺は弾性スライムを両手で持ち、頭の上に掲げ、全力で放り投げた。
「うりゃあぁああああああっ!!」
弾性スライムは一直線に飛んでいき、天原さんにトドメを刺そうとしていたドラゴンエンペラーの前を通り過ぎていく。
『GOLLLL……』
ドラゴンエンペラーの視線が、天原さんから弾性スライムに移った。
ズシン、と地響きを立てて、ドラゴンエンペラーが弾性スライムのほうを向く。
『GOOOOOOOOOHH!!』
ドラゴンエンペラーが雄叫びを上げ、天原さんに叩きつけようとしていた拳を、弾性スライム目がけて放った。
隕石が衝突したような轟音とともに、ドラゴンエンペラーの拳が地面を砕く。
冗談みたいな破壊力。無慈悲なまでの暴力。
しかし、物理攻撃によるダメージを0にする弾性スライムには通じない。衝撃でボヨーンと飛んでいくだけだ。
ダンジョンの奥へ飛んでいった弾性スライムを追うため、ドラゴンエンペラーが天原さんに背を向ける。
「……え?」
肩で息をする天原さんは、信じられないものを見たように目を丸くした。
ドラゴンエンペラーが弾性スライムを追ってダンジョンの奥へ進むなか、俺は急いで天原さんに駆け寄る。
「いまのうちに逃げよう、天原さん!」
治癒術士と思しき女性を背負いながら、俺は天原さんに呼びかけた。
予想外の展開に硬直していた天原さんは、しかし、即座に状況を把握したのか――
「はい。ご援助、感謝します」
大盾とレイピアをストレージに収納して、パーティーメンバーのひとりを背負い、残るふたりを左右の腕で抱える。
流石はSランク探索者。俺ではひとりで手一杯だけど、天原さんは、満身創痍の状態でも三人の人間を運べるらしい。
俺と天原さんは頷き合い、ヴァルキュリアのメンバーを連れて、ダンジョンを逆向きに走る。
一分ほど経ったとき――
『GOOOOOOOOOOHHHH!!』
後方から、ドラゴンエンペラーの咆哮と、炎が燃えさかるような音が聞こえてきた。
俺は息をのむ。
「ドラゴンブレスか!」
ドラゴン属のモンスターは、炎・冷気・毒などを吐き出す範囲攻撃――『ドラゴンブレス』を使える。いま聞こえた炎が燃えさかるような音は、ドラゴンブレスのものだろう。
ドラゴンブレスは魔法に属する攻撃であるため、魔法耐性が皆無の弾性スライムは、ひとたまりもなく消滅したはずだ。
だとしたら、ドラゴンエンペラーが俺たちを追いかけてくる可能性がある。
ぶわっと冷や汗を溢れさせて、俺と天原さんは視線を交わした。
「急ごう、天原さん!」
「はい」
俺と天原さんは死に物狂いでゲートを目指した。
生きた心地がしなかった。




