人情とは、苦悩を知る者が持ち得るもの。――6
『『『『『ガアァアアアアアアッ!』』』』』
ワーウルフたちが飛びかかってくる。
「はい、これ持って」
平然としたまま俺はしゃがみ、弾性スライムに敵愾心マグネットを差し出した。
パクリ、と弾性スライムが敵愾心マグネットをのみ込む。
準備完了。
俺は弾性スライムを拾い上げ、砲丸投げみたいなフォームで掲げ――
「あとはよろしく!」
思いっきりぶん投げた。
綺麗なアーチを描いた弾性スライムは、二〇メートル先の地面に落下して、ポヨン、と弾む。
直後、俺を襲おうとしていたワーウルフが急ブレーキを踏み、くるりと反転して、弾性スライム目がけて飛び出していった。
狙い通り!
俺はニッと口端を上げる。
魔法耐性が0なので、弾性スライムは魔法使い系モンスターとの戦闘では活躍できない。
なら、物理攻撃しかしてこないモンスターを相手にすればいいのだ。
敏捷性が0なので、相手が気に留めなければ、弾性スライムは盾役として機能しない。
なら、相手が気に留めるように仕向ければいいのだ。
その手段として用いるのが敵愾心マグネット。
敵愾心マグネットは、防御力・魔法耐性が10以下のクリーチャーが所持している場合にしか効果を発揮しない。
だが、弾性スライムはそのどちらもが0。しかも、弾性スライムはスキル『超弾性』を持っているため、物理によるダメージを0にできる。
敵愾心マグネットと弾性スライムは、互いの弱点を補い合う、最高のコンビなのだ。
こうして俺は、『弾性スライム×敵愾心マグネット』の、対物理無敵盾役コンボをひらめいたのだった。
ワーウルフたちが弾性スライムを囲み、四方八方から爪を振るう。イジメ以外のなにものにも見えない悲惨な光景。
しかし、攻撃されている弾性スライムはまったく応えていないらしく、爪が当たっても、ポヨン、ポヨン、と弾むだけだった。
ワーウルフは魔法が使えないため、弾性スライムを倒す手段を持たない。
敵愾心マグネットが相手の狙いを引き寄せるため、ワーウルフは弾性スライム以外を攻撃することができない。
この戦闘でワーウルフは、延々と弾性スライムに無駄な攻撃を仕掛け続けるしかなくなったのだ。
恐るべし、弾性スライム。敵愾心マグネットさえ持たせれば、物理アタッカーを完封できてしまうなんて。
そして、ワーウルフ全員が弾性スライムに引きつけられているということは――
「一網打尽の大チャンスってことだ!」
俺はストレージから一枚のカードを実体化させて、弾性スライムに無駄な攻撃を仕掛け続けているワーウルフたちに向ける。
これで決着だ!
「怨恨破、発動!」
カードから闇が溢れ出し、漆黒の濁流となり、五体のワーウルフをまとめて丸呑みにした。
ワーウルフ全員が消し飛んだことを確認して、俺はふぅ、と息をつく。
「いきなり襲われたときは焦ったけど、ちゃんと対処できたな」
どうやら俺は、モンスターとの戦闘を繰り返すなかで、判断力や度胸を身につけていたらしい。
「ステータスは上げられない。けど、強くはなれるんだ」
勝利と成長の喜び。
自然と笑顔になりながら、俺はダンジョン探索を再開した。




