人情とは、苦悩を知る者が持ち得るもの。――5
今回も俺の手は、『リッチの秘宝×マナウィスプ×分裂アメーバ×カカシ作り×怨恨破』の、大ダメージコンボだ。
マナウィスプ、分裂アメーバ、カカシで相手を足止めしながら、リッチの秘宝で生け贄に捧げる。こうすることでMPを(実質的に)消費しないまま、クリーチャーの死亡数を稼げる。
最終的に、戦闘不能になったクリーチャーが多いほど威力が上がる怨恨破を撃ち込んで、勝利を収める。以上がこのコンボの仕様だ。
ワーフウルフが次々とクリーチャーに爪を振るい、そのたびに俺は、リッチの秘宝で生け贄に捧げていく。
順調に死亡数を稼いだ俺は、続いてカカシ作りを用いた。
「カカシ作り、発動!」
ズラリと並ぶ六体のカカシ。このカカシたちを生け贄に捧げたら、怨恨破でフィニッシュだ。
勝利を確信して、俺の口元に笑みが浮かぶ。
そんななか、ワーウルフがいままでとは違う行動をとった。
『アオオォォ――――――――ン!!』
大きく息を吸い、仰け反るように上を向いて、遠吠えを響かせたのだ。
ダンジョン内に遠吠えが木霊して――
『『『『アオオォォ――――――――ン!!』』』』
呼応するような遠吠えが四つ、奥から聞こえてきた。
俺はハッとする。
「スキル『仲間呼び』!」
『仲間呼び』はワーウルフが保有するスキルで、その効果は名前の通り、仲間を呼んで戦闘に参加させるものだ。
俺の予想は的中し、ダンジョンの奥から四体のワーウルフが走ってきた。
これで一対五。戦力的に、俺が圧倒的不利になってしまった。
それだけではない。
敵が増えるということは、標的が増えるということだ。複数の標的に動き回られたら、狙いを定めにくくなるのは言わずもがな。
つまり、怨恨破でワーウルフたちを倒しきるのが困難になってしまったわけだ。
五体のワーウルフが牙を剥き、『『『『『グルルルル……』』』』』と唸り声を上げる。
五体分の敵意を浴び、俺は溜息をついた。
絶望の溜息ではない。
「よかった……魔力ブーストを四枚使ったのは正解だったな」
これは安堵の溜息。
俺にとってこの状況は、想定の範囲内だったのだ。
『『『『『ガアァアアアアアアッ!』』』』』
五体のワーウルフがカカシたちに襲いかかる。
「発動しろ、リッチの秘宝!」
慌てず騒がず生け贄に捧げ、俺はカカシたちをMPに変換した。
場に残ったのは俺と五体のワーウルフ。ワーウルフたちの爪は、今度こそ俺に振るわれるだろう。
けれど問題ない。こういう状況を見越して、魔力ブーストを多めに使っておいたのだから。
血走った一〇の目が向けられるなか、俺は二枚のカードを実体化させて、使用した。
「敵愾心マグネット、生成!」
ひとつは、先日Dランクダンジョンで手に入れた、防御力・魔法耐性が10以下のクリーチャーが所持している場合に限り、そのクリーチャーを常に相手のターゲットにするアイテム。
俺の左手に敵愾心マグネットが生成された。U字型の磁石に似たかたちのアイテムで、S・Nの代わりにHateと記されている。
「『弾性スライム』、召喚!」
もうひとつは、今回はじめて喚び出すクリーチャーだ。
バスケットボールほどのサイズをした、薄黄色のゲル状生命体が、俺の足元に現れる。
こいつが、俺をピンチから救ってくれるキーカードだ。
・弾性スライム
カードタイプ:クリーチャー
消費MP:30
【ステータス】
HP:50/50
MP:0/0
攻撃力:0
防御力:0
魔法力:0
魔法耐性:0
敏捷性:0
精密性:0
【スキル】
超弾性:すべての物理ダメージを0にする。
とてつもなく偏った性能のクリーチャーだ。
すべての物理ダメージを0にする超強力なスキルを持っているが、HPを除いたステータスはオール0。
もちろん魔法耐性も0なので、一発でも魔法を食らえば戦闘不能になってしまう。魔法使い系モンスターとの戦闘では、どうやっても活躍できないだろう。
できるとすれば、物理攻撃をしてくる相手に対する盾役だが、敏捷性が0なので、味方を守るために立ち回ることはできない。相手が気に留めなければ、ただの置物になってしまう。
総合的に判断して、使い勝手が悪いとしか言えないポテンシャル。
しかし、俺は知っていた。
こういう偏りに偏った性質を持つものほど、上手に活用できたら強いんだよね。




