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変化とは、常に勇気を必要とするもの。――13

 休日明け。俺は晴れやかな気分で登校していた。


 ダンジョン攻略に成功し、生活費を稼ぐ手立てが見つかった。未来の見通しがついたのだから、浮かれるのも無理はない。


 今日の放課後も探索者協会に行こうかな。ダンジョン探索の申請をしようかな。


 まさか自分が、こんなにもダンジョン探索に積極的になるとは思ってもみなかった。ダンジョン探索を楽しいと感じるようになるとは思ってもみなかった。


 これもカードのおかげだ。本当にありがたい。


 ルンルン気分で校門をくぐり、校庭を歩いていく。


 すると、昇降口(しょうこうぐち)に立つ四つの人影が目にとまった。バスタードのメンバーたちだ。


 ドキリと心臓が跳ね、体が強張(こわば)る。


「あ、やっと来たね、勝地くん」


 緊張していると、赤井くんが俺に気づき、声をかけてきた。ほかのメンバーもこちらに視線を向ける。


 彼らは俺をパーティーから追い出した。俺を役立たずと見なした。


 それなのに、なぜ俺を待っていたのだろう? いまさらなんの用があるのだろう?


 頬に汗が伝うのを感じつつ、俺は()いた。


「なにか用事でもあるの?」

「だから待ってたんだろうが。それくらい察しろ」


 五十嵐くんが苛立たしげに言って、俺に近づいてくる。


「聞いたぜ、勝地。お前、ソロでダンジョンを攻略したんだってな」

「知ってるの?」

「知ってるから言ってんだろうが」


 目を丸くする俺に、五十嵐くんが馬鹿にするように鼻を鳴らした。


「やるじゃん、カッツー。あんたがひとりでダンジョンを攻略するなんて、あーし、思いもしなかったしー」

「ていうか、ソロでダンジョンを攻略できるくらいなら、あたしたちといたときも少しは役に立ちなさいよ」


 萩野さんが上から目線で俺を()め、宝条さんが腕組みしながら文句をつけてくる。


「たしかに俺はソロでダンジョンを攻略したけど、用件はなに?」


 緊張で口が渇くなか、俺は改めて問う。


 五十嵐くんが答えた。


「勝地。お前、パーティーに戻れ」


 想定外の要求に、俺は「え?」と声を漏らす。


「お前が抜けてから、ダンジョンのアイテムを回収しきれなくなったんだよ。なんだかんだ、荷物持ちがいねぇと不便だわ」


 大袈裟(おおげさ)に肩をすくめ、五十嵐くんが続けた。


「Eランクダンジョンとはいえソロで攻略できたんだ。そんだけやれるなら、少なくとも俺たちの足を引っぱることはないだろう」


 五十嵐くんが、ニヤリと意地悪(いじわる)そうに口端を歪める。


「生活費がほしいんだろ? 俺たちの役に立てば(めぐ)んでやるよ」


 五十嵐くんはどこまでも上から目線だった。ほかのメンバーもニヤニヤ笑いを浮かべ、俺を完全に舐めきっている。


 俺はEランクダンジョンの攻略に成功した。カードの真価(しんか)を見抜き、自分だけの武器を手に入れた。


 それでもステータスが上昇したわけじゃない。五十嵐くんたちが、俺より実力者なのは変わらない。


 足がすくむ。怖い。臆病者(おくびょうもの)の自分が顔を出す。


 けれど、ここは勇気を振り絞らなくてはならない場面だ。


 もう、こき使われるのはごめんなのだから。


 俺は奥歯を噛みしめ、拳を握りしめ、恐怖を乗り越える。


「悪いけどお断りするよ。俺はバスタードには戻らない」

「「「「……はぁ?」」」」


 五十嵐くんたちが揃ってポカンとした。きっと、俺が断るはずないと踏んでいたのだろう。予想外の返答に困惑(こんわく)しているのだ。


 呆然とする五十嵐くんたちの横をすり抜け、俺は下駄箱(げたばこ)から上履(うわば)きを取り出す。


「待てよ、勝地!」


 スニーカーを脱いで下駄箱にしまっていると、我に返った五十嵐くんが俺を呼び止めた。


「ダンジョンを攻略できたからって調子乗ってんじゃねぇよ。これからも同じように攻略していけるのか? 無理だろ、お前なんかじゃ」


 俺を馬鹿にしながら、五十嵐くんがもう一度要求してくる。いや、命令してくる。


「強がんなよ、勝地。いいから俺たちのパーティーに戻ってこい」

「改めて言うけど、お断りするよ」

「ああ?」


 五十嵐くんが不機嫌そうに顔をしかめた。


 ずっと(さか)らえなかった五十嵐くんに逆らっている状況に、心臓が早鐘(はやがね)を打っている。


 それでも俺は笑顔を浮かべ、意地(いじ)(つらぬ)いた。


「気づいたんだ。きみたちと一緒にいるより、ソロで攻略したほうがずっと楽しいって」


 五十嵐くんたちがなにか言う前に、俺は上履きに足を通す。


「じゃあ、俺は行くね」

「ちょ……っ! 勝地ぃ!!」


 怒声(どせい)を上げる五十嵐くんに背中を向けて、俺は急ぎ足で立ち去った。


 足早(あしばや)に廊下を歩き、角を曲がり――深く深く息を吐く。


「ああー……緊張したぁ」


 なんとか断ったけれど、本当は怖くて怖くてしかたがなかった。恐怖のあまり、両手がプルプルと震えている。


 震える両手を眺めて苦笑し、俺は窓の外に視線を向けた。


「でも、とっても清々(すがすが)しい気分だ」


 窓から見える青空は、俺の心を(あらわ)すように晴れ晴れとしていた。

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