変化とは、常に勇気を必要とするもの。――10
恐怖を気合で押さえつけて、俺はストレージから四枚のカードを実体化させる。
「魔力ブースト、発動!」
MPを得るカードを使用可能上限数まで使用して、MPを260にする。
続け様、抜き放つようにして一枚のカードを用いた。
「『英雄願望トナカイ』、召喚!」
カードが消滅し、一体のクリーチャーが現れる。
王冠に似たかたちの二本角を持ち、赤いマントを羽織ったトナカイだ。
英雄願望のトナカイは立派な格好をしているが、そのからだは痩せ細っており、体長も中型犬ほどしかなかった。
・英雄願望のトナカイ
カードタイプ:クリーチャー
消費MP:60
【ステータス】
HP:30/30
MP:5/5
攻撃力:5
防御力:5
魔法力:5
魔法耐性:5
敏捷性:5
精密性:5
【スキル】
正義の味方:英雄願望のトナカイのHPは、あなたが使役しているHPが5以下のクリーチャー1体につき15上昇し、それ以外のステータスは、あなたが使役しているHPが5以下のクリーチャー1体につき5上昇する。
60ものMPを消費したのに、英雄願望のトナカイのステータスは残念そのものだ。この程度なら、MP消費が10の、マナウィスプや分裂アメーバを複数体喚び出したほうがマシだろう。
英雄願望のトナカイを舐めきっているのか、ハンマーオークが鼻を鳴らし――
『グウゥオオオオオオオオオオッ!』
ドシンッ、ドシンッ、と地響きを立てながらこちらに迫ってきた。
英雄願望のトナカイを舐める気持ちはよくわかる。英雄願望のトナカイはいかにも弱そうな見た目だし、実際に貧弱なステータスなのだから。
「けどさ? ハンマーオーク。人間の世界には『油断大敵』って言葉があるんだ」
ニッ、と笑い、俺は四枚のカードを取り出した。
「カカシ作り、発動!」
カカシを六体喚び出すソーサリー。
英雄願望のトナカイの背後に、六×四=二四体のカカシが一気に並んだ。さながら、将軍に付き従う兵のように。
大量のカカシが現れたが、ハンマーオークは一切怯まない。英雄願望のトナカイに駆け迫り、肩に担いでいた鉄槌を振り上げる。
異変はそのとき起こった。バタバタとマントをはためかせながら、英雄願望のトナカイの体がグングンと膨らんでいったのだ。
痩せ細っていた体がボディービルダーのようにムキムキになる。中型犬ほどしかなかった体長は、ライオンよりも巨大になっていた。
『グォオオオオッ!?』
英雄願望のトナカイの変貌に、ハンマーオークがギョッとする。
本物の王様のごとく立派になった、英雄願望のトナカイは『ルオォオオオオオオオオオオッ!!』と雄叫びを上げ、突撃槍のように、二本の角をハンマーオークに突き込んだ。
『グゥォオオオオオオオオオッ!!』
ハンマーオークの巨体が嘘みたいに吹き飛び、地面を二転三転して広間の壁にぶつかった。
岩でできた壁がベコンとへこみ、ハンマーオークの体がめり込んでいる。
俺は頬を引きつらせた。
「自分でやっといてなんだけど、引くほど強いなあ……」
英雄願望のトナカイがバカみたいに強くなったのは、もちろん俺の仕業だ。
スキル『正義の味方』を持つ英雄願望のトナカイは、HPが5以下のクリーチャーが味方にいればいるほどステータスが上昇する。
上昇する値は、HPが15、それ以外は5。HPが5以下のクリーチャーが並べば、相当強力になるだろう。
問題は、どうやってHPが5以下のクリーチャーを揃えるかだ。
相手モンスターにわざとクリーチャーを攻撃させて、ダメージによってHPを5以下にする方法があるが、都合良くHPが5以下になるかはわからないし、倒されてしまう可能性もある。
そもそもにおいて、大量のクリーチャーを揃えなければなにもはじまらない。クリーチャーを喚び出すにはMPが必要なので、揃えるだけでも大変だ。
『正義の味方』はたしかに強力だが、条件を満たすのが難しすぎる。普通に使った場合、英雄願望のトナカイは活躍できないだろう。
しかし、それは普通に使った場合の話だ。当然ながら、俺は工夫を凝らしている。
『正義の味方』の条件を満たすために俺が選んだカード。それこそがカカシ作りだ。
カカシ作りで喚び出されるカカシは、いずれもHPが5。しかも、一枚で六体も喚び出すことができる。
カカシ作りは、英雄願望のトナカイと相性抜群のカードなのだ。
四枚のカカシ作りを用いた俺は、カカシを二四体使役しているので、英雄願望のトナカイのステータスは、HPが360、それ以外が120上昇した。
結果、英雄願望のトナカイの、現在のステータスは――
【ステータス】
HP:390/390
MP:125/125
攻撃力:125
防御力:125
魔法力:125
魔法耐性:125
敏捷性:125
精密性:125
――となっている。
なにが起きたんだというほどの上昇っぷりだ。こんなやつ、Eランクダンジョンにいてはいけない。相手が通常モンスターなら、Aランクダンジョンのやつとも渡り合えそうなステータスだ。
『英雄願望のトナカイ×カカシ作り』による、強力クリーチャー爆誕コンボ。カカシの弱さを逆に利用したコンボだ。




