はぐれ悪女、パメラ
このお話はR15かなと思います。苦手な方はお気をつけください。
夕方。
私は今日も領内の港に来て情報収集をした。
「ふぅ」
横一面に広がる、港から陸に上がる階段の一番上の段に腰掛けた。海からの風が、くせっ毛のある髪を纏めたポニーテールを揺らす。
風はとても気持ちいいけれど、なんだかスッキリしない気分だった。
「よぉ! はぐれ悪女、パメラ」
「はぁ? 誰のこと言ってんのよ」
港での情報収集の時にこき使っている漁師のロウが、私をからかいにきた。この国に多いクリーム色の髪。整った顔が少しツリ目気味なので、黙っていれば品が良く見えて、モテそうなのにコイツの性格は軽い。
小さい頃から、親の仕事の合間に一緒に遊んでたりしたので、貴族の私にも遠慮がなく、普通にタメ口をきいてくる。
「社交界の悪女は解散。
元メンバーのほとんどの令嬢が結婚したのに、パメラだけまだ結婚してないじゃん」
「私達は〔悪女〕じゃないわよ!?
たまたま、好きな人が一緒だっただけのグループだもん」
そう。私達は〔悪女〕じゃない。
悪女じゃないんだけど、社交界で〔悪女〕と呼ばれていた私達は解散した。
今ではメンバーのほとんどが結婚し、幸せな家庭を築いている。元リーダーのバネッサ様が、夫のジェラルド様を通じて男性にも助言を始めたところ、次々とカップルが成立した。流石バネッサ様。
……喜ばしいことなんだけど、心にポッカリ穴があいたような気がした。
「ウィリアム王子は結婚したのに、まだヤツのために情報収集すんの?」
「それとこれとは関係ないわ。
失恋の痛みは、皆で一緒に紅茶で流したもの。私は、これでもいちおう貴族なの。責任を持って行動してるのよ。
3ヶ月前の嵐で、海のモンスターの生息地域がズレていたら、国の重大問題だもの。
何か変化があったら、すぐ報告しなさいよ」
「へぇ。仕事熱心なんだ〜。
それにしても、失恋の痛みが本当に紅茶なんかで流せんのか? 貴族って、すげぇな」
「本当に、紅茶で流せたんだから!
バネッサ様は凄いのよ!!」
ロウがいまいち「信じられない」という顔をするので、私は「ふんっ、だ!」と言って階段に座っている体勢から、上半身を後ろに倒して、寝っ転がった。砂が服や髪につくだろうけど、気にしない。
力を抜いて空を眺めれば、雲が夕日に赤く染まって、風に流されていくのをが見える。なんだか私の心も流れていくようだった。
「……パメラ。そんな所で寝っ転がっていると――――」
「服が汚れるって言いたいんでしょ?
払えば落ちるし、私は気にしないわよ。
それに、お昼休みとかここで寝っ転がっている人いるじゃない」
一応貴族だから、“品のある行動を”と思って、今まではこんな所で寝っ転がったりしなかった。だからロウは気にしてくれたんだろう。
でも、今は何も考えずに空を眺めたいと思った。
「そうじゃなくて、そんな所で寝っ転がっていると、俺が襲っちゃうよって言いたかったんだよ」
「!!」
私の右側に座りながら、サラッとなんてこと言うの!
しかも、寝っ転がる時に広げた私の右手の近くに、ロウは左手をついて少し振り向き、こっちを見てる。
何故だろう?
……は、は、恥ずかしい!!
ロウは夕日を背にしてるから、顔が影になって表情がよく見えず、大人っぽい雰囲気がする。
ふれてるわけじゃないのに、妙にロウの左手が気になった。
手を置くにしても、なんでわざわざ私の右手のすぐ近くに左手を置くのよ!
こ、この距離の縮め方ってどうなの!?
私が意識しすぎなの!?
なんだか、自分がひどく無防備な気がして、顔が赤くなっていくのが自分でもわかった。
誤魔化さなきゃ……誤魔化さなきゃ……!
「あっ、ロウだ!
ロ〜〜ウ!! 船長が後で家に寄ってけって!
その後、うちにも寄ってって〜!」
私が混乱していると、女の子が遠くからロウに声をかけた。
その口ぶりからして、ロウとは仲が良さそうだった。
「お〜〜」
ロウが気の抜けた返事をしてるから、気を使わない間柄の子なんだと思う。
なんだか腹が立ってきた。
こっちはドキドキして、平静を装おうとしているのに、ロウはめっちゃくちゃ普通!
とっても腹が立ったので、ガバっと起き上がってロウにキスしてやった。恥ずかしいので頬がせいいっぱいだったけど、ちょっとは動揺すればいいのよ! そしたら、からかってやるんだから!!
「私は元悪女のメンバーなのよ?
襲われるんじゃなくて、襲う方なんだから!」
言ってやった! 言ってやったわ!!
ロウの顔を見ると、ロウは頬に手をあてて驚いていた。
「……え?
俺、今、……襲われたの?」
“これで?”という、ロウの心の声がダダ漏れの顔をしていた。
腹が立つ!
何で今日はこんなに腹が立つのしら?
悔しくて仕方ないから、「くわっ!」と目を見開いて、
「そうよ!
私は、今、ロウを襲ったのよ!!」
と、返事した。もはやヤケクソだった。
すると、ロウはまた驚いた顔をした。
あれ? 私をからかわないの?
「…………俺。
これでも、純情ボーイなんだよ……」
「?」
ロウが私の左手を、両手で握りしめた。
「パメラに襲われたから、もうお婿に行けない。
責任取ってくれる?」
ガシッと掴まれて、左手が動かせなかった。
……お、お金をせびるの?
ロウは実は、そういうヤツだったの!?
っていうか、普通は“お婿に行く”って言わないわよね? お嫁に来てもらうんでしょ?
ふと、気がつくと、私の左手の薬指に指輪がはめられていた。
「……俺と結婚して?」
「!!」
「貴族は責任ある行動をとるんだよね?」
ロウが私の左手に「ちゅっ」とキスをした。
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
そこからは、とても早かった。
皆から「おめでとう」と言われた。
このあと寄った船長の家では「こいつパメラお嬢様が失恋するたびに、いつでも告白できるように指輪を持ち歩いていたんだよ! ガハハ!!」とか言われるし、次に寄った女の子の家では「こうなると思ってた」とニヤニヤされた。
私の両親は「昔からロウはパメラのことが大好きだったから、許す!」と言われ、あっという間に結婚。
人懐っこい性格なので、ロウはすぐに社交界にもとけこんだ。
「ねぇ、パメラ。
俺、軽い性格だし、恋に臆病な男だけど、諦めの悪い男なんだ。
パメラと二人で幸せになることは、これからも諦めないから、二人で幸せになろうね?」
番外編もお読みくださり、ありがとうございました。
タイトルが浮かび、番外編を書いてみました。