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悪女は紅茶に薬を一服盛る

ねんのためR15をつけたしました。

苦手なかたはお気をつけください。


タイトルを見て薬系はちょっと苦手だなと思うかたは、お控えください。

 その日は朝からいそがしかった。


 ウィリアム王子の側近そっきんのジェラルドは、王宮をあちこちと走り回っていた。黒髮で切れ長の目、愛嬌あいきょうのない仏頂面ぶっちょうずらで高身長の彼が走り回ると迫力はくりょくがあり、通りかかった人はみなあわててけた。

 元々あれこれと忙しい方なのだが、今日はウィリアム王子の婚約発表ということもあり、特に忙しかった。


 まさか、こんなに早く婚約になるなんて思わなかった。

 パーティー会場でウィリアム王子がマルグリット・ブロンジーに一目惚ひとめぼれ。「一昔前ひとむかしまえのドレスを着ているから、あまりお金に余裕よゆうのない家柄いえがらのようですよ」と忠告ちゅうこくすると、「そんなの気にならないぐらい彼女はかわいい」と王子は言った。


 それからは、使者ししゃまかせればいいのにみずからブロンジー領の様子を見に行ったり、毒見もなしにその地のパンを食べたり驚きの連続だった。


 彼女が「もう支援しえんは必要なくなりました」と手紙が来たときは大変だった。

 普通は謁見えっけんの申込みがあったら3ヶ月は先きになるものなのに、「すぐに会う」と言って無理やり時間を作った。「悪女達が僕の恋のライバルだった。嫉妬しっとでこの身が焼けげそうだ」とか、普段立派な王子の色んな顔を見て、恋って凄いなと思った。

 色々と過去を思い出しながら走っていると、ウィリアム王子の声が聞こえてきた。


 おかしい。


 今、王子は婚約者のマルグリット様と一緒に、王子の部屋で休憩きゅうけいをなさっているはず。だから、その間にませたい仕事にけずり回っているのに、客室から王子の声がするなんて……?

 客室のドアが少し開いているので、声が聞こえてくる。



「バ……、バネッ……サ!

 お茶に…………いっ……たい、なに、を……」


「ホホホホホ。それは〔()()()()()()〕ですわ」



 これはヤバイ!

 絶対ヤバイやつだ!!

 思わず客室のドアをいきおいよく開けた。ノックもなしに客室のドアを開けるなんて失礼なことなのだが、そうもいっていられない。


 あるじのピンチ! 


 中に入れば、社交界で「悪女」とうわさされるバネッサがいた。「体が熱くなってきだでしょう? フフフフフ」とか言っている。


 床に転がるティーカップ。

 顔を赤くして、苦しそうにもだえるウィリアム王子。


 マルグリット様は「いいかたなんです!」と言っていたが、バネッサはとんでもない悪女じゃないか!!

 俺は急いで王子を抱きかかえ、とりあえず王子の視界にバネッサが入らないようにする。



「しっかり! しっかりしてください殿下!!」



 とにかく、ここにいては危ない。

 飲まされた何かが、王子の体に回りきる前に避難ひなんしなくては!

 王子を避難させようとしたとき、突然とつぜん頭をつかまれ、口に紅茶を流し込まれた。



 不意をつかれた!!

 くそっ! 悪女め!!



 体に力が入らない。

 そして、のどの奥で「パキンッ!」と音がった。普通は喉が「パキンッ!」って鳴らない。

 これは本当にヤバイやつだと絶望したとき、「フッ」と体が軽くなった。



「あ! 体が軽い……」



 そういって驚く王子の声が聞こえた。

 見上げると、王子の顔はもう赤くない。



「〔()()()()()()〕ですわ!」


「……は?」



 バネッサが言うには、ウィリアム王子が風邪をひいたようなので彼女のおかかえの医師が作った〔元気になる薬〕を持ってきたらしい。

 苦い薬が苦手なバネッサのため、お抱えの医師は薬を作るとき、彼女が飲みやすいように甘い飲み物になるように作ってくれるとのこと。

 王子の顔が赤かったのは、風邪で熱が出始めたから。

 俺にも飲ませたのは、疲れた顔をしていて風邪を引きそうに見えたから。




 まぎらわしい!!




「体調管理はしっかりなさってくださいませ。

 私、本日の婚約発表を楽しみにしておりますの。

 お友達の晴れ舞台ですのに、殿下が〔体調不良のため延期えんき〕とか、〔熱にうなされながらの発表〕なんて嫌でしてよ?」



 そう言い残して、バネッサ・バルババロワは立ちった。


 確かに〔いい人〕だけれども……。

 なんだかくやしい思いでいっぱいになった。

 俺の心がすさんでいるのだろうか?

 っていうか、厳重げんじゅうな警備の中、どうやって城に入りんで王子に紅茶を飲ませたんだ!?

 本当に恐ろしい女だ!






 バネッサのおかげもあり、婚約発表は無事に終わった。

 彼女の手柄てがらでもあるので、おれいに行かなければならない。


 でも、まだバネッサは信用しきれないので王子には城にいてもらって、俺だけでバルババロワ邸をおとずれた。

 マルグリット様がおっしゃっていたとおり、そこでは悪女たちがお茶会を開いていた。



「ステキですわよね。シリウス様……」

「ええ。あのキリリとした瞳」

「他人をせつけないオーラ」

「そうです。とても素敵すてきなかたです。素敵なかたですが! シリウス様にご挨拶するのは至難しなんわざです。

 今まで一番難しいと思われます。皆様、覚悟かくごしてくださいませ」

「そうなんですのね。硬派こうはな所もまた素敵ですわ」

「浮気の心配がなさそうで、良いことですわ」



 庭に用意してあるテーブルについて、会話をはずませている。今度はシリウスという男を追いかけ回すつもりらしい。


 ……おいおい。

 ついこの間までウィリアム王子にまとわりついていたのに、婚約が決まったとたんにこれか!

 ずっと王子を好きでいろとは言わないが、もうちょっと、こう……。時間を置いてから次の恋に向かえばいいものを、この次の恋に切りわる早さが、社交界「悪女」と言われる原因なんじゃないのか? 俺はイライラした。



「お言葉ですが、バネッサ様。

 次の恋に向かうのは早くないですか? あなたがたがそんなだから、〔悪女〕とうわさされるのです。

 以前から見ておりましたが、パーティー会場でのバネッサ様の目は、獲物えものねらたかのようですよ?」


「……以前から()()()()?」


「えぇ。あなたは社交界では危険人物です」


 冷たく返事すると、バネッサの顔が赤くなった。「自分が社交界での危険人物」と知って、怒りがみ上げてきているのだろう。

 だが、誰かがおしえてあげなければ、彼女はこれからも空回からまわりを続ける。



「私……、いつもまわりをよく見るように気を配っておりましたが……、()()()()()になったのは初めてですわ」



 戸惑とまどうように感想をべるバネッサの顔が、どんどん赤くなっていく……。

 それを見て嫌な予感がして、鳥肌とりはだがたってきた。



「皆様。……ごめんなさい。

 私、次の恋は、皆様と御一緒できません」



 バネッサの決断は、良いことだと思う。

 なのに、寒気が止まらなくなった。



「今!

 私の胸の中で、幸せのかねが鳴り響いています!!

 それはもう!

 うるさくて、他に何も聞こえないぐらいに激しく鳴っているのです!!」


「まぁ! バネッサ様!!」


「それは、もしかして!?」


「そうです!

 私は、今、恋に落ちました!!」


「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ! ステキ!!」」」」」



 悪女たちの歓声が、庭に響き渡った。

 

 待て待て待て待て待て!! 勘弁かんべんしてくれ!

 こんな恐ろしい女にかれてたまるか!!


 悪女の軍団をまとめあげる女だぞ!?

 その統率力はすさまじく、必ず悪女メンバー全員がターゲットの男にアピールして帰るという、作戦達成率の高さ!

 メンバーが結婚して欠員が出ても次々と新人は入ってくるし、どこから仕入れたのかわからないほどの情報収集力!

 ターゲットの次の行動を予測する観察眼!

 こんな女に好かれてみろ! ……って、ん?


 ここで、一つのことに気がついた。

 このおそるべき能力を国のために使ったら……、強力な味方になるのではないだろうか?

 チラッとバネッサを見ると、顔を赤くして目をキラキラさせている。


 かわいい。


 顔は美人だし、頭がいいから冷たい印象いんしょうが強かったけれど、恋をすると女性は可愛かわいくなるのか……。

 ううぅん……しかし!



「バネッサ様。

 申し訳ないが、俺はあなたの告白を受けるつもりはない」


「そんな!

 たった今、恋に落ちたばかりですのに!!」


「男のプライド的に、あなたが俺を手に入れるという形は、受け入れがたい」



 俺はバネッサの足元にひざまずいて、そっと彼女の手を取った。

 すると、彼女は目を見開いて驚いた顔をし、驚きすぎて口をあんぐりと開けたまま固まった。これから俺が言う台詞せりふを予感して、動けなくなっているようだった。


 そう。俺はバネッサからの告白を受けるつもりはない。彼女が俺を手に入れるのではない!

 国のために!

 俺が告白して、俺が彼女を手に入れる!!



「バネッサ・バルババロワ。

 どうか、俺と結婚してください」



 丁寧ていねいにそう伝えると、「きゃぁ!」という歓声があがった。

 これでいい。

 バネッサに告白されて、それを受けたのでは俺が押されまくって根負こんまけしたみたいじゃないか。

 結婚前からしりにしかれるのは勘弁かんべんしてほしい。


 気がつけばバネッサの手はふるえていた。

 そっと彼女を見上げれば、涙を流して顔をにしていた。

 こちらが何かするたび反応はんのうがあって、彼女を見ていると(あぁ、生きているんだな)って思う。

 もっともっと、バネッサの色んな顔が見てみたい。


 まさか、これが…………恋!?


 ふと、政治的戦略が頭に浮かんだから(彼女も俺に恋に落ちたと言ってたし)結婚を申し込んでみたが、まさかその最中に恋に落ちるとは!

 こんなに短い時間で結婚の申込みをするとは思わなかった。それすらも恋のせいなのか!?

 とりあえず、俺はバネッサの返事をった。



「…………はい。喜んで!!」



 その言葉を聞いて立ち上がり、俺はバネッサの両手をにぎった。彼女にれたくて仕方しかたなかった。







□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□




「……と、いうわけで、ジェラルド様は私の反応はんのうを見ていると、〔生きている〕って思うらしくて、すぐちょっかい出してきますのよ?

 まるで子どもみたいですわ」



 あれから一ヶ月。

 バネッサ・バルババロワ様はジェラルド様と結婚した。

 私とウィリアム王子は、王族の伝統儀式があるそうなので、結婚式は早くて二ヶ月後。

 あっというにバネッサ様に先をこされた。


 今日はお城のお庭で、悪女と呼ばれていたメンバーの皆様とお茶会を開いている。

 バネッサ様がメンバーからけた時点じてんでグループは解散かいさん。「悪女」と呼ばれていたグループはもうない。

 でも、あの日の約束通り、私達のきずなだけは残っていて、時々お茶会を開いて集まっている。



「……ですからね? 『私はおもちゃじゃありません!』って、プリプリ怒ったりしますの。

 でも、それすらもジェラルド様には新鮮しんせんに見えるみたいで、喜んでますのよ?

 今までは、好きな人の迷惑にならないようにと、色々と気をつけておりました。けれど、ジェラルド様には思うままに感情をぶつけておりますの。

 遠慮えんりょのない間柄あいだがらっていうのかしら?

 私、今とっても楽に自分を出せますの。

 ジェラルド様は本当に素敵すてきなかたです」



 お茶会で私達は、おたがいの惚気話のろけばなしを楽しく聞いている。

評価ポイント、ブックマーク登録、いいねボタン。

とてもはげみになります。

入れてくださったあなたにありがとう(ノ◕ヮ◕)ノ*.✧



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