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調査5-2 西洋の魔女

 オルカは深刻な顔で俺を見るなり耳元で囁いた。


「おいケンタ..! お前知らねえのか? 西洋の魔女の言い伝えを..!」

「西洋の魔女の言い伝え? 知らん」


 当然ながら知るわけがない、この世界の人間じゃないのだから。まあしかしこんなにマジな顔で言われると気になって仕方がない。


「昔から西の都出身の女魔法使いは災いを呼び寄せると言われているんだ、何百年も前に西の魔女が都の人々を皆殺しにしたとかなんとかでそこからそういう言い伝えが広がったらしい。悪い事は言わねえからあいつはやめとけ」


 ここでようやく俺がストレガに声をかけた時に冒険者達が俺を見た理由が分かった。確かにその話が本当だとすればかなり怖いが何百年も前の話だろ? 俺は特に気にする事もなくオルカの肩を軽く叩いた。


「心配すんなって! 俺を誰だと思ってる? 数多の悪女を手懐けてきた男だぞ? 余裕余裕!」

「おいケンタ! まだ話は..!」


 オルカはまだ何か言おうとしていたが、俺はそれを無視してリサ達のところへ向かった。オルカは心配そうに俺を見ているがあんな可愛くて内気な子がそんなサイコパスな訳がないだろ。


「おーい! いいクエスト見つかったか?」

「おう! うってつけのクエストを見つけたぜ!」


 そう言ってリサが持っていた依頼書にはグリーンゴブリン7頭の討伐と書いてある。どうやら街の作物を荒らしに来るそうで住民が困っているとのこと。 ハリヒャクマンボンの討伐は正式にストレガをパーティーに入れたら考える。そんなこんなでこのクエストを受ける訳だが、ストレガの事はリサに話した方がいいだろうか? いや..まあ本当かどうかも知らんしいっか。


「冒険者ケンタさんとリサさん! と..貴方は魔法使いのストレガさん..? ご..ご武運を..」


 いつもは元気にクエストに送り出してくれる受付嬢もストレガを見た途端にあからさまに声が小さくなった。そんなに西の魔女は恐れられてるのか? ちょっと怖くなってきたけどとりあえず俺たちはゴブリンの出現した場所に向かった。


「誘っていただき本当にありがとうございます。パーティに誘われることは何度かあったんですけど..うまく馴染めなくて..」


 向かう途中、ストレガが頭を下げて言った。ん? ちょっと待て..パーティ組んだことあるのこの子? となれば話は変わってくるぞ。西洋の魔女だからと言う理由で避けられているわけじゃないってことだよな? なんか妙に胸騒ぎがして来た。リサはストレガに顔を上げるように言って続けた。


「大丈夫だ! うちらはゆる〜くやってっからさ! 気楽にやってくれよな!」

「はい..! 頑張ります!!」


 いやでもそんな訳はないよな..だってすんごい良い子じゃん。やっぱり何かの間違いだ..! あいつらもきっと可愛い子がうちのパーティに来るのに嫉妬して言ったんだろう。あいつらそういうとこあるからな。リサを割とエロい目で見てる奴もちらほらいるし。


「おいケンタ! いたぞ!!」


 リサがそう言って指差した先には数体の緑色した二足歩行のモンスターがいた、ゴブリンだ。アニメとかで見たまんまだ、あのちょっと憎たらしそうな感じと不潔さはやっぱり本当だったのか。


「ケンタさん! リサさん! これは私にやらせてください! できる女だっていうところ..見せないと!」


 その時、ストレガが俺たちの前に立ってゴブリンに向かって杖を構えた。その魔法使いです候と言わんばかりの長くて黒い棒に、先っぽには赤色の宝石のようなものがついた杖がいかにもって感じでカッコいい。


「黒魔術..アバダ・ケダブラ!!」


 そしてストレガが呪文を唱える。でもなんだろう、あの子今黒魔術って言った? 詳しいことは分かんないけど黒魔術ってなんかヤバいやつじゃなかったっけ? 少なくとも可愛くて健気な女の子が使うような物では無いよな? 俺の頭の中にオルカが言っていた事が走馬灯のように蘇る。


「ぐぅおぉぉ〜..!!」

「ぐぎゃあぁぁぁぁ!!」

「ぶぅおぁぁぁぁ!!」


 ストレガが呪文を唱えた直後、ゴブリン達は断末魔のような悲鳴を上げながら地面にのたうち回る。その様はまるで戦慄..いや..地獄..俺とリサは冷や汗を掻きながら見つめ合う。珍しくお互いに何かヤバい空気を悟ったのか目で通じ合った。術を使ったストレガはこちらを振り向いてニヤリと笑顔を見せて..


「どうでした? ゴブリンの叫び声で奏でるコンチェルトは? 気に入って頂けなかったのでしたら、もう一度お見せ..」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!! 魔女ぉぉ!!」


 俺とリサはあまりの恐怖にその場から逃げ出した。待て待て怖すぎだろあの子..!! あれは本物だ..! 西洋の魔女だ..! なんだよゴブリンの叫び声で奏でるコンチェルトって!! 意味分からんし怖すぎだって!


「ケンタ! あれヤベェやつだ! 関わっちゃいけねえやつだ!」

「ああ分かってるよ! お前が言うくらいだから間違いねえよ!」


 そして俺たちは森の中に逃げ込み、息を殺しながらも木の影に身を潜めた。しかし怖すぎて考えもなしに逃げてしまったけど、ギルドに帰ったらまた会う事になるよな? そうなったらきっと俺たちは断末魔でコンチェルトを奏でさせられるんじゃないのか? ここまで来たらもう拠点の移動を考えないと..


「どうして逃げるんです..? 2人とも..」


 誰かが俺たちの耳元で囁いた。最初はリサかと思ったがあいつはこんな声じゃない..そうなれば考えられるのは1人。俺とリサはその顔を見るなり。


「いやぁぁぁ!! 出たぁぁぁ!!」





「御三方..! クエストお疲れ様でした..! こちら報酬金になります..!」


 結局逃げ切れるわけもなく俺とリサはストレガと一緒にギルドに帰ってきた。受付嬢が妙に引いているのも俺とリサが引き攣った顔をしているからなんだろう。しかしこれで分かったわけだ、この子は本物だと..

とりあえず俺たちは酒場の席に座った。リサはストレガを横目に俺の耳元で。


「どうするよ? こんな狂気じみた子、パーティに入れたら何しでかすか分かんねえぞ?」


 俺も小声で。


「分かってるよ..! それとなくやんわりとお断りするから..!」


 そして俺は視線をストレガに戻す。ストレガは下を俯いたまま肩を狭めてもぞもぞとしながら座っている。すごく申し訳ないけど俺は覚悟を決めて断る事にしたのだが..


「あ..! あの..! やっぱり私怖かったですよね..? 自分でも分かっているんです..モンスター相手になるとついテンションが上がってしまうというか..やり過ぎちゃうというか..それでいつも怖がられちゃって..」


 俺が断ろうと声をかけようとしたところで、ストレガが目をウルウルさせながら話し始めた。あかん、可愛い..しかしクエスト中の彼女はまるで西洋のそれだ。胸が苦しくなるが俺はもう一度覚悟を決め話し始めようとしたのだが..


「私..昔から西洋の魔女だと言われてどこのギルドにも入れてもらえなかったんです..だけどここの人たちは暖かく私を受け入れて下さったのに..私..グスッ..」


 そう言ってストレガは鼻を啜りながら静かに涙を流し始める。何この子..ずるいじゃん..その顔で泣きながらそんな事言われたらもう断れないじゃん..


「えっと..これからよろしくね..?」


 女に免疫のかけらも無い俺は断れず言った。リサはマジかよこいつみたいな顔で俺を見ている。


「リサ..か弱い女の子が泣いてるのに、断る理由があるか?」

「いや..お前絶対断りづらくなっただけだろ..」


 ストレガは涙を拭いキラキラの笑顔で俺たちを見て言った。


「本当にありがとうございます!! 西洋の魔女改め..! いや..魔法使いストレガ、命をかけて尽くします!!」


 いや今絶対自分の事魔女だって認めたよな? ていうか命までかけられるとすごく困る。こうしてストレガがパーティに加わった訳だが、その後にオルカと話をした時聞いた話では、西洋の魔女がどうたらって話なんて大した事じゃ無いらしく、問題なのはどうやらこのストレガという女の子がかなりヤバいからという事らしい。何がどうヤバいかまでは知らないらしいけどなんかとりあえずヤバイらしい。これからどうなっちゃうの....





 


 



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