調査5 西洋の魔女
盛大に宴を開いた翌日、俺はこっぴどくリサにボコられた。結局インフェルナスさんに立て替えてもらっていた20000ゴージャスを支払い残りの金額は10000ゴージャス..そしてリサは美肌効果のあるポーションが無いとこの街を破壊するとか言い出す始末..結局残ったのは4千ちょっと。馬小屋は脱却したもののボロい宿に一泊しかいられないわけだ。そんなこんなで俺とリサは小さな豆電球がパカパカする宿のちゃぶ台で正座をしていた。
「まあ..馬小屋は抜け出せたわけだし! ベットあるだけでもマシだよね!!」
「なんも良くねえよ! ほんとだったらちょっと良い宿で数ヶ月は暮らせただろうが! 誰かさんが調子乗って宴なんて開いたせいで一文無しだしな!」
「誰かさんが美肌ポーションなんて買わなきゃもうちょっと良いとこ泊まれたけどね?」
「んぁー?」
さっきからずっとこの調子で不毛な争いを続けている。ここまでろくな生活をしていない俺たちなら無理もないだろう。リサは大きくため息をついて言った。
「はぁ..過ぎたこと考えてても仕方ねえよな..ていうかケンタは科学者なんだから頭いいんだろ? 金の稼ぎ方とか考えらんねえの?」
「科学者なんて肩書きだ。賢い奴の過去の論文を丸パクリしたらなってただけの話..」
リサは呆れた顔で俺を見て。
「最低だな..」
「ああなんとでも言ってくれ..つーかそういうあんただって科学者じゃん」
「私は親が優秀な科学者だっただけの話。高校も中退してるしな」
俺はため息をつく。珍しく沈黙が続くなかリサが。
「笑わねえのかよ..?」
「笑ってほしかったのか? 俺だって大学中退してるし、高校の成績も良かったわけじゃねえから人の事言えん」
その場がなんか変に気まずい空気になる。話題を出そうと頑張ってみたが無理そうだ。そんなふうに考えていると、突然リサが噴き出して笑った。
「ぷっ! w 私らとんだ落ちこぼれコンビじゃねえかよw なおさら地球に帰んねえとな!!」
つられて俺も笑う。
「ぷっ!w はっはっ!w ほんとそれ! 地球帰ったら大富豪になってやんだからな!w」
リサのポジティブさには度々驚かされるが、たまにこうして救われたりもする。俺はちゃぶ台を両手で強く叩き立ち上がる。
「そうとなればクエストだ! もっと強いやつを討伐して荒稼ぎだぁ!!」
「そうだな! デストロイの力みせてやらぁ!」
謎に絆が高まったところで俺たちはギルドに向かった。
「あんな強力なパンチ持ってるならなんでも行けるっしょ! これにしようぜ!」
ギルドに着いた俺はクエストボードに貼ってある1番でかい依頼書を指差した。クエスト内容はハリヒャクマンボン1頭の討伐と書いてある。名前に引っかかった俺はリサに。
「ハリセンボンの間違いじゃねえの?」
「そのまんまじゃねえの? 針が100万本生えてるって事じゃね?」
さすがは異世界、スケールが向こうの世界とは違う。まあしかし、このクエストはD級で最も難易度の高いクエストだからなのか報酬金が異常に高い。これをやらない手は無いだろう。
「よしリサ、これ行こう」
「っしゃあ! なんでもかかってこんかい!」
そして俺たちは受付に行き依頼を受けた。受付嬢はお前ら正気か? みたいな顔で見てくるがこの女は知らない。リサの恐ろしい力を。この前のスライム討伐のやつだってあの後東の大草原に隕石が落ちたと話題になっていた程だ。俺たちなら..いや、リサなら出来る!クエストに向かう直前に受付嬢が紙切れを渡してきた。
「こちら生命保険の申し込み書になります! 左のカウンターにペンがありますので」
「いや..? 要らないよ? 喧嘩売ってる?」
俺は受付嬢をあしらってギルドを出る。そして西の沼地へと赴いた。
「いたぞ..! 絶対あれだ」
「巨大なハリネズミ..?」
見た目はハリネズミを巨大化させたような見た目で全身に無数のハリが生えている。間違いないあれだ。俺は小声でリサに言った。
「リサ、準備はいいか?」
「おう、任せとけ」
そして俺は大きく深呼吸して叫んだ。
「やーい! ハリヒャクマンボーン!! こっちだよぉ!!」
ハリヒャクマンボンは形相を変えてこちらに向かってくる。作戦通り俺はモンスターの注意を引きつけた。あとはリサ自慢の魔人の鉄槌をかませばミッションクリアだ! 俺は必死に逃げながらもリサに叫ぶ。
「いまだぁ! リサぁ!!」
叫んだのにリサは攻撃をしようとしない。俺はハイエナに狙われる小動物の如く逃げ惑う。何やってんだあいつ?
「おい!! リサさん!! ....リサ様ぁ!?」
何度叫んでも攻撃する気配がない。すると、リサが大きな声で叫んだ。
「わりぃ!! 無理!!」
「はぁ?!」
「だって殴ったら針刺さるじゃん!! こいつには近づけねえ!!」
「嘘でしょぉぉぉぉ!!」
「任務失敗です! お疲れ様でした!!」
受付嬢が清々しいくらいに言った。そうだよ、俺たちは尻尾巻いて逃げてきたんですよ。だってあのモンスター近接効かないもん、無理だもん..俺はリサの肩を軽く叩いて言った。
「攻撃魔法使えるやつ仲間にしよ..」
「ちくしょぉ..お前攻撃魔法使えねえの?」
「スキルポイントは回復魔法に全振りしたんだ。得意分野を伸ばした方が得策じゃん?」
とは言ったものの、コミュ障の俺に出来るのだろうか? 女の子に声かけるのはハードルが高いし、男に声かけても意識高い系の男冒険者だったらしんどいし..俺は迷っていた。
リサは俺を急かすように言う。
「なぁ、早く声かけろよぉ、私が行こうか?」
「いや! 俺が行く! リサが声かけたってみんなビビって逃げちまうだけじゃねえかよ!」
途方に暮れていた時、ギルド内の酒場の隅で座っている魔法使いっぽい女の人を見つけた。1人でいるしこれなら行けるかもしれん..!
「お姉さん..ちょ..ちょっといいかな?」
「は..はい..?」
え? なんか思っていたより可愛い。黒髪ショートにぱっちりとした瞳、いい肉付きの体に魔法使いのようなローブを纏うその姿はまるで魔法学校のマドンナ。しまった..隅っこで一人ぼっちで座っていたから陰気くさい女かと思ったけどすごい美人じゃん..急に緊張してきた俺は童貞感丸出しでおどおどしてしながらも言った。
「ぼ..僕たちとパーティー組まない?」
緊張のあまり声が裏返ってしまったが、声をかけただけでもかなり上出来だ。しかし何故だろうか? ギルド内の冒険者たちがざわざわしながら一斉に俺を見ている。俺そんなに凄いことしたのか..? するとリサが冒険者たちに。
「んだよ!! 見せもんじゃねえぞ!!」
その一言で冒険者たちは各々の作業に戻る。
「あのぉ..私に関わらない方がいいかと..」
その時、声をかけた女の人がボソッと言った。何故そんな事を言うのか分からなかった俺は聞いた。
「そんなに謙遜しなくても..俺たちもしがない冒険者だからさ? 貴方魔法使いだよね?」
「ま..まぁ、一応..」
うまく会話が続かずどうすればいいか戸惑う俺にリサが小声で言った。
「お前ほんと童貞だなぁ..! こういう子はデリケートなんだよ..! きっと内気な性格から周りに馴染めなくて孤立しちゃったタイプだ..! もっと優しい声かけらんねえのかよ..!」
そう言うと、リサが女の人の前に座り優しい笑顔をして。
「まあなんだ! 性格はどうしようもねえっつーかさ、それも個性じゃん? 私たちは気にしないよ! とりあえず一緒にクエスト行ってみねえ?」
女の人は少し戸惑いながらも頷いた。そして丁寧な言葉遣いで淡々と話しだした。
「わたくし、ストレガと申します。年は18歳で西の都パンツェッタから来ました。ジョブは一応魔法使いです。こんな私でも宜しいのなら是非一度お供させてください」
うん、なんて健気で礼儀正しい子なんだろう。ここんとこ金髪ギャルの品もクソもない口調を聞いていたので耳が心地いい。しかし22歳の俺が未成年の子を連れ回すのはこっちの世界の法律ではセーフなんだろうか?
「ケンタ! ちょっと..!」
その時、この前の宴で意気投合した同じD級冒険者のオルカという名前のやつが声をかけてきた。
「なにw 友達できたん?w 先クエストボード行ってるからなぁ」
「茶化すなよ! 簡単なやつにしといてな!」
リサとストレガは先にクエストボードに向かう。そして俺はオルカと話を続けた。オルカは深刻な顔で俺を見つめた。
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