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調査4 いざクエスト!

 晴れ渡る真っ青の空、広がる大草原、心地よい風、そしてスライムの大群..え? スライムの大群? ちょい待って聞いてないんだけど! 5匹って書いてあったよねあの依頼書、どういうこと!?


「ちょっとリサさん? これ話と違うよね?」

「私に言われても知るかよ! どうすんだこれ!」


 その時俺はインフェルナスさんの言葉を思い出した。この時期はモンスターの繁殖期で、特にスライムがクソほどに増えると言っていたことを..それにしてもこれは増えすぎでしょうに..! しかし隣にいるのはリサとは言え女だ。ここでやらなきゃ男の名が廃る。俺はヒーラーとは言え魔法が使えるんだ! 初期ステータスにもファイアーボールって書いてあったし! 俺は自慢の杖を握りしめスライムの大群に向けた。


「ファイアボール!!」


 [ポンッ..プシュ〜]


 申し訳なさ程度にちょっと出た炎は一瞬燃え上がりすぐに消えた。俺は何事もなかったかのようにもう一度杖を構えた。


「ファイアボール!!」


 [ポンッ..プシュ〜]


 俺は数秒黙り、リサを見て満面の笑顔で。


「ちょっと出た!」

「ちょっと出たじゃねえだろ!! 大道芸人でももうちょっと出せるぞ!!」


 そんなはずがない、あっちの世界ではパッとしないモブEくらいだったとしても、仮にも異世界からやってきた男だ。こんなガス欠のコンロみたいな炎しか出ないなんておかしいだろ..


「ファイアボールファイアボールファイアボール....ファイアー!! ボー..」

「もうやめとけや! 惨めなだけだろ!!」


 気が狂ったかのように技を唱え続ける俺を遮ぎるようにリサが言った。スライムの大群も気を遣ってくれていたのか動きを止めていたが、技が出ないとなった途端血相を変えたかのように再び押し寄せてくる。ああ..これで俺の異世界ライフも地球の任務も終わりを告げる訳だ..思い返せばいい人生..ではなかったなぁ..俺はリサに涙目になりながら声を震わせて。


「リサ..お前だけでも逃げてくれ、こいつらは俺が引きつけておくからさ..地球帰ったら俺の両親に伝えといてくれ、神棚にお供えしてあったチョコレート食べたの俺だって..それから唯一の親友だっ..」

「いやなげえよ、まあけど..お前も男らしいとこあんじゃん! じゃあ!」


 リサは俺の遺言を最後まで言わせてくれる事もなく、そのまま走っていった。せめて一緒に残るフリくらいはしてほしかった所だが、俺は大きく深呼吸した。そして。


「やーい! スライム!! 鼻水みたいな見た目しやがってかかってこいよぉ〜!!」


 スライムの迫り来るスピードが尋常じゃなく早くなった。流石にこれは逃げられない。もう限界かと俺は立ち止まり、スライムの大群の方を向いて両手を広げ呟いた。


「さようなら異世界! 生まれ変わったら容姿端麗の超エリートビジネスマンにでもなりたい..」


 [ドッカーーーンッ!!]


 その時だった。激しい轟音と共に目の前が砂埃で見えなくなった。あまりの衝撃に大地が揺れている。なんだ..? 隕石でも落ちたのか..? 俺は目に砂が入らないように微かに目を開けた。


「ん..? 女..?」


 微かに女のような影が見える。徐々に辺りは落ち着き、鮮明に見えるようになったところでようやく気づいた。


「え?! リサ?!」

「私が尻尾巻いて逃げるとでも?」


 さっきまでうじょうじょいたスライムが跡形もなく消し飛び、まるで巨大な隕石が落ちたかのように大地が円形に抉れている。そうか..これがデストロイの力..恐るべしこの女。俺は涙目でリサに抱きついた。


「姉ざぁ〜ん..!! 死ぬがど思っだぁ..!!」

「おい..! 抱きつくんじゃねえよ!! 鼻水が付くだろうが!!」


 リサは抱きつく俺を蹴り飛ばし、睨みつけながら円形に抉られた大地を指差して言った。


「これがデストロイねぇ..加減ができねえ..あんまり調子こいた事抜かしたらあーなるからな?」

「以後..気を付けます..」


 俺が素直に謝ると、リサの険しかった表情が笑顔に戻り、拳を握り俺に差し出した。


「だっはっはっ! 冗談だっつーの!w ほら、私たちの作戦勝ちだろ? 庇ってくれてありがとな!」

「作戦勝ちなのか..?」

「ケンタが敵を引きつけて私が一気にたたく! れっきとした作戦だろ? ほら、メソメソしてねえでグーだせって!」


 俺は恐る恐る握り拳を作ってリサに差し出した。するとリサが俺の握り拳にグータッチした。割と強めだったので痛い。リサはキラキラの笑顔で俺を見て。


「帰ろうぜ!」

「お、おう!!」


 なんだろう、なんかすごくいいこの感じ。そして俺たちはギルドに帰った。


「お帰りなさいませ! 冒険者様! 本日の依頼はスライム5匹の討伐でしたが、お二人の頑張りのおかげで250匹の討伐に成功しました! スライム1匹につき1000ゴージャスなので、報酬は合計で25万ゴージャスになります! お疲れ様でした!」


 俺とリサは数秒見つめ合い、2人で涙を流し喜びを分かち合った。


「グスッ..これで馬小屋暮らしともおさらばだぁ!!」

「ゔー..25万もあれば半年は良い宿借りられるじゃん! 美味い飯! 暖かい布団! 酒!! うぉ〜!!」


 俺たちが喜びを分かち合っていると、ギルド内の冒険者が数人集まってきた。


「おめえらすげえじゃねえか!! スライムの大群を一瞬で蹴散らしたんだろ?!」

「今日は宴だぁ!! ケンタとリサの祝勝会をやるぞ!!」


 その一言でギルド内の冒険者全員が歓声を上げる。聞こえるのは俺たちを讃える声、なんだよ! 異世界って最高じゃん! 神も勿体ぶりすぎなんだよ! 俺は感動と嬉しさのあまり叫んだ。


「野郎どもぉ!! 今日は俺の奢りだぁ!! 好きなだけ呑んで好きなだけ食って好きなだけ俺たちを讃えろぉ!!」


 俺の叫びで酒場はどんちゃん騒ぎ。きっと幸せってこう言うことを言うんだろうなぁ..俺はそんなことをしみじみと感じながらビールジャッキを握る。さっきから背後でとてつもない殺気を感じるが今はそんな事はどうだっていい、俺はジョッキを掲げ高らかに乾杯の挨拶をしようとした時、誰かが俺の肩をトンと叩いた。


「んだよリサぁ、みんな俺らを祝ってくれてんだぜ? 心置きなく楽しもうじゃあないか」

「だ〜れの奢りだって..?」

「おいおい水刺すような事するなよw デストロイだからって場の雰囲気まで壊されたらたまったもんじゃないだろ?w」


 嬉しさのあまり調子に乗っていた俺は適当にリサをあしらった。宴をしたくてうずうずしていた冒険者が俺を急かす。


「おいケンタぁ! 早く乾杯の音頭かましちゃってくれヨォ!」

「言われなくともするってぇ! じゃあみな」

「あーちょっとごめんなさいね..」


 俺が乾杯の挨拶をしようとしたその時、リサが冒険者に笑顔で軽く会釈をし、俺の首元を掴んでギルドの外に引きずり出し耳元で言った。


「1発殴らせろ」


 そして再びギルド内に戻り俺はジョッキを掲げる。なんか右頬がすんごい痛いけど俺は叫んだ。


「ヒャンハ〜〜イ!!」


 顔の腫れでうまく言葉を発せなかったが、冒険者たちは肩を組み酒を呑み交わす。リサなんてさっきまで散々キレてたくせに前線でめちゃくちゃ呑んでやがる。しかしこうなれば俺も思う存分呑んでやるんだ!


「っしゃあ!! ウイスキーのショット持ってこいやぁ!!」


 それからのことは呑みすぎてあまり記憶にない、冒険者たちもその場で寝ている。ただ一つ言えることは最高に楽しかったと言うこと。これがいわゆる大人の青春ってものなんだろうなぁ..


「ケンタ様、こちら今回のお支払いになります」

「ヒック..! んぁ? 支払い? いくらぁ?」


 俺は酔っ払いながらも伝票を受け取る。虚ろ目で伝票を見ると、一瞬で酔いが吹き飛んだ。


「22万ゴージャス..? 嘘でしょ..?」


 恐る恐るリサを見ると、泥酔して爆睡をかましている。良かった..これでとりあえず今日は死なずにすんだ。でもあれだよね、楽しかったし、クエストもクリアしてレベルも上がったし、まあ、良いよね!!


 


 


 


 


 


 



 

 

 



読んでいただきありがとうございます!

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