調査1 異世界は俺たちに厳しい
「ここが私たちの所属するギルドがある街、ラグジュアリーデジャブだ!」
「栄えた街ですね!」
「魔女宅で見たことあるぞこういう街」
魔法具に武具にポーションの店。立ち並ぶ建物は中世のヨーロッパを彷彿とさせる。本当にアニメで見たことあるやつだ。街の名前がラブホみたいなのはまあ良しとして、俺はかなり感動している。一方女は街行く人達を見るなりなんか言っている。
「今日はハロウィンか? コスプレしてるやつばっかりじゃん」
「んな訳ねえだろ。エルフに騎士に冒険者その他諸々、ここには男の夢が詰まってんだよ! 見ろよ、あそこのエルフなんて超絶美女じゃん!!」
いよいよ始まるんだ。異世界生活が! 俺は胸を躍らせ歩き出した。
「では俺たちはギルドに戻るよ! 良い旅を!」
冒険者と別れた俺たちは腹ごしらえにその辺の酒場に入ることにした。ちなみに異空間転移装置は折り畳み式なので手軽に持ち運びが可能である。酒場に入ろうとしたところで、あることに気がついた。
「いや、待てよ、俺ら金持ってねえじゃん..」
「はぁ?! どうやって生き延びんだよ! 野宿は嫌だかんな!」
「ばーか、お前はRPGをやった事がないのか? こういうのはだいたいあれだ、路地裏とかにある宝箱開けると金が入ってんだよ」
俺は自慢げに言った。しかしいくら探しても宝箱は見つからない。これは俗に言う詰みというやつだ。俺は女に言った。
「うん、働こう」
「やだわ!!」
そして俺たちは働いた。心優しい酒屋のおばさんが馬小屋を貸してくれたので、俺たちはとりあえずそこを寝床に生活を始めた。季節は冬なのかとても寒い。馬糞の匂いにも慣れ始めた。そしてある時は畑を耕し、ある時は家畜の世話をし、ある時はポーションの訪問販売、それはもう死に物狂いで働いた。そしてついに給料日がやってきた。
「はい、これ半月分の給料ね! おつかれさん!」
「ありがとうございます!!」
「これでもうホームレスとはおさらばだぁ..」
そして俺は給料袋をゆっくりと開けた。女が俺に聞く。
「おい、いくらあった?」
俺はこの上ない満面の笑顔で。
「10000ゴージャス! 日本円にしたら10000円だね!」
「はぁ?! あんだけ働いてたったの10000ゴージャス?! この世界の賃金終わってんだろ!!」
「仕方ないだろ! この世界じゃ俺たちは低学歴も良いとこなんだよ! 金もらえるだけでもありがたいだろ!」
とりあえずもらった10000ゴージャスを握りしめ酒屋に向かった。店に入りテーブルに座ると、とりあえず俺たちは生ビールを頼んだ。
「ぷはあ! やっぱりこっちの世界でも生は最高だな!」
女はいつもの毒舌とは打って変わりかなりテンションが低い。まあそうだよね、口は悪くても女の子なんだもの、しかも今までは忙しなくて顔をあんまり見れてなかったけど、かなり美人だ。胸もでかいしスタイルもいい。なんか申し訳なくなってきた俺は女に言った。
「あんた、名前は?」
女は力の抜けたような声で。
「あ? リサだ」
「リサちゃん、悪かったよ..腹が立ってたとはいえ、無理矢理異世界に連れて行ってしまって」
「キモイから名前で呼ぶな。もうそんな過ぎたことはどうでもいいんだよ..そんな事よりも..あたしはもう馬小屋暮らしは嫌なんだよ!!」
リサの鬱憤はこれだけでは止まらなかった。リサはジョッキいっぱいのビールを飲み干すと、テーブルにジョッキを叩きつけた。
「酒屋のおばはんが出してくれるスライムの塩炊きももううんざりだ! 味ねえし食感も気持ち悪いし..風呂は週一しか入れねえ..挙げ句の果てには夜寝てる時にお前はやけに息荒くてキモイし..あれは何して..」
「それ以上言わないで! 分かってるから! もう充分伝わったから!!」
俺はリサの言葉を遮るように言った。生ビールを飲む速度は変わらず、テーブルの上には空のジョッキが溜まるばかりだ。リサは流石に酔いが回ってきたのか、突然泣き始める。
「ゔわーん..!! もうごんな生活嫌だぁ!! 金が欲じい!! 」
「ちょっ..! 周りのお客さん達がすごい悲しい顔して見てるから!! お願い落ち着いて!?」
落ち着きを取り戻したリサは鼻を啜りながらテーブルにうずくまり呟いた。
「グスッ..何が地球の為だ..異世界に移住したって私たちが報われる保証はあるのかよ..グスッ」
それを聞いてある事を思い出した俺はリサの手を握りキメ顔で言った。
「そうか、リサは知らなかったんだな。今回の任務を達成させた暁には政府から、死ぬまでなに不自由なく生きられるほどの報酬..それに富..名声..全てのものが手に入るらしいぞ?」
リサの顔つきが変わる。そして俺を見つめて言った。
「おい、手触んな、あと名前で呼ぶなって言っただろ童貞」
「はい..すいません..童貞です」
「でもその言葉本当なんだよな?」
「はい..本当です..童貞です..」
リサは突然立ち上がり叫んだ。
「やってやろうじゃん!! 大富豪になって世界中の全てを手に入れてやる!! はっはっはっ!!」
「いや、だから静かにして? 周りのお客さんが痛い目で見てるから」
まあ何はともあれリサも元気を取り戻した。俺も報酬のことを思い出して少しやる気がみなぎってきたところで、店員が紙切れを一枚持ってきて俺に言った。
「お客さん、これ今日の支払いね。税込で9800ゴージャス」
「異世界にも税金ってあるんですね! じゃねえだろ!! おいリサ! お前呑みすぎなんだよ!!」
「しょーがねぇだろ!? こっち来てから一滴も呑めてなかったんだから!!」
そして俺たちは200ゴージャスを握りしめ馬小屋に帰る。相変わらず臭いし寒い。俺は敷いてある藁で体を覆い、気の抜けた小さな声でリサに言った。
「明日は朝からポーション配達な」
「もういや..」
翌日、俺たちは朝早くに起きてポーション配達のアルバイトに向かう。リサは二日酔いなのかテンションが低い。バイト先につき、今日配達するポーションの確認を行っている時、俺はふと我に帰った。
「違う..こんなんじゃない..なんで異世界来てアルバイトなんてしてんだ俺たち! なんかこうもっとバリバリモンスターとかと戦って..魔王なんか倒しちゃったりして..美人な冒険者とハーレムして..どっかの国の王女とか救っちゃって恋に..」
「っせえなぁ..早いとこポーション配達して仕事終わらせようぜ、頭いてぇんだよこちとら」
「はい..行こうか..」
仕事を終えた俺たちはいつものように馬小屋を目指し歩き出す。歩いている途中、依然俺たちを助けてくれたインフェルナスさんに出会った。
「君たち! まだこの街に居たんだね!」
「いや、ずっといるつもりですよ」
「ん? 旅人じゃないのか?」
「はい、科学者です」
「か..かがくしゃ..?」
疲れている俺はもはや嘘をつく気力すらない。もうその勢いで本音を漏らした。
「俺たち金無いんですよホームレスなんですよ、さっきから匂うでしょ? それ俺たちの匂い、なんでもいいんで金稼げる方法ないですか?」
インフェルナスさんは若干引いている。そして困りながらも答えてくれた。
「そ..そうだね..ギルドに行って依頼を受けるのはどうだい? 低級のクエストなら手軽にお金が稼げるよ」
「ギルド..」
その時俺は思い出した。俺はリサの肩を掴み至近距離で叫んだ。
「そうだ! ギルドだ! ああ知ってるぞ、討伐クエストとか採取クエストとかやって報酬が貰えるんだ! そこならこの世界の生物の生態系や植物の種類、本命の異世界調査だって出来る!!」
「うわ顔近、キモ..でもそれ強くなきゃ無理っしょ?」
「お前異世界アニメ見た事ないのか? きっと驚くぞ?」
リサは知らないだろうが俺は知っている。だいたいこの手のやつは異世界に来るとチート級の力を持ってて、秒で世界最強とかになれるんだ。俺はインフェルナスさんにお願いしてギルドに連れて行ってもらうことにした。まあ数時間後にはこのインフェルナスとかいうちょっと強そうな冒険者も俺からしてみればモブキャラ同然になるだろうな。
「よし!! これでやっと始まるんだよ異世界ライフが!!」
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