異世界転送!!
「準備はよろしいでしょうか研究者ケンタさん」
「いや、全然よろしくない、やっぱりもう一度話し合いを..」
「それは無理ですね。会議の結果、貴方を除く全員がケンタさんの異世界転送に賛同しました。よって取り消しは認められません」
俺はこれから異世界に転送される。何故こんな事になったかというと、事の発端は3年前に行われた緊急会議まで遡る。この日は総理大臣の命により日本全国から研究者が集められた。
「突然呼び出して申し訳ない。実はこの世界は今、かなり深刻な状況に陥っている。そこで君たちの知恵を借りたい」
総理大臣は険しい顔をして言うと、1人の科学者が質問した。
「総理大臣、一体何が起きているのですか?」
「ああ。急激な人口増加に伴い、現在地球の資源が著しく枯渇していてな、このままでは数十年の間に地球の資源が底を尽きると言われている」
どうやら総理大臣の話によると、人口増加に伴う地球の資源を確保する為、何かいい方法はないかと俺たち研究者を呼び集めたらしい。とは言え、そんな事を俺たちに言われた所でどうしようもないだろ。そんな中、研究者たちは言い争いをしている。
「火星移住というのはどうでしょう? 現在の航空技術なら不可能ではないかと..」
「君は何を研究してきたんだ? 火星に行くまでにどれだけの時間がかかると思っている。向こうに着く頃には地球の資源は無くなっているぞ」
「....」
話は一向に進まない。今日は俺が見たいアニメの放送日だ、早く帰りたい。イライラしていた俺は適当に意見を言ってしまった。
「はぁ..異世界とか行けばいいんじゃないすか? 魔法とか使えたら資源なんて無限に作れそうだし」
俺の発言に辺りは静まり返る。しまった、早く帰りたすぎて思わず口走ってしまった。すると、総理大臣が口を開いた。
「それだ..その手があったか!!」
「....は?..」
そして話はとんとん拍子に進んだ。世界中の研究者たちが血眼になり研究した結果、3年という月日を経て異空間転移装置が完成したのだ。まじか、適当に言っただけなんだけど、そもそも異世界という概念がこの世界に存在するのか? そして今日、誰が異世界に行くのか決める会議が開かれていた。
「まずは尽力を尽くしてくれたみんな、感謝する。ただ問題なのは誰がこの装置を使い異世界に行くのかだ。行きたいやつはいるか?」
「....」
当然ながら誰も立候補しない。無理もないだろう。成功率は10%にも満たないのだから。痺れを切らした大臣が続けて言った。
「いないのなら推薦者でもいいぞ、ぜひこの人に言ってほしいと言う人はいるか?」
尋常じゃないほどの視線を感じる。ゆっくりと顔を上げると、全員が俺を見ている。
(ですよねぇ〜..だって言い出したの俺だもん..)
そして今に至るわけだ。大臣の秘書らしき黒髪ロングの爆乳美貌の人に何度も説得を試みたが話を聞いてくれない。
「あのぉ..もし失敗したらどうなるんです?」
「そうですね、我々が生きている空間と異空間が衝突する力で押し潰されます。骨も残らないかと..」
「うん、やっぱり行きたくないです」
しかし俺の言葉は秘書には届かなかった。周りの研究者たちは気の毒そうな眼差しでこちらを見ている。
「では、装置の中へ」
秘書はまるで感情がないかのように俺を急かす。というか、それよりも気になるのはさっきから俺を見てケラケラと笑いながらなんか言っているあの金髪の柄の悪そうな女だ。俺はその女を睨んだ。
「クスクスw 異世界とかまじウケるんですけどぉ、もしかして猿がいっぱいる惑星とかにワープしたりしてw」
なんなんだあいつは? やけにムカつく。しかしその女の戯言は止まらない。
「なんなら失敗してペシャンコになったりしてw そうなったら紙飛行機にして故郷に飛ばしてあげようかなw」
まじでムカつくなあいつ。心からドロップキックしたい。なんであんなんが化学者やってんだよ。腹が立った俺はいいアイデアを思いついた。
「分かりました。行きましょう、異世界に..その代わり1人だけ助手を連れて行きたい」
「いいでしょう。誰を連れて行きますか?」
「あの女だ!!」
俺は迷わず柄の悪そうな金髪の女を指さした。女はキョトンとした顔で俺を見ている。
「え? なに?」
「貴方が助手に選ばれました。ケンタさんと一緒に異世界に行ってください。拒否権はありません」
「ちょ..ちょ!! たんま! 離してよ!!」
秘書は強引に女の腕を掴み装置の中へ連れ込んだ。俺は笑いながら女に言った。
「がっはっはっ! ざまぁ!! お前も道連れだこのあばずれ女!!」
「は?! ふざけんなし! 誰が行くかよ!!」
秘書は装置の起動スイッチの前に立ち言った。
「では、ご武運を祈ります。地球の..人類の未来はお二人にかかっています。では、おきっw ゴホンッ..お気をつけて..」
そして秘書はスイッチを押す。装置は激しい音を放ち光りだす。
「おいあの秘書今笑ってただろ!! まて! まだ心の準備が!」
「おいおい! 私は行かねえぞ! ここから出せ!」
「待て助手..お前は一緒に行くんだよ、ムラムラしたら胸のひとつくらい揉んでやるからなぁw 覚悟しろよ!」
「ふ..ふざけ..ぎゃぁーーー!!」
そして俺たちは転送された。気がつくと、目の前には大草原が広がっていた。
「成功..したのか..?」
「ってぇ..嘘だろ..まじで異世界かよここ..」
女は俺の胸ぐらを掴み、涙目になり怒鳴った。
「ざけんなよてめぇ! どうしてくれんだ!あ!?」
「あんたが散々煽るからだろ?! それに一人ぼっちは寂しいじゃん?」
「そんなん知るか!! 1人でのたれ死にやがれ! あたしは帰るかんな!」
「待てよ相棒..その装置は再起動までに少なくとも一年はかかるんだぜ?」
「....お前まじでふざけんなよ!!」
「ゴフッ!!」
女の拳が俺の溝打ちにクリーンヒット、俺はその場で這いずり回った。もがいていると、どこからともなく音が聞こえてきた。
[ピチャッピチャッ..ピチャピチャピチャ!!]
それは雫が何千個も落ちたかのような音だ。もはや轟音に近い。俺と女はゆっくりと音のする方を見た。
「あの大群なに..? 日本では見ない生物だよね..?」
「日本どころじゃねえよ..あんなの世界中どこ探しても見たことねえだろ..」
「完全にこっち来てるよな..?」
横を見ると女は先に逃げていた。俺は叫びながら跡を追う。
「待てぇ!! 俺を置いて行くなあ!!」
「っるせぇ! こんな訳わかんねえとこで死ぬなんて御免だ!!」
ゼリーの塊みたいは大群はどんどん近づいてくる。死を悟ったその時だった。
「ファイアーブレス!!」
その一言と同時に、ゼリーの塊みたいな大群が一瞬で焼き尽くされ塵になった。俺と女はその場で尻餅をつく。
「な..何が起きた..?」
唖然としていると、知らない男の人が声をかけてきた。なんか杖みたいな物を持っている。
「大丈夫か?! 君たち!!」
「あ..はい..なんとか..!」
西洋の騎士みたいな鎧を着たその男は数人を引き連れ、さらには小さい恐竜みたいなのが荷車を引いている。
「無事なら良かった! あれはスライムの群れだな! この時期はモンスターの繁殖期だからね! 気をつけたまえ!!」
「お兄さん誰? 超マブイじゃん?」
女が男に声をかけた。
「私はギルドハンターのインフェルナスだ! 君たち変わった服装をしているがどこから来たんだい?」
女が答える。
「白衣だ、見りゃわかんだろ? てかギルドハンターってw 厨二病なん?」
「は..はくい..? 聞いた事がないな」
上下スウェットに白衣の男と、ヘソ丸出しのスポブラみたいなパツパツのニットに白衣を纏った女を見ればその反応をするのも無理はないだろう、ここはもう俺たちのいる世界とは違うのだから。俺は女に小声で言った。
「口の聞き方に気をつけろ! これはアニメで見たことがあるぞ、あれだ、この人たちは冒険者だ」
「は? なんそれw あードラクエ的な?」
「そーだそんな感じだ! これはすごいぞ..まじで思った通りの異世界だ! よし、ここはひとまずこの人に着いていくぞ」
女に口車を合わせるように言った俺は冒険者の男に言った。
「実は僕たち西の遥か先の大陸から来たんです..だけど道に迷ってしまって..よろしければ皆さんの拠点に着いて行ってもよろしいですか?」
「なに?! 西の大陸から?! それはさぞきつかっただろう! 着いてくるといい!」
ふっ、ちょろいな冒険者。これでとりあえず身の安全は確保できる訳だ。こうして俺たちは彼らの拠点へと向かった。俺たちに課せられた使命は異空間転移装置が再起動するまでこの異世界で生活し、人間が無事に暮らせるかどうかの確認、そしてこの世界の1番偉い人に直談判し俺たち人間が共存できる許可をもらう事だ。なんとしてもこの異世界を生き抜いて、歴史に名を残す英雄になってやる。見てろ俺が生まれた世界、見てろこの異世界!!
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