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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

(「勇者パーティーから追放された俺はレア職業「聖水使い」として世界を救う」から改題)聖水使いの復讐 外伝 ~ 聖水使いの異世界推理譚 ~


 レジーナはしのぶに駆け寄り、見事な大砲をゆっくりと摩った。しのぶの醜悪な顔がぐふふと歪んだ。


 「しのぶ。さっさとミラクルウォーターを出しな。お前みたいな腐れ野豚の存在なんざ、ミラクルウォーター以外に無いんだよ」


 「わかっているぜえ。子猫ちゃん。おいらのミラクルウォーターが欲しいんだろ?げはははっ‼」


 仲睦まじい恋人たちに憎しみと嫉妬に満ちた視線を送る影が一つ。

 

 その影の主とは、しのぶの親友であり勇者であるマイケルだった。

 マイケルは自分の粗末な麦チョコバー( 税込 88円 )としのぶの米国産のカロリーぶっちきぎりチョコバー( 税込 126円 )を見比べた。


 「許せない。しのぶ。俺はお前が腸、肉ぃぃ。肉しみぬいてやるぅぅぅ…」


 天界人と人間の王族の混血であるマイケルはしのぶを常日頃から肉んでいた。


 しのぶはマイケルの事を親友のように思っていたが、マイケルがしのぶに接近した理由は恋人のレジーナを奪い取る為だったのだ。

 レジーナは豚の角煮丼にマヨネーズとケチャップをぶっかけながらしのぶが金色のミラクルウォーターでペットボトル内を満たすのを待っている。


 その時、マイケルの怒りは頂点に達した。

 この前、戦いを司る神からもらった聖剣スーパーマイケルの柄に手をかける。

 怒り心頭のマイケルはAV女優のイキ声と勘違いしてしまいそうな大声をあげて、しのぶに斬りかかろうとする。


 「きょわあああああああ‼しのぶ、貴様を殺す、殺す、殺すぅぅぅ‼」


 マイケルの前にアッシュが出現。

 アッシュは両手に猛毒を持つ巨大な毒蜘蛛を持っていた。


 「マイケル、この辺には危険な生物がたくさんいるぜ。一度、町に帰らないか?って…どうした⁉」


 アッシュ、パーティーアタックで死亡。


 アッシュの持っていた毒蜘蛛はマイケルの顔面に張りついた。


 マイケル、猛毒で死亡。


 「大変だ、しのぶ‼レジーナ‼テントの後ろでマイケルとアッシュが死んでいるぞ⁉」


 血相を変えて二人の前に現れたジルベルトから報告を受けたふじわらしのぶとレジーナは現場に直行した。


 「見事に死んでいるな。レジーナ、まだ復活はさせるなよ。犯人はすぐ近くにいるかもしれん」


 しのぶは時刻表をチェックしていた。

 トリックはブルートレインの乗り継ぎにあるかもしれない。

 しのぶは目を皿のようにして平成3年度の時刻表を見ている。


 レジーナはアッシュとマイケルのポケットの中身を調べていた。


 「わかっているだわさ、ダーリン。アッシュは口からアーモンド臭がするから、死因は青酸化合物で間違いないだわさ」


 既に殺害現場には警官たちが押しかけていた。


 突川しのぶは得意の西元、北城の両刑事を上野駅に向かわせてシュウマイ弁当を用意させた。

 「食の軍師」という漫画で何かと話題になっていたシュウマイ弁当だが、しのぶはまだ食べたことはない。

 というか作る手間がかかるわりにはあっさりと無くなってしまうシュウマイは嫌いだった。


 ジルベルトは現場で指揮をするしのぶの有能ぶりに心酔していたが、同時に嫉妬心も抱いていた。


 (しのぶめ。暗殺者である俺を蔑ろにするとはいい度胸だ。この場で貴様を葬ってやろうか?)


 ジルベルトはスキル”透明化”を使って姿を消し、さらに気配の全てを遮断してしまった。

 こうなってはジルベルトが自分で術を解かない限り、ジルベルトを見つけることは出来ない。


 「しのぶ警部、シュウマイ弁当を買ってきました」


 眼鏡の中年、西元刑事がシュウマイ弁当を持って戻って来た。

 袋代が余計にかかってしまったので、しのぶは気を利かせて百円多く弁当代を払ってやった。

 西元と北城はそのまま駅構内に聞き込みに行ってしまった。


 しのぶは手に入れた弁当をレジーナに与えると、レジーナは洋モノのAV女優のように「アウッ‼アオゥゥゥッッ‼オーイエス、オゥゥゥ‼イエヤスッ‼東海道一の弓取り、神君徳川家康公ッ‼」と悶えながら艶めかしい仕草でシュウマイ弁当を食べ始める。


 しのぶはティッシュペーパーを持って来なかったことを心底後悔した。


 「そういえばダーリン、ジルベルトはどうしたノん?アイツ、いつだかシューマイ弁当が食いたいって言ってたわよ」


 「へえ、それは知らなかったな。ジルベルト、シュウマイ弁当やるからさっさと出て来いー‼」


 しのぶはシュウマイ弁当を片方の手に持ってジルベルトの名前を呼んだ。


 (しのぶめ‼シュウマイ弁当ごときで俺の暗殺者としての自尊心プライドを愚弄するつもりか‼…許さぬ‼だけどシュウマイ弁当は食べたい俺だった…)


 しのぶは周囲がシュウマイ臭くなってきたのでそろそろ捨てようかと邪推していた。

 シュウマイよりも餃子の方が絶対においしいに決まっている。


 もはや大宇宙の真理と言っても過言ではない。


 「しのぶよ。俺はわけがあって姿を現すことが出来ぬ。そこで提案だ。透明になったままだが、シュウマイ弁当を”あーん”で食べさせてくれないか?」


 暗殺者の尊厳はシュウマイ弁当の前に砕け散った。


 しのぶは得意の超能力でジルベルトの位置を察して、そこに「あーん」してやった。


 「ジルベルトよ、まずは最初に何が食べたい。言ってみろ」


 ジルベルトはシュウマイ弁当の中身を見た。

 シュウマイと鶏の唐揚げとご飯とカマボコが入っている。


 「じゃあ、鳥の唐揚げを頼む。俺は苦手なものから食べる主義なんだ」


 しのぶはクスリと笑った後に鶏の唐揚げを出してやった。

 空中に口だけが現れて鶏の唐揚げを食べ始めた。

 そこでレジーナが機転を利かせてマヨネーズ容器からマヨネーズを発射する。


 結果、ジルベルトはマヨネーズ容器一本分のマヨネーズと鶏の唐揚げを食べてしまった。


 「おふうッ‼しのぶ、レジーナ、ありがとう‼俺は鶏の唐揚げが大嫌いだったがマヨネーズのおかげで美味しく食べることが出来たよ」


 「レジーナ。よくマヨネーズなんて持っていたな」


 「喜んでくれて何よりだわ、ジルベルト。マヨネーズはたくさんあるからどんどん食べてね」


 こうしてレジーナのマヨネーズ攻撃としのぶの「あーん」でジルベルトは窒息死するまでシュウマイ弁当を食べることが出来た。


 誰もが恐れていた第三の殺人事件が起こってしまったのだ。


 しのぶはマヨネーズを喉に詰まらせて死んでいるジルベルトの左胸に聞き耳を立てる。


 「しのぶ。死因は?」


 レジーナはマヨネーズ容器を持ったまま、検視を続けるしのぶに尋ねた。

 しのぶは首を何度も横に振った後、レジーナの問いに答えた。


 「わからない。何らかの毒物が原因であることには違いないようだが…。鹿目さんはどう思う?」


 しのぶはジルベルトの死体を踏みつけながら捜査メモを取る鹿目胃刑事に私見を求めた。

 長年相棒として信頼しているベテラン刑事である鹿目胃の意見をしのぶは何よりも信頼していた。


 「そうですね。被害者ガイシャの首に何かで締めたような痕跡があります。おそらくは絞殺ではないかと…。しのぶ警部、やはりここは実際にブルートレインに乗って現場検証をしましょう。それ以外考えられません」


 しのぶとレジーナはすぐに鹿目胃の意見に同意した。

 本部では何かと現場の意見は軽視されてしまう傾向が強いが、しのぶは違う。

 あくまで観光旅行気分でブルートレインに乗ってみたくなったのだ。


 しのぶは豚の角煮丼をホットモットで購入した後、鹿目胃とレジーナを連れて23時68分、東京上野発のブルートレインに乗った。

 

 その時、マイケルとアッシュとジルベルトの死体は放置されたままだったが誰も気にはしなかった。

 やがてグランキャニオンを住処とするハゲタカが集まり、野ざらしになったマイケルたちの死体を睥睨している。


 「でも豚の角煮丼って、焼き鳥の缶詰をご飯の上に乗っけたヤツと変わらない味なんだよな。もぐもぐもぐ。レジーナはどう思う?」


 「それは豚の角煮と焼き鳥の缶詰に失礼な発言よ、しのぶ。とりあえず私に謝って。それからミラクルウォーターを補充してちょうだい。何だか電車に乗り過ぎて具合が悪くなってきたわ…」


 ガタンゴトン。


 ガタン、ゴトン。


 列車は目的地に向かって進み続けた。

 その間、しのぶとレジーナの間に会話は無かった。

 列車の窓から外を覗けば、そこには見事な棚田が広がっていた。

 

 しのぶは緑豊かな田舎の風景を見ながら未来について考えていた。

 

 プロのeスポーツ選手とユーチューバー、人生の選択肢はどちらかに向かって別れようとしている。

 しかし、しのぶは知っている。

 どちらの職業も生活がかかってくれば決して楽な仕事ではないということを…。


 「しのぶ、お腹が空いたわ。ていうかカツサンドをマッハで買って来い」


 列車が新潟駅から品川駅(※作者はブルートレインに乗ったことはありません)に移動した頃、レジーナが突然話弁当を買ってくれと言い出した。


 しのぶはすぐに得意の念力でサンジェルマン(※アマ〇ン払い)からカツサンドを召喚し、レジーナに与えた。


 レジーナは大喜びしながらサンドイッチにかぶりつく。


 その時、隣の車両から魔王軍の極東支部で司令官を務める男ブレイドが部下を連れてやって来た。


 「ブレイド。まさかお前のような大物が現れるとはな」


 「グハハハッ‼貴様が勇者パーティー最強の男ふじわらしのぶか。俺の弟ガウルを倒した実力は認めよう。だが、お前の快進撃もここまでだ。俺は弟の十倍は強いと言われている男、アイツごときに手古摺っているようでは到底話にならぬ」


 ブレイドは部下たちに弁当に入っているシャケとか、白身魚のフライを分けてやりながら大笑している。

 しかし、銀シャケの皮だけは別のようで部下たちに銀シャケの皮を貢がせていた。


 「貴様、銀シャケの身は食べないつもりか‼例え神がお前を許したとしても俺は決してお前を許さぬ‼次の新宿駅で決着をつけるぞ‼ブレイド‼」


 ブレイドは銀シャケの皮をご飯の上に乗せて一気にかけこんだ。

 そしてご飯粒をぶちまけながら叫んだ。


 「グハハハッ‼弱い奴ほど良く吠えるというものよ‼しのぶ、お前の勇気に免じてその勝負乗ってやる‼さあ、これから新宿駅まで50分、お前が過ごす最後の時間ときとなるだろう‼グハハハッ‼おい、緑茶的なものを持ってこい‼喉が詰まった」


 しのぶはファスナーに手をかけ、ゴールドミラクルウォーターを紙コップの中に入れた。

 検尿検査そのものだったが、悪人であるブレイドはそんなことは気にしない。

 紙コップに口をつけると一気に飲み干してしまった。


 「かはっ‼美味いッ‼この一杯の為に生きている‼…がはあッッ‼」


 自分の喉をおさえながら悶え苦しむブレイド。

 数秒後、ブレイドは口から泡を吹きながら絶命してしまった。

 レジーナはブレイドの脈を取りながら純金製の腕時計を外している。


 そして真剣な表情で雁屋しのぶに語った。


 「しのぶはん、家元が亡くなってしまいましたで‼」


 (今度は山村紅葉か。なかなか芸が細かいな、レジーナ)


 しのぶはネクタイを整え、京都府警に連絡を入れる。

 ついに第四の犠牲者が現れてしまった。


 その頃、残暑の高温多湿が原因でマイケルたちの死体は腐っていたという。


 これが原因でしのぶは魔王と勇者の両陣営から憎まれることになったそうだ。

 全ては過去の話である。

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