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スコーンにマヨネーズは美味しいけれどカロリーの化物


「お、おい。なんかゴリラが窓からこっちを覗き込んでるよ。2階だぞここ、あれ、ってかさっきのテレビのゴリラじゃね」


「本当だ、てっきりこの世界に私たちしかいないのかと思ってた。ちゃんと外の世界あったんだね」


「おいおいおいっ何見てんだよ、こちとら見世物じゃねぇんだよ」


「そうだそうだ、金払わないんだったらさっさと帰れ!」


「金払ってもその後帰れ! 俺はうんこで忙しんだよ。お客様は神様だ、神様ならそれぐらいの懐を見せろぉ!」


 ゴリラは目を細めた後。窓から離れ、そして拳を構えた。


「ちょ、まてまてまてまてまてまて何しようとしてるんだよ。あーやめ、やめろぉォォ!」


 だが声は空しくゴリラの腕は壁を叩き割って部屋にいた柏木を掴む。


「え、まって、せめて、せめてうんこさせて。まてまて、わ、わかった。金やる。金やるから、だからうんこさせてくれ。おいっ、おい雪! 何してんだッ! 早く助けてくれ!」


「いや……私ゴリラだし、親戚だし。久しぶりに会っても何話していいかも分からないし、部屋の隅で小説読んでるね……っへ」


 そう言って柏木を見ながら笑って部屋の隅に座り込み小説を読み始める。


「最初のまだ引きずってたのかよッ! 分かった、謝る。謝るから早く助けてッ! 漏れる! 潰れる! こいつ手加減分かってないタイプだよ。自己紹介張り切りすぎて失敗する奴だよ」


 更にゴリラが力を込めたその時だった。突如、閃光が走りゴリラの左肩が爆発した。


「隊長ー、全然効かないんすけど。こんなクソ重たい爆弾持たせておいて全然効かないってどゆことすか」


「騒ぐな、効かないことぐらい想定内だ」


「想定内なら何で持たせたんすか、いい大人が嫌がらせですか。パワハラですか、殺しますよ」


 爆煙の中に桜と菊の紋様が入った黒服を羽織った男2人、大隊長『工藤(くどう) 大和(やまと)』副大隊長『九条(くじょう) (まもる)』がそう言いながら上空から音もなく着地する。


 そして振動が遅れて来るかのようにドドドドっと地面が揺れ出した。


「うぉ、スーパーヒーロー着地、スーパーヒーロー着地だよ、あれ。知ってる、デッボプールで結構痛いって言ってたから知ってるぞ。あんな澄ました顔しながら内心ジンジンしてる奴だよ。あれ、絶対我慢してるよ、俺うんこ我慢してるよ。早く助けてェッ!」


 柏木は興奮気味でそう言う。だが2人はそれを気にすることなく、煙の中で斬り合い始めた。


「——ッもしかしたら効くかもしれないだろ。今はあっちのゴリラ攻撃しろよ」


「あんなゴリラなんかより、俺は今、無能な隊長の血が見てぇんすよ」


 周囲にいた人たちがその姿を見て騒ぎだす。


「っお、おい。あれ桜菊隊じゃね」


「本当だ! しかも隊長と副隊長もいるわ」


「カッケェ、やっぱ他の警察とは格が違うぜ」


 周囲を気にすることなく、いまだに斬り合う。そしてそれを見ていた柏木には最初の興奮はすでに消え、もはや若干イライラしていた。


「おい! お前ら何してるんだよ。仲間割れしてねぇで警察なら早く助けてくれ! もう漏れそうなんだっつってんだろ!」


 茶髪の男、九条が柏木に気づき、やっと斬撃がやっと止まる。


「なんだよ、一般人。さっきからうるせぇんだよ一般人。助けて欲しかったらまず人を助けてからってのが道理ってもんだ。俺を助けたことあるのか? ないだろ、そう都合よく物事はいかねぇんすよ。もっと善行を積むべきだったな、一般人」


「警察だったら人を助けて当然だろッ! 何助けてもらってからじゃなきゃ助けようとしないんだよ、おかしいだろォォ!」


 九条が刀を柏木に向ける。


「おい、一般人。お前は勘違いしてる。警察の仕事が人助けって誰が決めたんだ」


「じゃ何するんだよ、いいから助けろ! 漏れるつってんだろ!」


「だから一般人なんだよ、一般人。警察の仕事ってのはな……()()()()()()()ことでさぁ。どんだけぶっ殺してもな、あいつらに人権はねぇんすよ。正当防衛つって、いくらでも助けを乞うても武器を捨ててもぶっ殺せるんでさ」


 九条がそう言って刀を舐めりながら、柏木を見下して笑う。


「……おぃぃ、なんで警察一番なっちゃいけない奴が警察になってんだよッ! おい、お前隊長だろ! その部下どうなってんだよ!」


「……ふぅ、っえ? 何、九条、お前なんか言ったか」


 工藤が何事もなかったかのように電子タバコを吸いながら九条に聞く。


「いえ、何も言ってないです。ぶっ殺す以外何も言ってません」


「だよな、特段別に何も異常ないな。おい、こいつはさっきから何も言ってねぇんだよ。分かったか? 何も言ってないんだよ」


 そして工藤はもう一度大きく電子タバコを吸う。


 「……ははぁ、さてはあれだな、お前、クスリ決めてんだな」


 工藤は電子タバコを柏木に突き出して、不敵に笑う。


「いえ隊長、ぶっ殺すは言ってまっせ」


「……何も言ってねぇんだよ。もし聞こえていたのなら全てはお前の幻聴だ。これ以上言うと薬物取締法違反で逮捕すっぞ」


「だからぶっ殺すっつってんすけど、ぶっ殺しますよ隊長」


「……」


 工藤が小刻みに震えだす。


「はぁ……隊長、もう耳が遠くなったんすか。なら早く辞めて老後の生活でもしてたらどうすか。その席俺が貰いますんで。大々的に改革するんでぇ……()()()()()

 

「お前、さっきから庇おうとしてるのがわかんねぇのかッ! 守ろうとしてぇんだよッ! いいから黙ってろよッ!」


「何言ってんすか、隊長が守ろうとしてるのは保身ぐらいじゃねぇすか、いいんすか、警察が嘘ついちゃお仕舞いですよ。世の中、正しい物も分かんなくなりますよ。世の中悪がはこびりますよ」


「少なくともお前は間違ってんだよッ! お前の存在自体が間違ってんの、お前が悪なの、分かったら黙ってろ」


「だから何言ってんすか、俺の体はこの制服を着たその時から心はそのままでもう正義になってんすよ。そう心に誓ってるんでさ」


「何も誓ってねぇだろッ! 服着てるだけじゃねぇかッ!」


「人は見かけが全てなんすよ。俺ぁ、もうどうしょうもないぐらいに正義に染まっちまいやした……」


「染まり切れずに滲み出ちゃってるんだよ。もう一回と言わずに何度でも染め直してもらえ。おい、それよりお前以外の他の奴らはどうした」


「後ろにちゃんといますぜ」


 九条がそう言って後ろを指差す、そこには足を抱え喘ぎ苦しんで転がる無数の隊員たちの姿があった。


「……何してんだあいつら」


「何ってさっき俺らが着地した後ドドドドって揺れてたじゃないすか」


 「あれ、かっこいい演出じゃなかったのかよッ!、っえ、なに、隊員たちが着地に失敗する音だったの!?」


「そうでさ」


「馬鹿かッ! っ普通に降りてきたらいいもん、どうするんだ、これ。もう計画してた作戦が全て失敗だよ。もうやる気ないよ、俺」


「隊長が印象付けたいって言ったせいじゃねぇすか」



---------------------------------



「おい、いいか。今回は初登場だ。桜菊隊がクールでカッコいいと言う印象を俺たちはつけなければいけない」


 空中で移動用ドローンに乗ってる工藤はこめかみに手を当てながら気合を入れた声で言う。すると直ぐに別のドローンに乗っていた九条から連絡が入る。


「隊長ー、ならゆっくり降りないでスーパーヒーロー着地が良いんじゃないですか。あれかっこいいっすよ。読者の印象も強キャラ感がプラスされまっせ」


「なるほど、確かにそうだな……実際、最初だけ強キャラ感を出しとけば、後々は用事あったとかでサボれば良いし、適当な雑魚キャラにやられた事にして、刺された回想入れれば勝手に盛り上がるもんな。家でゲームしてれば良いもんな。……だが失敗した時の印象の落差があまりにも大きい」


「やる前から諦めてちゃ何も始まらないっすよ」


「そうだな……だが余りにも賭けになる。失敗したら一気にネットのおもちゃだ。今回は俺もしたことはない、だから——」


「びびってんすかぁ?」


 失笑とも聞き取れる九条の声が聞こえる


「は、何言ってんの別にびびってねぇし、出来るし、おいお前ら、決めた。決めたぞ、俺は行く、俺はスーパーヒーロー着地で着地するぅ」


 他の隊員たちがどよめき立つ。


「た、隊長。大丈夫なんですか、デッボプールでは膝にくるらしいって言ってましたよ」


「そうですよ、怖いなら無理しなくても……」


「いや怖くねぇよッ?! おい、今誰が怖いっつった? 名乗り出ろ。ああ、もういい、もういい、別にお前らが来なくてもいいよ、ついて来なくてもいいよ、俺だけ行く」


「わ、分かりました。でも隊長の能力も身体強化というわけじゃないですから本当、無理しないでください」


「別に無理って言ってねぇし、全然出来るしぃ? よし、やるぞぉ、俺はやるゾォ! 九条、お前は武器持ってこいよッ!」


 工藤がドローンのドアを開けそう叫び、飛び降りた。



---------------------------------


 

「無理してついて来なくてもいいって言ったのにあの馬鹿ども……」


 工藤は片手を頭にあてながらそう言う。


「無理っていいますが、隊長も足さっきからガタガタしてまっせ」


「は、何言ってんの、これは違うよ? 尿意を我慢してるだけだし、別に着地が原因じゃねぇし、そうゆうお前こそ足震えてるじゃねぇか」


 風が吹き、煙が流されて現れた2人の足はまるで生まれたてのシカのように震えていた。


「っあ、俺はちゃいまっせ。俺のは天使の羽なんで」


「……は? 何言ってんだ。ランドセルか?」


「いえ、だから天使の羽っす」


「だからランドセルだろって言ってんだろッ!」

 


---------------------------------



「おじぃちゃん! お願い、死なないで!」


「草太……もうおじいちゃんはダメだ。天使様がお迎えにきてる」


「おじぃちゃん!」


「お父さんとお母さんと仲良くやるん…………」


「やだ! 死なないで!」


 鈴木 八郎は幸せだった。特に大きい病気もなく長生きし、孫に見送られて老衰によりこの世を去った。そして現れた天使様に手を引かれ空へと舞い上がっていく。


「オラは、オラは天国に行けるだろうか……」


「大丈夫ですよ、貴方は生前良い行いを進んで行っていました。天国に連れていくよう言われています」


「そうか……やっぱり神様ってどこかで見てるもんだ」


「えぇ、そうですよ。常に貴方達を見守っています。いい行いをすれば返って来るんですよ」


 天使は優しく手を握りしめ、お爺さんに微笑む。


「天国はいいところかね?」


「ええ、皆さん笑顔で幸せな世界ですよ」


「ああ、女神じゃ、女神じゃ」


「いぇ、私はまだそんな……」


 そう言っている間もどんどん空へと舞い上がる。


「ありがたや、ありがたや」


「ほらもうすぐてんごくゥ゛ッ——」


 天使の羽は唐突に何かに引っ張られ、風で髪が顔に当たり先程の美貌は見る影もない。


「——痛、えっ、何何何何何何何何何」


「おいおいおい、天使が誘拐とはぁ世も末やしませんか」


 ドローンから手を伸ばし、たまたま目に入った天使の羽を掴み上げて九条はそう言って微笑む。九条の気持ちはまさに虫網を振っていたらたまたま鳥を捕まえた気分だった。


「——っえ? 誘拐? 違います、違います。私は天使です」


「天使だろうが何だろうが関係ないすよ、誘拐犯はみんなそう言うんでさ、ちょっと遊ぶつもりだった。あっちも合意の上だった」


「私、天使! 天使です!」


「しかし、1番の問題はなぁに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 九条が、そう言って天使の羽を1本1本引きちぎる。


「——ッい、痛い痛い痛い! や、やめてくださいッ!」


「誘拐犯ってのは人質に恐怖を与えるのが仕事でさ、あんな誘拐犯の風上にもおけねぇこと、極悪人が許してもこの九条が許しやせんぜ」


 1本また1本と引きちぎる。


「やめなさいッ、この罰当たりがッ! 天使様はオラを皆が幸せな天国に連れてってくれようとしてるだけさねッ!」


「っあ?」


 九条が天使につかまっているお爺さんを見る。


「クソジジィは黙って孫にお小遣いでもあげとけッ!」


 そう言って顔を蹴り飛ばし、下に落とした。


「っあ! 何するんですか! 天国に連れていくよう言われて——」


「天国、天国うるさいっすんよ」


 天使をドローンの中に引き込み、羽を1本、いや面倒になり手で掴んだ分丸ごと引き抜く。


「皆が幸せな場所なんざ、幸せなわけないじゃないすか。いいすか、誰かが不幸だからこそ幸せって思うんすよ。そんなことも分からないんじゃさてはお前、この白い羽の下にある薄汚え黒い肌より真っ黒じゃねぇすか?」


 天使の顔を一発ぶん殴る。


「ッ——じゃ貴方が言う天国ってなんなんですか」


「そんなの決まってるじゃないすか」


 九条が羽が引っ付いている手を天使の顔にゆっくり当てて笑う。


()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ふ、副隊長、一人で何をしてるのですか? 隊長がすでに飛び降りましたが……」


 隊員達には天使は全く見えておらず、副隊長が一人で喋ってるようにしか見えていなかった。


「ああ、分かりやした。ちょうどいい座布団も見つけたし、俺もちょっとスーパーヒーロー着地ってのを挑戦しやす」


 九条が天使を掴み上げそう笑う。


「——っへ? いやいやいやいやいや、冗談ですよね、じょ」


「俺は嘘はつかないんでさ」


 そう言ってドローンから勢いよく飛び出した。


「————イヤァァアアァァアア!!!」



---------------------------------


 

「それで今に至るっす」


「いやそれスーパーヒーロー着地って言うよりヴィラン着地ッ! 天使の羽って言うより天使本体じゃねぇか! さっきお前の足震えてたけどあれ天使の微震だったのッ?! っていうか、お前天使とかそんなの見えんのォッ?!」


「安心してくだせぇ、元気にビクビクしてますんで。っほら」


 九条は下にある座布団を掴み上げて隊長の方に近づける。


「——殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す、クジョォォォオオ」


「うぉ、本当だ。見えねぇけど聞こえっぞ。……てか、これ落ちた時に一緒に堕ちてね? 天使より堕天使になってね?」


「ああ、どおりで羽まで黒くなってるわけっすね。いやぁ、天使じゃなくて隊長、良かったすね。はっははは」


「ああ、堕天使の方で本当。良かった……って良くねぇよ?! お前が堕としたんだよ?!」


「ま、細かい事気にしてたらハゲまっせ、これは釣った魚がピチピチ跳ねるみたいなもんでさ、でその後俺らが着地したのを見て『自分もできるんじゃねぇか? 一回やってみたかったんだ』 ってことで、他の奴らも飛び降りたみたいでさ」


「いや馬鹿、結局、俺の隊員たち馬鹿ばっかじゃねぇか」


「隊長もですけどね。——ッぺ!」


 九条が堕天使の顔に唾を飛ばし、塗りたくりそこらに投げ捨てる。


「お前、それ大丈夫なのか、罰当たらないか?」


「何言ってんでさ、隊長。誘拐犯捕まえて罰当たるわけねぇじゃないすか。むしろ良いことがありそうでっせ」


「……ま、そ、そうか。そ、そうだよな。よくよく考えてみたら天使も悪魔もどっちもやってること大して変わらねぇっか。ま、そうゆうことにしておこう」


 工藤はそう言って電子タバコを何度も大きく吸う。


「……おい、一般人。遅くなったが俺たち桜菊隊が来たからには安心しろ。必ずこの『工藤 大和』の名にかけてお前を——」


「いや、隊長、もう遅いでさ」


「何言ってんだ九条、何事も遅いって事はねぇんだ——ックサ!?」


 九条が鼻を摘みながら指を差す。


「は、はは、ははははッ、人生のゴールなんざ、ゴールって決めたらそこがゴールになるんだよ。もうここが俺のトイレ(ゴール)だ。もうお仕舞いだ、これ以上物語進めねぇよ、ここがゴールだもんなッハハハッ!」


 ゴリラの手の中で頭を左右に揺らし白目で笑う柏木。そして辺りにはうんこの匂いが立ち込めていた。

地獄を見ながら飲む酒はきっと格別なものでしょうね……

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