8 精鋭部隊の不幸その②
1
「何ぃ!? 一部隊到着が遅れてるだと!?」
精鋭部隊隊長ことゴンザレスは報告に大声を張り上げた。
前回の作戦は不幸にも原因不明の電磁パルスにより失敗。
それによってレジスタンスは大事な力の誇示の機会を失ったばかりではなく、貴重極まりない自走式地対地ミサイルの発射車両までも失うという失態を犯したのだ。
本作戦は、その名誉挽回のまたとないチャンスだった。
つまり何が何でも成功させなければならない。
「そう言えば、あの集落にあった死霊の動力炉を持ち込んだのが、死んだはずの颯だって噂が立ってるの知ってます? なんでも特徴が似てたとか」
とフレイ。
「そんなはずがなかろう。死霊をたった一人で狩るってのも常識から外れてるのに、ましてそれをあの役立たずが出来ると思うか?」
「デスヨネ」
余程今回に賭けているのか、ゴンザレスはいつになく不機嫌だ。
「そんな事より、状況はどうなってる? 一部隊到着が遅れているというが彼等無しでも行けると思うか?」
「これだけの物量集めてますし、大丈夫でしょう。まして精鋭部隊の我々が作戦に参加し、しかも今回の指揮を隊長がされてるんすから」
「お前は良い事を言うなフレイ」
ゴンザレスが何度も頷く。
「それにしても死霊共の腹の中に、あんなとんでもないお宝があるなんて、思いもしませんでしたね? あの集落の電力が全部あれで賄われてるっていうじゃないですか」
「集落から奪取出来れば一番手っ取り早かったのだがな、あのトラップが解体出来ん。しかも動力炉が誘爆した場合、何が起きるか分からん」
「『あれ』を持ちこんだ奴は、そこまで計算済みだったんでしょうね」
「だろうな。かなり頭の切れる人間だ。しかもあのトラップは実にいい仕事だった。目下総力を上げて『あれ』を持ち込んだ者を探しているが、見つけることが出来たら是非うちの隊にスカウトしたいものだ」
ゴンザレスはやや大げさに腕を組み頷く。
「けど、情報じゃ『あれ』を持ち込んだ奴は、レジスタンスを追放されたと言ったらしいですよ?」
「それは、よっぽど見る目の無い人間が上だったのだろうな。私のような優秀な人間であれば、あのようなトラップを仕掛けられる者を、追放するはずがない」
「そいつも不幸っすね。よく言うじゃないっすか敵より怖いのは馬鹿な上官って」
「全くだ」
そう言ってゴンザレスは声を上げて笑った。
「まぁ、でもこれで良かったんじゃないっすかね。おかげでこうして我々の隊は名誉挽回チャンスを得たんすから。死霊共の動力を持ち帰れば、名誉挽回どころじゃなくて、レジスタンスの革命っすよ。その栄誉が隊長のもになるんすね」
「うむ、フレイは本当に良い事を言う」
フレイのゴマすりによって完全に機嫌を直したゴンザレスが、指揮に戻ろうと背を向ける。
それを見届けたフレイが、小さく舌打ちし、
「タクッ、面倒臭ぇオッサンだよな」
と聞こえない程の声で呟いた。
「さて、ではそろそろ始めるか。包囲は完璧だ。敵はまだ此方に気付いていないはず」
ゴンザレスがそう言った瞬間だった。地を揺るがすような爆発音が響き渡る。休眠状態の標的が居たであろう地点で黒煙が上がった。
さらに続けざまに強烈な閃光が迸り、その周辺が火の海と化す。
「な、何が起きた!?」
「分かりません! あ、いや、たった今通信が……」
「どうした、早くしろ」
「合流が遅れていた例の部隊が、途中でヒューマノイド型の死霊に襲われたらしく……」
「ヒューマノイド型!? おい、そんなの聞いたことがあるか?」
通信担当との会話の途中でゴンザレスはフレイの顔を見る。
「聞いたことないっすね」
「何かの間違いだろう。それで?」
「それで、山林に逃げ込んだらしいのですが、そこで運悪く標的と出くわしたらしく」
「あぁー起こしちゃったんすね」
フレイがやれやれとでも言いたげに大げさに首を横に振った。
「何てことだ……何てことだ!」
ゴンザレスが拳をデスクに叩きつけた。
「で、どうするんすか?」
「やるしかないだろう。これだけの物量と人員を投入してるんだ! 今更引けるか!」
「デスヨネ」
その後はもう悲惨だった。
無線機越しに響き渡る悲鳴。被害報告が引っ切り無しに上がってくる。更に投入した物量の殆どを使い切り、そして……
2
精鋭部隊隊長ことゴンザレスは、一面焼け野原と化した戦場痕に立ち、高らかに笑っていた。
被害は甚大だった。投入した物資も使い果たした。
だが、目の前にはそれに見合うだけの成果がある。
全ての触手と駆動脚を無くし、完全に行動不能となった死霊の姿がそこにあった。資料にあったのと全くの同型だ。
動力炉は無事なのだろう。その証拠に眼球を思わせるセンサー部が、ギョロギョロと動き回っているのが望遠鏡のレンズ越しに見える。
生け捕る事に成功したのだ。
――死霊共の動力を持ち帰れば、名誉挽回どころじゃなくて、レジスタンスの革命っすよ。その栄誉が隊長のもになるんすね――
そう言ったフレイの言葉が蘇る。涙が出そうですらあった。
――私はやった。やりぬいたのだ!――
拳を空へと向かって突き上げる。
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
そして高らかに勝利の雄叫びを上げた。
その次の瞬間だった。
地を揺るがすような爆発音が、辺り一面に響き渡る。
「な、何が起きた!?」
あまりの音の大きさに思わず手にしていた望遠鏡を投げてしまったゴンザレスが、情報を求めて声を張り上げた。
「標的が……自爆しました」