3 精鋭部隊の不幸その①
時を遡ること十数分前。これは颯が謎の美少女と出会い、謎の超兵器を使用して衛星を破壊するちょっと前の出来事。
1
「時間だな。発射準備に掛かれ!」
精鋭部隊隊長ことゴンザレスは意気揚々と命令を下した。
「イエッサー!」
自走式・地対地ミサイルによる敵施設攻撃は、敵の防空システムの前に全くと言って良い程、役に立たない。
だから捕虜収容施設に対する奇襲とは言っても、それは収容所にいる人間を救う事でもなければ、敵施設に損害を与えるためでも無かった。
既に生産する術の無い貴重極まりない大型兵器を無駄に使用するのは、それが支配エリアの住民に対しての力の誇示に繋がるからに他ならない。
打ち上げの際の派手な音と、空高くに尾を引く推進排気痕は広い地域に対し、高い宣伝力を誇るのだ。
「颯の奴もう自爆しましたかね?」
とフレイが隊長に話しかけた。
「さぁな、爆破時刻を何時にするとか、特に指示しとらんからな」
荷台の発射台がせり上がって行く様を見守りながら、ゴンザレスはさして興味も無さげに応える。
「そうなんすか? そりゃ勿体ない。せめて時間が分かりゃぁ、そこに合わせて打ち込めば、まぐれ当たりくらい期待出来たかもしれないじゃないですか」
「それもそうだったな。実に勿体ない事をした」
「これじゃあいつ何のために死ぬのか分かりませんね?」
「我々の今後の輝かしい活躍の為だ。奴もさぞ光栄だろう」
「違いないっすね」
フレイの言葉にゴンザレスはガハハと声を上げて満足気に笑った。それに続くように他の面々も笑う。
「発射準備整いました!」
「よし、では派手に一つブチかますとするか」
ゴンザレスがそう言った瞬間だった。空にもう一つ太陽が現れたかの如く強烈な光が辺りを包み込む。
そのあまりの眩しさに目を覆う刹那、操作パネルに激しい電光が走り抜けた。
「な、何が起きた!?」
「分かりません!」
再び空を見上げると何かの余波とも言うべき光を伴った波動が円盤状に広がって行く。まるで上空で核爆弾でも爆発したかのような光景だ。
「いったい何が起きているのだ……」
「隊長! 発射システムが!」
「どうした?」
「その……」
「どうした早く言え! 馬鹿者!」
「全く動きません!! 全てダウンしてます!」
「なん……だと?」
ゴンザレスが愕然と掠れた声を漏らす。
「これってひょっとして電磁パルスってやつじゃないですかね?」
「何だそれは?」
「昔聞いたことが有るんです。旧時代のどっかの大国が、成層圏で核実験して、その時発生した電磁パルスの影響で機器類が全部壊れて街中が大停電になったって。さっきの空の異常な光、操作パネルがショートしたタイミング……」
「まさか、そんな事が……」
「どうするんです? レーダーも何もかもイカれちゃってますぜ?」
とフレイ。
「何とかして打ち上げろ!」
その無茶苦茶な命令に部下たちが困惑した表情を浮かべる。
「何とかって……」
「お前等はこれがどれだけ貴重なものか分かっているのか! それをまさか『使わずに壊れました』ってどの面さげて報告するんだ! 本部では今頃ミサイルの推進排気痕跡が空に靡くのを、今か今かと待っているはずだ!」
「じゃあ、あれだ。直接プラグをショートさせてエンジン点火すれば良いんじゃないっすか?」
フレイが片手をヒラヒラと振りながら、とんでもない提案をした。
「それじゃぁ何処に飛んでくかも分かりませんよ!?」
「良いんだよ別に、どうせただのアピールなんだから」
「それにしたって……」
「誰がそんな危ない作業やるんです?」
「は? お前だよ」
フレイは隊員を指さし当然のように言い放った。
「何故私が!?」
「隊の序列だよ。颯が居なくなった今、誰が一番の下っぱだ?」
「それだけの理由で!?」
「当たりめぇだろ。死んだら困る人間から序列が決まってるんだろうが」
「そんな……」
2
「本当にやるんですね……」
今まさに発射されようとしているミサイルの直ぐ脇で作業をする隊員の声は震えていた。
ゴンザレスがそれにおもむろに頷く。
「ほら早くしろよ!」
フレイが苛立し気にまくし立てる。それに、隊員はタダでさえ引き攣った顔を更にこわばらせた。
「は、はい」
痙攣した指先で恐る恐るバッテリーから引き抜いたリード線をショートさせた隊員。
次の瞬間、発射管の後方に勢いよく炎が吹き上がった。
「ヒっ!」
任務を果たした隊員が悲鳴を上げ、発射台か転がり落ちる。
それとほぼ同時だった。発射台そのものが、唐突に脱力するかの如く倒れこむ。
結果として振り下ろされながら、ほぼ水平方向に打ち出された無制御のミサイルは、壊れたロケットの如く不自然な回転を起こし、隊長ゴンザレスの直ぐ頭上を掠めて再上昇、山肌に炸裂した。
あまりの事に腰が抜けたように尻もちをつくゴンザレス。
が、彼等の不幸はそれだけでは終わらなかった。
ミサイルが着弾した山肌が崩れ始めたのだ。
大量の土砂が迫ってくる様に一同が目を見開く。
「「「「「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
断崖絶壁に精鋭部隊の悲鳴が木霊した。