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29 どうやら、集落の人達と共に偉い遠くまで連れてこられたようです。

1


「有難うございました! 本当に何とお礼を言ったら良いか」


 そう言って自分の手を取った男は泣いていた。


 レジスタンスに家族を人質に取られ、無理やり破壊工作員にさせられた男達が、それぞれ再会を果たした家族と抱き合い、互いの無事を確かめ合う。


「それにしても、ニューロデバイスの導入を決めた者がいたなんてね。この前会った時は誰も導入なんてしてなかったと思うんだけど。おかげで助かったわ。あのままでは中立エリアに大きな被害が出ていてもおかしくはなかった」


 とアイリス。


「理由はこれです」


 男は言いながらズボンの裾をめくりあげた。


 だが、そこには特に違和感は感じられない。


「え?」


 こちらが困惑すると男は膝のあたりを指さした。


 よく見ると膝のあたりを境に上と下で、ほんの僅かに色が違って見えなくもない。更に凝視して、継ぎ目らしき痕がようやく見て取れた。


「これ義足なんです。と言っても信じられない程、馴染んでいて違和感は殆ど無いんですけど。

 あの後、中立エリアと集落の往復の途中で、運悪く古い地雷にやられてしまって、死霊達に助けられたんです。それで、義足の操作には脳へのニューロデバイスの導入が必要だと言われて……正直、脳を弄るっての言うのはかなり抵抗があったんですが、家族もいるし動けなくなるよりマシだと諦めたんです。結果的には、そのおかげでレジスタンスにバレずにはやてさんに連絡を付ける事が出来ました」

「なる程な」


――そう言えば、俺の右腕も義手と言えば義手か。


 ふとそんな事を思い出す。


「それで、この後はどうするんだ? 今のままの生活を続けるのか?」

「出来ればそうしたいのですが、レジスタンスの報復を皆怖がっています」


 そう言って男は、心底困り果てたような表情をした。


「確かに、ここらで一番近い施設は壊滅したとはいえ、組織自体が無くなった訳ではないからな。いっそのこと中立エリアに身を寄せた方がいいのではないか?」

「いえ、あそこは私達が生きていくには……」

「馴染めないか」

「はい」

「ねぇ、提案なんだけど、『管理自治区』に身を寄せてみてはどう?」


 唐突に会話に割り込んだアイリス。それに男は困惑したような表情をする。


「管理自治区とは?」

「貴方達の世界の新政府組織が管理してるエリアよ」

「この世界に政府が!?」


 男が目を見開いた。


「女王直轄のプロジェクトとして、既に新政府が7年も前に発足してるわ。今の所防衛面を担ってるのは私達だけどね」

「それは、いったい……」

「早い話が、私達の主導で現実世界に嘗ての政府の1つを復活させたの。勿論その構成員は全て現実世界の者達だけで構成されてるから安心して」


 だが男の顔色は優れない。


「それは、貴方達にとって都合の良い政府を作り上げたと言う事ですか?」

「そう言われると何か悪意を感じるけど、否定はしないわ。結局、私達が貴方達を直接支配しようとした結果が今の惨状。現実世界は壊滅して尚、私達の統治を受け入れない。次から次へとレジスタンスが立ち上がり、ゲリラ戦を仕掛けてくる。それによって私達のサーバーが落とされる事件も未だに続いてる。

 こんな事はもう終わりにしたい。それで私達は直接統治を一部止めて、私達の交渉相手として、嘗ての政府の一つを復活させる試みを行ったって訳」

「なるほど……」


 言葉とは裏腹に男の顔には煮え切らない感情が浮かんでいた。そして続ける。


「正直、直ぐに返事は出来かねます」

「でしょうね。なら、見るだけ見てみるのも良いんじゃない? じゃないと何も進まないでしょう?」

「そう……ですね」

「なら、送るわ。どうせ私達もそこに用があるのよ」


 そのアイリスの言葉に今度は此方が驚いてしまう。


「え? そんな話聞いてないぞ?」

「あら、ナイツ・オブ・クイーンの入隊式と女王への謁見の話、受けたのでしょう?」

「そうだけど」

「女王旗艦ディズィールは、管理自治区上空2万メートルに常駐してるわ」

「そ、そうなのか? なる程……」

「ただ、集落の人間全ては流石にトレーラーに乗らないぞ」

「そうね。何人か選出してもらうかとも考えたけど、そこに住むか住まないかは個人が決める事だと思うから、輸送艇をこのまま使いましょう」


2


 床だけ残して、外の風景を360度全面に渡って映し出している艇内にいる感覚は、そのまま空飛ぶ床に乗っているかのような感じだった。


 ただそれは優雅さとは程遠い。あまりの速度で航行している為に輸送艇が燃えるようなプラズマを纏ってしまっているのだ。

 

 おかげで外界は真っ赤に染まり、この世の終わりのような光景に見える。

 

 トレーラーごと死霊達の輸送艇に積まれ、こんな調子であれよあれよと言う間に海を渡る。行先は分かっているが、それが何処にあるか分かっていなかった。


 まさかこんなに遠いとは。


 やがて、輸送艇が速度を落としプラズマ化した大気の衣を脱ぐ頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。


 長い間飛行したと言うよりは、夜側の地域に来たと言う方が正しいだろう。全く以て何て移動速度だ。


 そして眼下に広がるあり得ない光景を目にする。


 街明かりだ。

 

 それも全盛期の旧世界を彷彿させる、都市の光が広がっていた。


「これは……」


 まさか、この世界にこのような場所があるなどとは夢にも思わなかった。何もかもが壊滅的に滅んだ世界で、まるでここだけが戦争の記憶を持っていないかの様に見えた。


 自分の中に湧き上がる感情が何なのか分からない。感動しているのか。強い怒りを感じているのか。それすら分からない。ただ、自分の知っている世界観の全てが崩れ去るのを感じた。


 アイリスが唐突に真上を見上げて指を差した。その先を追って、そこに浮かんでいたものに更に驚く。


 恐ろしく巨大な何かが上空に浮いていた。流線形をした純白の何か。それが巨大な光の羽を広げ、そこに在る姿は神々しさすらも感じる。


「あれが、女王旗艦ディズィールよ。全長2400メートル。大きさでは殲滅艦に劣るけど、その火力は殲滅艦のそれよりも上。そして一番の大きな特徴は、あの艦一隻でフロンティアの全艦艇、全機動兵器と同期して指揮する処理能力を持つことね」


 言葉が出ない。


「取りあえず下に降りましょう。彼等を下ろさないと行けないことだし。ねぇ、聞いてる?」

「あぁ……」

「私達が出会った時、『ようやく私達と貴方達の共存が再び見え始めてきた』って言ったの覚えてる? それがこれよ。驚くのも無理はない。そして貴方がこれを見て単純に喜ぶことも出来ないのも解かる。けど、此処まで来るのに私達も10年かけた。出来ればもっとこれを広げたい」


 そう言ったアイリスの瞳に浮かぶ感情が何なのか、自分には分からなかった。



お知らせです!


同世界を死霊視点で描いた此方よりもハード目の作品もありますので、もしよかったら此方も覗いて見てくださいね


『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした』

https://ncode.syosetu.com/n0684dg/


※お知らせは最新話のみに入れて行く予定です

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