28 どうやら人質を無事救出したようです
全周波数域・電磁場迷彩ステルス。それは死霊達が持つテクノロジーで透明人間になるのは勿論、あらゆるセンサーに反応しなくなるという。
まったく持って死霊達のテクノロジーは魔法である。
イディアからフィードバックされた視界は、違和感が全くなかった。
しかも『虫』をいたる所に先行させてくれたおかげで、施設内のマップが出来上がっている。
――15メートル先の階段を下へ進んでください――
――了解した――
狭い施設内、行きかう人間と接触しないように歩くのがこれ程までに難しいとは思わなかった。
まして相手には此方が見えていないのだから、避けようとしない。
――なんか、壁を天井ギリギリに歩いた方が良さそうね――
アイリスがそんな事を言い出す。
――出来るのか? そんな事――
――飛行ユニットの力場発生装置があれば出来るけど――
――ユニットは施設の上空だろ?――
――そうなのよね――
――こちらで、外部からの力場干渉を行えないかシミュレートしてみます。2分ほど待ってください――
――あなた凄いわね――
――私は戦闘用AIとして育てられましたから。こういうのは得意分野です――
待ってる間も無駄にしないように、壁に張り付くようにして進む。そして最大のピンチが訪れた。
3人並んで歩いてくる輩がいたのだ。
咄嗟に後ろを振り返るが、先に通過してきたばかりの扉がすれ違った男に閉められてしまっている。
「最近、突然この施設に来て我が物顔で命令してるあのゴンザレスとかってやつ、俺、嫌いなんだよな」
「ああ、分かる。一緒にいるあのフレイってやつも最悪じゃねぇ? てか、あれはぜってぇイっちゃてる」
「確かに、この前の対人戦の時なんか、命乞いした奴から真っ先に撃ち殺してたしな。しかも直ぐに殺さねぇんだわ。いたぶるっていうか」
「えげつねぇ」
何だか聞き覚えのある名前を聞いたような気がするが、それどころでは無い。
――イディア、急いでくれ――
――行けました。身体が浮き上がるので注意してください――
思考伝達が終わるのと同時に浮き上がった身体。
思わず『うぉっ!』と声を上げてしまいそうになるのを必死でこらえる。
その後は格段に進みやすくなった。見ている風景と感じる重力の方向のギャップに頭がおかしくなりそうではあったが、背に腹は代えられない。
イディアの指示に従い地下へと降りる。さらに通路を抜けた先の奥の部屋に人質は捕えられていた。
よくもまぁ、こんな狭い所に詰め込んだもんだ。
――中立エリアのタイムレートダウンまで10、9、8……1、ダウン。サーバー塔の信号ライン間隔は180秒です――
視界に赤字で数字が表れ、180秒からのカウントダウンが始まる。
中立エリアは今頃、アイリスの指示によって自作自演の爆発を起こし、サーバーダウンを装ってるはずだ。
実際にはサーバーのタイムレートを極限まで下げているだけなので、180秒後には、サーバー塔の表面を、眩いばかりの光が駆け抜け、中立エリアが生きている事が、監視者にばれてしまう。
その前に人質を救出しなければならない。
見張りの男達を気絶させ、人質がいる部屋に潜り込む。
そして、ステルスを解除した。人質たちの間にどよめきが走るのを、口元に人差し指を当てて制する。
「助けに来た。そのまま喋らずに聞いてくれ。今から隣の部屋に、地上まで続く風穴を開ける。かなり荒っぽい手段となるから、伏せてくれ」
人質達が何度も頷き、その場に頭を抱えて蹲る。
それを確認して天井の上に透けて見える上の階のヒトの動きに注意した。
そして、それが途切れた瞬間、上空のユニットを解放し、メデューサの集積光砲で地下まで打ち抜く。
出力をかなり絞り、しかも打ち抜いたのは隣の部屋だとはいえ、凄まじいまでの爆発音が鳴り響き、半分パニックになる人質達。
それを大声で、
「こっちだ!」
と叫びながら、力任せに壁をぶち抜き、隣の部屋へと誘導する。
すでにそこにはユニット本体から分離したプレート状のユニットが準備されていた。
素早く人質を乗せ、シールドを張る。
雪崩込んでくるかと思われたレジスタンスの隊員は、来る気配がない。
壁や天井に透けて見えるヒトの動きは、人質をどうこうと言うより、完全にパニックになっているようだ。
死霊の象徴たる兵器が、施設に直撃したのだ。パニックになるのも無理はない。普通に考えれば、生き延びたければ逃げるしかないのだから。
先に地上へ上った人質達を追って自分も跳躍する。
あとは死霊達の輸送艇に人質を引き渡せば終了だ。
破壊工作員を監視していた者達の所にも、今頃ネメシスと呼ばれる死霊達の主力兵器が向かっているはずだ。
――監視者の1グループが離脱しようとしています――
それと同時に視界上に現れる誘導カーソル。それが指し示す方向に視線を集中させると、途端に視界がクローズアップした。ここから4kmほど離れた地点。
捨ておいてもネメシスに捕まるだろう。仮に逃げ切れたとしても、普段の自分だったら捨ておいたに違いない。だが、今回ばかりはそのつもりはなかった。
奴等の移動手段であろうトレーラーにマーカーが灯る。次の瞬間、メデューサが凄まじいまでの赤い閃光を放つ。
遥か遠方で火柱が立ち上がり、トレーラーがバラバラに弾け飛んだ。
それに合わせたように死霊達の輸送艇がネメシスを引きつれ上空に現れる。
これで、この施設は壊滅し、ここに居た者達は全員拘束されるだろう。
――穏便にな。死者は出したくない――
――ええ、分かってるわ。穏便には出来ないけど――
アイリスの思考伝達に深く息を吐く。
遥か遠方、地平線ギリギリには中立エリアが放つ強い光が見えた。
――監視者達を全て拘束しました――
イディアの思考伝達が頭に響く。
――これで、依頼完了だな――
――ええ。それにしてもレジスタンスの施設を完全に潰すなんて、貴方はもう完全にこちら側の人間ね――
――さぁ、それはどうかな?――
――意地っ張り――
頭の中に響くアイリスの声は笑っていた。




