21 どうやらヤバそうな施設を調査することになったようです
1
「あれだな」
そこは砂漠地帯に接した標高5000メートル級の山々の裾だった。遠方に山の中腹のあたりに生い茂る密林地帯が見える。
そこからもたらされる水が、砂漠地域の集落にとって貴重な水源となっていた。
今回ここに来た目的と言えば、水の流れを変えてしまっている土砂の排除である。水を求めて集落を訪れた結果、水源の復帰を依頼されてしまったのだ。
「それにしても、酷い有様だな」
大地には激しい戦闘の跡が刻まれている。川が土砂で埋まってしまった理由も、この戦闘のせいだとはっきり分かった。
人と死霊の戦闘ではない、これは人同士が争った痕跡だ。支配地域の異なるレジスタンス同士の縄張り抗争である。
文明を失った人類が死霊達に抗う為に立ち上げたレジスタンスは必ずしも統率のとれた組織ではない。
大小様々な組織が勝手に立ち上がり、死霊に対してゲリラ戦を仕掛ける一方で、彼等同士が限られた資源を巡って争うというどうしようも無い状況なのだ。
レジスタンス時代に何度も対人戦闘に参加したが、それを通して知ったのは自分がいた組織は、それなりに大きく統率が取れていた方だということだった。
視界上で問題の原因となっている土砂の中心に、光点がマーキングされる。
自身の周りで空間が歪み、そこから数本の触手が顔を出した。
『連動連続型・集積光砲群メデューサ』と呼ばれるそれは、死霊達の機動兵器には必ずと言って良い程、搭載されているエネルギー兵器だった。
死霊達の特徴である気色悪いこれが、自分にもきっちり付属していた事実にげんなりしてしまう。
触手の先端が僅かに赤い光を灯した次の瞬間、凄まじいまでの光がその先端から放たれた。あまりに高いエネルギーの通過によって引き裂かれた大気が、雷鳴のような轟音を響かせる。
集積光が炸裂した土砂は一瞬にして赤熱溶融、気化した事で大爆発を起こした。
「これで、依頼完了だな」
そうは言ったものの、このエリアでの戦闘が続けば、この決して大きくは無い川は、また土砂で埋まってしまってもおかしくは無い。
「そう言えばなんだけど、女王謁見の件は隊長に返事はしたの?」
不意に此方の顔を覗き込み、そう言ったアイリス。
「ああ、受けることにした」
「そう、意外だわ。断るのかと思ってた」
「断ったら、君に迷惑が掛かるだろ?」
「あら、心配してくれたの?」
そう言って笑ったアイリスは思いの外、嬉しそうだった。
2
依頼を完了した事を伝える為、旧世界の中規模都市部である砂漠の街に戻ったのはその日の午後だった。
都市部だけあって、そこに残された戦争の傷跡は、今まで見てきたものの比ではない。
そこでは、残された僅かな人々が身を寄せ合うようにして生きていた。
「問題の土砂は排除した。恐らく2、3日中には水は戻ると思う」
「本当に、やってくれたのですか!?」
「ああ、どちらにしても水が必要だったからな。ここで手に入らないなら源流に行くしかないだろう」
「それは、そうですが……」
集落の男は開いた口が塞がらないと言うように、目を見開き此方を見つめる。
その後ろでは、人々が大歓声を上げていた。
「にしても、情報の通りレジスタンス同士の抗争が激しいようだな?」
「ええ、ここ最近はより激しくて」
「原因は、やはり水源か?」
「いえ、恐らくはその更に上流にある、旧世界の軍関連の施設です」
「なるほど、確かにそう言った施設は抗争の原因にはなり得るが、武器弾薬が残されてる可能性はそんなに高い訳じゃない。ましてああいった施設は、死霊達に徹底的に叩かれているからな。それを知らない奴等では無かろうに」
「なんでも、特殊な施設らしいです。戦争初期の頃に死霊について研究していた施設とかで、対死霊に特化した専用兵器の存在が、前から噂されてました。しかもあの施設はまだ生きています」
「まだ生きてる? そんな事がありえるのか?」
そう問いかけると、男の表情は僅かに強張った。
「抗争が始まる前、レジスタンスに案内を頼まれて一度行った事があるんです……」
そう言って、視線を下に逸らし黙ってしまった男。仕方ないので、
「それで?」
と先を促す。
「施設は表面上瓦礫の山で、機能しているように何てとても見えなかったんですが、地下へと続く通路を発見して、その奥へ行ったら、大量の無人機に襲われて……」
男は恐怖に顔を歪め、両手で頭を抱え込んだ。余程怖い目にあったのだろう。
「行く時には10人以上の調査隊だったはずなのに、帰ってこれたのは私含めて3人だけでした……それから暫くしてからです。もともと一つだったレジスタンスが分裂して抗争を始めたのは」
男の顔から血の気は完全に引き、唇が真っ青になっている。これ以上は可愛そうだと感じた。
「なる程。良く分った有難う」
青い顔で会釈をした男。次の瞬間、吐き気を感じたのか、口を押えながら慌てて群衆の後ろに下がってしまった。
――気になるわね――
アイリスの思考伝達が頭に響く。
――だろうな――
――一緒に行ってくれる?――
――ああ――
躊躇いなくそう答えると、アイリスは怪訝そうな顔をした。
――本当に良いの?――
――何故?――
――対死霊特化兵器、私がそれを確認して危険だと判断すれば、私はそれを潰すわ――
――そうだろうな――
――けど、貴方達にとっては、それが私達に対抗するための希望になるかもしれない。貴方と同化している私は、貴方が『動かない』と言えば、そこに行く手段を失うわ。それは分かってる?――
――勿論わかってるさ。俺が『行かない』と言ったところで、君が上に報告する事も。何より『それ』の為に、レジスタンス同士が抗争してるんだ。本気で対死霊兵器として使うつもりなら、協力して手に入れるはずだ。分裂してまで奪い合う意味がない。奴等に、それを渡したらろくな事にならなそうだ――
アイリスの瞳が此方をまっすぐに見つめ、静かに細められた。
――有難う――




