15 精鋭部隊の不幸その③
1
「何故、この部隊がこのような仕事をせねばならんのだ!」
精鋭部隊隊長ことゴンザレスは不機嫌を隠そうともせずに、大声を出した。
今日、精鋭部隊に与えられた装備は、自走式地対地ミサイルでも無ければ戦車でもない。迫撃砲も無ければ、大型回転機銃も無い。
あるのはタンクローリーと自動小銃だけだ。要は『給油して来い』と命令されたのだ。
「仕方ないんじゃないっすか? この前はあれだけの物資と人員投入して成果ゼロだったすからね。被害も尋常じゃなかったし大損っすよ。そりゃ信用も無くなりますわ。マジあり得ないっす」
とフレイ。
「クソッ! 上手く行っていたんだ。そうだとも上手く行っていた。奴が自爆などしなければっ!」
ゴンザレスが拳をダッシュボードに叩きつける。
それを見た隊員の面々が深々と溜め息を吐いた。
「まぁ、それだけじゃ無いんすけどね。ここ最近全く勝ててないんすよ? なんか前より敵が強くなってませんか?」
「確かに、それは私も感じていたことこだ」
「やっぱ、隊長もそう思います? なんか動きも早いし、前に比べて機敏と言うか」
「と言うよりも、今思うと颯に近づくと敵の動きが鈍ってたような気がします」
一人の隊員が、ふとそんな事を言った。
「お前は馬鹿か!? んな事がある訳ねぇだろ?」
フレイが、声を荒らげた。
「全くだ。そんな非科学的な事を言う馬鹿は、この精鋭部隊には要らん!」
「失礼しました!」
速攻で謝った隊員であるが、ゴンザレスが視線を前に戻すと、
「もう、精鋭部隊じゃないだろ……この扱い」
と聞こえない程度の声でボソリと呟いた。
2
「もぬけの殻……!? これは一体……」
ゴンザレスは愕然と膝を突いた。
ここはバイオ燃料製造設備を備えたレジスタンスの重要な補給拠点であったはずだ。
だが今、ここには人っ子一人いない。それどころか機材やら資材やらの一切が無くなっている。
どう考えても、此処で働いていた者達が全てを持ち去り、何処かに消えてしまったとしか思えない。
だが、彼等は何処へ行ったと言うのか。あまりに薄気味悪い状況である。
「タンクだ……タンクの中に燃料が残されてないか確認しろ!」
ゴンザレスは不意に思いついたようにそう命令を下した。
「ありません。一滴も残されてません!」
「なんだと!?」
「これ、どうするんすか? 帰りの燃料もありませんぜ? 車両放棄します?」
「馬鹿者! そんな事出来るか! 他の拠点を目指すんだ!」
その言葉に隊員の一人が慌てて地図を開く。
「一番ここから近い拠点だとこれっすね。最短距離で行くには、一度支配エリアを出るしかありませんがどうします?」
「迂回した場合燃料はもつのか?」
「無理っすね」
「なら行くに決まってるだろうが!」
ゴンザレスに怒鳴られたフレイはあからさまな舌打ちをした。
「何だその態度は!? この私に文句があるのか!? あぁ!? 文句があるのか!?」
フレイはそれには答えなかった。再び舌打ちをするとそっぽを向いてしまう。
「お前等、何をしている!? さっさと出発の準備をしろ!」
腕を振り回して怒鳴り散らしたゴンザレスに、『フレイと隊長のやり取りを呆然と見ていた隊員達』が慌てて動き出す。
「言っときますがね。この先で『ヒト型の死霊』が目撃されてんすよ。それも2体も」
「この前、増援部隊を襲った例のヒューマノイド型ってやつか?」
「それと同個体かは分からないっす。ただそいつ等はどういう訳か仲間同士でドンパチやり始めたらしいんすよ」
「俄かには信じがたいな。仲間割れでも起こしたのか? あの死霊共が」
「そんなの知りませんよ。問題は、その死霊同士の派手な戦闘のせいでこの先の地形が前に調査した時と変わってしまってるって話っすよ。燃料もあんま無い状況でそんな未確定な場所を進むのは危険だと思うんですがね」
「貴様はまだ言うか!? そんなに車両を放棄させて、この部隊を、このゴンザレスを陥れたいか!?」
「何も放棄しろなんて言ってないっす。本部に事情を説明して救援要請しましょうや」
「そんな事をしたら、より無能扱いされるだろうが!?」
「そんじゃ、もう好きにしてくださいよ」
フレイが義手を床に叩きつけ、他の隊員を突き飛ばし後ろに下がっていった。
3
支配地域を出て間もなく一同は多数のクレーターと、まるで大地を切り裂いたかのような巨大な亀裂を目撃することとなる。
その痕跡の凄さに生唾を飲み込んだ隊員もいたが、ゴンザレスは違った。
大地に刻まれた死霊同士の戦闘の痕跡はすさまじかったが、大きく迂回しなければならない程のものではなかったのだ。
「こんなものを『地形が変わっている』と表現するのはいささか、大げさなのではないかね?」
フレイの顔を覗き込みながら、歪な笑みを浮かべたゴンザレスに、フレイが再び舌打ちをする。
それを見たゴンザレスが勝ち誇ったように声を上げて笑った。
「私の判断は常に正しい。正しいのだ! 皆もよく覚えておけ!」
ゴンザレスがそう言った瞬間だった。
夜が突然昼になったとしか言いようのない現象が起きる。空に巨大な光が弾け、それが凄まじいまでの速度で広がり包み込んだ。
その光景に目を奪われた刹那、車両が凄まじいまでの帯電光を迸らせる。
運転席の計器類が、爆発したかのように吹っ飛んだ。
これと全く同じ現象をつい先日体験したばかりの隊員達は血の気が一気に引けて行く。それはゴンザレスやフレイも例外では無かった。
「車両は……動くか?」
掠れた声で恐る恐るそう切り出したゴンザレス。
それに運転席に座っていた隊員が憔悴し切った声で答えた。
「駄目です……」




