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13/31

13 どうやら更にとんでもない肩書がついたようです。

 瞼の裏に強い光を感じて目を開く。酷い頭痛がした。


――流石に飲み過ぎたか――


 今のご時世、酒は貴重品である。その貴重品ですら、何を発酵させて作ったのかも分からない、異様に酸っぱくて匂いの強いものが手に入れば良い方だ。


 それに比べて、昨夜アイリスがウィンドウ操作一つで浴場に召喚したものは、経験したことの無いほどに美味しかったのだ。


 旧世界の最全盛期の酒がそういう味をしていたのかも知れない。


 眠い目をこすり、大きく伸びをする。そこで違和感に気付いた。


――って俺、なんで素っ裸なんだ?


 そんな疑問が頭に浮かんだその時、布団の中で何かがもぞもぞと動いた。それに大声を上げてしまう。


「あ、アイリス!?」

 

 その声に身を捩った彼女。


「おはよ」


 言いながら、上半身を起こした彼女の姿に、完全にパニックを起こした。

 

 露わになった艶めかしい肢体に、慌てて彼女に背を向ける。


――待て待て待て待て! 昨日、あの後俺はどうした!?――


 記憶がない。


――あら? 覚えてないの? あんなにも燃えたじゃない。あまりにも貴方が激しくするものだから、流石のこの私も壊れてしまうかと思ったわ――


「はいぃぃぃぃぃ!?」

「冗談よ。期待した?」


 アイリスの短い言葉に、起きたばかりだというのにどっと疲れてしまう。


「貴方はあそこで飲み過ぎて、更にお湯でのぼせたのよ。それだけ」

「ホントだな? 本当なんだな? てか、なんで俺裸なんだ!?」

「寝るだけなのに着せる必要ある?」

「あるわっ! じゃあ何故お前は裸なんだ!?」

「服を着たまま寝るのが嫌いなのよ。問題ある? うぅーん、それに気持ちの良い朝ね。硬い地面の上も新鮮だったけど。やっぱりこっちの方が良い。トレーラーに10km四方ぐらいの仮想空間が作れるサーバーも追加で載せるわね」


2


 それからアイリスの案内で、中立エリアの至る所を見て回った。


 見る物全てが絶句する程の代物だ。

 

 2万人が収容可能というダイブ施設に整然と並ぶ棺の箱と、その中に眠る人々の姿に何とも言えない気分にさせられ、一生この箱から出ない人もいるという事実に驚かされる。

 

 このエリアの核だという中央サーバー塔の、天を突き刺すような巨大さに圧倒され、何を作っているのか見てもさっぱり分からない自動化された生産ラインにあっけに取られる。

 

 何もかもが自分の世界観の中にはない常識外の物だった。

 

 自分達は一体何を相手に戦い続けてきたのか。


 死霊達の人口は今や450億人にもなると言う。


 勝てる訳が無いと感じた。

 

 彼等に比べれば今の人類など僅か数パーセントにも満たない小さな存在だ。世界は既に彼等のものだ。


「なんか、見る物全てが凄すぎてなんて言うか……」

「私達と貴方達の間には300年の時間軸のずれがあるの。仮想世界の時間の流れの速さを100倍に加速していた時期があるのよ」


 アイリスがさらっと言った言葉に、言いようの無い恐怖を感じた。


「何故そんな事を……」

「全てはこの戦争に勝つため。そして現実世界に対して揺るぎない優位を築くためだった。私達の中にあるのは現実世界に対する恐怖よ」


 そう言って、瞳を細めたアイリス。


「これだけの技術差を持っていながら、俺たちに恐怖?」

「私達は過去2度にわたって、現実世界に滅ぼされかけた歴史を持つ。一回目はまだフロンティアが貴方達の世界の一部として機能していたころに、サーバーに対する電源遮断によって。そして2度目は月に私達が逃れた後の核攻撃によって……」


 アイリスはそこで言葉を区切り、虚空へと瞳を移す。


「私達の世界は酷く脆いのよ。これだけ技術差があって尚、『アクセス者』を装った自爆テロでサーバーが落ちて、一瞬にして数十万の人間がその痕跡すら残さず命を落とす事件は未だに後を絶たない。貴方は何故私達が『死霊』と呼ばれるか知ってる?」

「いや……」

「私達は死して尚、生にしがみ付いたそのなれの果て。だから『死霊』と呼ばれたの。フロンティアはもともと医療システムだった。身体に大きな損傷を負って生存困難な者。当時の医療技術では生存が困難な者への適応を目指して開発された装置。それがこのフロンティアの原型よ」


 そう言ったアイリスの表情はとても寂しそうだった。


3


 最後に案内されたのは、最近になり定められたというエリアだった。死霊達の最新設備があるのかと思えば、目の前にあるのは何というか、一言で言うなら掃き溜めである。


 だが活気には満ち溢れていた。自分が良く知る世界の野営市場が展開され、そこには明らかに胡散臭い品々が並ぶ。


 酔い潰れてそこらへんで寝ている者がいるかと思えば、店先で客が店主と殴り合いの喧嘩をしているのが見える。


 そんなどうしようも無い光景になんだかホッとしてしまった。


「喧嘩してるあいつ等を止めなくていいのか?」

「いいのよ。彼等には自治権が与えられてるわ。よっぽどの事がなければこちら側が介入することはない」

「なんか、こんな場所がエリア内にあるなんて意外だな」

「でしょう? 実際今まではなかったのよ。以前までは受け入れの条件にニューロデバイスの導入と、生活の大半を仮想世界で過ごす事を強制してた。けど今は違う。ちゃんとした居住区と仕事も用意してはあるんだけど、みんな此処が良いんだって。まぁ、単に働きたくないだけの可能性もあるけど」

「なる程な」


 そう、返事をした瞬間だった。空間に唐突にウィンドウが開く。


 そこには、先日ウィンドウ内に見たナイツ・オブ・クイーンの隊長であるという銀髪の女性が映し出されていた。


「突然ですまない。だが緊急事態だ。軍部の純血過激派の連中が暴走している。すでに事態は解決に向かっているが、過激派によって占拠された殲滅艦の一隻がラグランジュ・ポイントを離脱した。残念ながら、此方からでは既に追いつけない」


 ウィンドウが開くなり一方的に話し始めた彼女に戸惑いを感じる。しかも何を言っているのか全く理解できない。


「そこですまないがはやて殿に頼みがある。現時刻を以て我が隊の第三位として入隊してもらいたい」

「はいっ!?」


 全く予想すらしてなかった彼女の言動に意図せず声が裏返った。


「入隊資格は先日うちの馬鹿……いや副隊長が確認しているから問題ない。貴殿の実力は条件を十二分に満たしている」

「そうじゃなくてっ!」

「すまない。だが貴殿は我が隊の保有兵器をそのランナーごと取り込んでしまっている。現状断る権利はないと思ってもらいたい。なにより事態は一刻を争う。殲滅艦が地上に降り立てば戦時中の悪夢がそのまま再現されるぞ」

「はぁ」

「今の返事は、同意していただいたと判断した。では、貴殿に命じる。問題の殲滅艦を大気圏突入前に破壊せよ。欠片一つも残すな。破片が地上に落ちれば、それだけで大惨事だからな。反粒子転移砲の高出力使用を許可する。作戦詳細についてはこの通信が終わり次第転送するので確認されたし。以上だ。では健闘を祈る」

「え? えぇぇぇぇえぇ!?」


 


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