ねぇねぇ、 2-1
身支度を整え、2人で店を出た。
一歩店を出ると、冬の京都の厳しさを思い知らされる。
風が吹く度、剣山で頬を撫でられているんじゃないかと思うほどの刺すような寒気が俺達を襲った。
「めぇめぇ」
マフラーで顔をすっぽりと覆ったアカリさんが口元をもごもごさせながら言った。
俺が「羊みたいになってるよ?」と返すと、アカリさんはマフラーを少し降ろし寒さに一瞬身を震わせた後、改めて口を開いた。
「ねぇねぇ、もしさっき言ってた小説書けたら一番最初に読ませてね」
アカリさんはそう言って悪戯っぽい笑顔を浮かべながら俺の方を見てきた。
「あぁ、いやぁ、改めて言われると本当に恥ずかしいんだけど」
俺が誤魔化し気味に笑っても、アカリさんの眼差しは真っ直ぐ俺を捉えている。
「書いて? 読みたい」
アカリさんの瞳に映る俺は、何度も何度も頭を掻きながら、頬を真っ赤に染めながら、それでも遂に決心したように、大きく数回頷いた。
アカリさんは安心したように笑ってくれた。
「絶対にこのサンタさんの経験は、小説に活かせると思うから。一緒に頑張ろう? 私も一生懸命サポートするから」
「サポート?」
アカリさんの言葉に俺は引っ掛かった。
「サポートってもしかしてトナカイの事?」
実はさっき店でパンフレットを見ていた時から気になっていた単語だ。
パンフレットには『クリスマス当日、男性はサンタさん。女性はサポート役のトナカイとして二人一組で活動して頂きます※女性はサンタクロース役にはなれません。予めご了承下さい』という一文があったのだ。
「そうそう。私も当日はトナカイとして頑張るよ!」
アカリさんは「任せて!」と笑う。
「どうして? アカリさんだったらサンタクロース役なんじゃないの?」
つい尖った言い方になってしまった。
「いやぁ、まぁ、それはね~」とアカリさんの笑顔に困惑が混じる。
「もし、もしだけどさ。俺もまだサンタのやる事全部把握してないから分からないけど、サンタの仕事の一部に力仕事があったりしてそういう体力的な意味で女性……っていうかアカリさんがサンタ役になれないんだったら俺がそんな部分も含めてサポート役のトナカイに回りますから、アカリさんがサンタ役になって下さい」
俺は『アカリさんを小説のサンタのモデルにしたいと思ってるんです』という言葉は何とか辛うじて飲み込んだ。
何だか自分でも熱くなってしまっているのが分かる。
ただそれも仕方ない。
スタバで『夢』の話を聞いた時からアカリさんを小説のモデルにしたいと密かに考えていたこともあるし、何より『※女性はサンタクロース役になれません』という一文が俺にはどうにも気に食わなかったのだ。
興奮気味に話す俺の言葉を受け止めた後、アカリさんはふと優しく笑った。
「ケン君は優しいね」
「だってさ……」
「あのね」
俺の話を遮るように、アカリさんが話し始めた。
それは女性がサンタクロース役禁止のきっかけとなった、とある事件についての話だった。