あなたの、 2-2
「夢?」
俺は突然聞かれて驚いてしまった。
「うん。だってそもそも今日私ばっかり喋っちゃってるし……ちっともケン君の事聞けてないし」
気付けば、俺たちはお互いにくだけた口調で話すようになっていた。
「夢って言われても……」
「大学生なら夢いっぱいでしょ?」
「それは何回生なのかによるよ」
半笑いで応えた。
もう俺は四回生だ。おまけに就活最終局面の12月。俺はもう何がしたいかではなく、何をさせて貰えるのかって事に思考をシフトしなければならなかった。
「やりたい事とかないの?」
「……ないかな」
俺はすっかり温くなったコーヒーを一息に飲んだ。苦みが口いっぱいに広がる。
「嘘だよ。じゃあなんでサンタさんになりたいって思ってくれたの?」
アカリさんが少し咎めるように聞いてきた。
「それは……」
誰かに必要とされたいと思ったから、クリスマス暇だったからそんな風に答えようと思ったが、どこか引っかかるものがある。
違う。
ボランティアサンタのtweetを見たあの瞬間、忘れかけていた大切な何かが俺の頭をよぎったのだ。
あれは、確か……。
「ありがとう、サンタさん」
俺は思わず呟いた。
「えっ?」と、アカリさんが不思議そうな顔を浮かべた。
「あぁ、思い出した。あはっ、あははっ、よく覚えてたなぁ」
「どっ、どうしたの?」
突然笑い出した俺に、アカリさんが困惑したように聞いてきた。
「あははっ、いや、あのさ……」
俺は思い出すままに、吐き出すように、話した。
特にこれといった特技のない俺は中学生の頃、小説家になろうと思っていた。
何か書いて懸賞に応募したわけじゃない。特別文章が得意なわけでも無い。
ただそれでも何となく、当時俺はある小説のアイディアを温めていた。それが「ありがとう、サンタさん」だった。
「子どもたちの空想上の存在であるサンタが、もし本当に実在したら」そんな設定でサンタの何気ない日常を描こうと思っていた。
プレゼントを買うために行列に並んだり、おやじ狩りに合いそうになったり、健康診断の結果に一喜一憂したり、誰かを好きになったり、フラれたり……
そんな日々悩み苦しむサンタさんに最後、小説家の卵がサンタをモデルに書いた「ありがとう、サンタさん」という小説をプレゼントするというオチで締めようと思っていたのだった。
「でもまぁ途中でやっぱつまんないなってことに気付いて止めたんだ。あぁ~そうだ。そんな時期あったなぁ。あはは!」
始めはただ昔を思い出すのが楽しくて話していた俺だったが、最後はただ取り繕うように話し続けていた。
やってしまった。
なんて、イタい奴なんだ俺は。
髭も髪もボーボーで、就活も半ばドロップアウトしているような冴えない大学生が、高校を出てすぐに仕事を始め忙しい合間を縫いながら自身の夢を今まさに叶えている、とっても可愛い女性の前で、興奮気味に夢を語ってやがる。
書いた事も無い、見るからにつまらなそうな小説の話をしていったい何になるんだ。
あぁ、やっぱり俺はイタくてダサくてどうしようもない。救いようのないバカだ。