あなたの、 2-1
アカリさんには物心ついた時からお父さんがいなかった。
いわゆる母子家庭というやつで、アカリさんのお母さんは女手一つでアカリさんを育てる為朝から晩まで働き詰めだったらしい。
だがアカリさんは「私ちっとも寂しくなかったの」と子どもの頃を振り返り懐かしそうに笑う。
アカリさんのお母さんは忙しい合間を縫って毎年クリスマスを盛大に祝ってくれた。
手作りのケーキに綺麗に飾り付けられたツリー、家の中がまるでアメリカの映画の中の世界みたいだと子どもの頃のアカリさんは思っていたらしい。
そして何よりアカリさんのお母さんが力を入れたのがサンタクロースだった。
手縫いの衣装に、細かな演技。アカリさんのお母さんは完璧にサンタになりきってアカリさんを楽しませた。
アカリさんが「お母さんでしょ?」と何度聞いても最後まで正体を明かすことはなかったという。
「ほら、サンタのおじさんがやって来るってお父さんがいる家庭の特権じゃないですか。だからお母さんなりに私の事考えてあんなにサンタさんを頑張ってくれたのかなって」
そう話すアカリさんの瞳はほんの少し揺れていた。
「アカリさんにとって、そんな優しいお母さんの姿が今の夢に繋がっているんですね」
俺がそう言うとアカリさんは照れくさそうに頷いた。
「そう……ですね。だから私はネットで同じようにサンタさんを子供たちに信じさせてあげたいって人を募ってこの活動を立ち上げたんです」
アカリさんはそう言って愛おしそうに団体のパンフレットを撫でた。
「私は一人でも多くの子にサンタさんを信じて欲しいの」
そう語るアカリさんの横顔はどこか切なく、儚げであった。
「なんかごめんなさい。一人で勝手に盛り上がって」
ふと、我に返り両手を合わせアカリさんが謝ってきた。
「何言ってるんですか。こちらこそ聴かせて貰って本当に良かったです」
俺がそう言うとアカリさんは「本当?」と言いはにかんだ。
「なんかケンさん不思議。私こんなこと話したの初めて」
俺もこんな話聞けたの久し振りです。何か本当すげーよかった。何か頑張らなきゃって思えました」
「あははっ、気恥ずかしいけど、そう言って貰えると何だか嬉しい」とアカリさんは少し顔を赤らめがら笑ったあと、「ねぇ?」と真っ直ぐ俺の目を見て聞いてきた。
「ケンさんには夢は無いの?」