あなたが、 2-1
阪急河原町駅、9時58分。
確かあの日はもう一本早い電車に乗るつもりだったのだ。だが、なんとなく家でウダウダとyoutubeを見てしまい結局、約束の時間にギリギリになってしまった。だらしない生活に慣れてしまうと、偶に早起きした時、朝の引き締まった空気に感化され、ついつい時間が無限に続くような錯覚に陥ってしまうのだ。時間が有限なことなんて、あの頃の俺は痛いほど分かっていたはずなのに。
ホームに降り立つなり、俺はサンタ管理人にDMを送った。
『ごめんなさい 今着きました どこですか?』
直ぐに返信が来た。向こうも今まさにDMを送ろうとしていたのかもしれない。
『おはようございます 今朝は冷え込みますね(笑) 来てくれてよかったー 中央改札口近くのベンチですよー』
ちょうど俺は中央改札を抜けたところだった。ベンチには数人の人が座っている。
『今着きました。どんな服着てるとかありますか? ちなみに俺は黒の上着を来ています』
『おぉ! 私はサンタ色のトートバックを持っています。っていうかKenさん分かったかもしれないです(笑)』
画面から顔を上げた瞬間声をかけられた。
「もしかしてケンさん?」
目の前には少し小柄で黒髪のボブがよく似合う可愛らしい女性が立っていた。
「さっ、サンタさんですか?」
俺が少し戸惑いながら返事をすると、「あはは、そういえば自己紹介してなかったですね」とその女性は笑った。
「どうも初めまして。私はボランティアサンタ京都支部の管理人してます、斉藤アカリって言います。気軽にアカリって呼んでください」
アカリさんは小首を傾げ笑った。小脇に抱えた赤色のトートバッグが小さく揺れた。