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さよなら、 2-1

 土日が明けてもアカリは帰ってこなかった。それどころか月曜日俺が仕事から帰るとアカリの私物が綺麗になくなっていた。

 当然だった。文句を言う筋合いなど無い。俺は全てを受け止めた。

 ところがクリスマス当日、まさかとは思っていたが事務所に着くとそこにはアカリがいた。他のメンバーと仲良く楽しそうに笑いながらアカリはボランティアサンタの準備を進めていた。

「アカリ……?」

 俺が声を掛けると、アカリは以前と変わらない笑顔で「あっ、ケン君! ちょうど良かった。今日ドタキャンの大学生が何人か出てね。悪いけどその分一緒に動いてくれる?」と聞いてきた。

 俺は訳も分からないまま頷いた。

「ありがと!」

 アカリはそう言って俺の背中を叩いた。周りのボランティアの人達が「相変わらず仲ええなぁ」と冷やかすのをアカリは「もう〜別にいいでしょ」と言い笑っていた。

 俺は全てを察し、皆の前では今まで通りアカリと付き合っている体で話を合わせた。

 本番当日ということもあって、事務所は慌ただしくアカリと2人きりで話す時間は無かった。今更アカリも話なんかないだろうし、俺としてはそれでよかった。

 事務所から数十組のサンタを見送った後、俺もサンタとして出発する時間が来た。

「お待たせ! サンタさん!」

 トナカイはアカリだった。腰のヘルニアが悪化し今年から完全な裏方に徹する事になった萩岡さんから「ケン君! 彼女と一緒だからってUSJとかに行かないようにね!」と笑いながら声を掛けてきた。俺が答えるより先にアカリが「そんなことする訳ないでしょ! ねぇ? サンタさん」と笑いながら答えた。

 俺は黙って頷いた。


 街に一歩踏み出せば、俺達はサンタとトナカイだった。

 目に付いたものをクリスマスやサンタに絡めながら俺達は仕事中のサンタとトナカイを演じた。


「サンタさん! 今年の日本は少し寒いね!」

「ホーホッホ、全くじゃな。プレゼントを配り終えたら家の暖炉で温まるとするかのぉ」


「ねぇ、サンタさん! あれ綺麗だねぇ〜」

「ルドルフあれは信号と言ってな、皆が安全に向こう側に渡る為の機械なんじゃよ」

「へぇ〜てっきりクリスマスのイルミネーションなのかと思ったよ。あっ、サンタさん色がチカチカ点滅してるよ!」


「のぉ、ルドルフ少しお腹が減ったのぉ」

「もう〜また〜? さっきの家でクッキー貰ったでしょ?」

「あぁ〜そう言えばケンタ君のママが用意してくれてたのぉ。砂糖とチョコチップのバランスが絶妙で……」

「サンタさん、よだれよだれ!」


 街行く人はそんな俺達の会話や仕草を見聞きし微笑んでいた。指を指して笑ってくる子どももいた。きっと誰一人俺達が別れる寸前のカップルだなんて思わないだろう。俺自身サンタを演じるのに必死でその事を半分忘れかけていた。

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