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好きだった 2-2

 アカリと四度目のクリスマスを迎えようとしていた。

 それは俺たちが付き合いだしてからの年数と俺自身の社会人歴が三年目を迎えたことを指す。

 俺たちの日々は三年間の間にほんの少しずつ変わってきていた。

 例えば、お互い何となく結婚を意識するようになった。同級生の結婚や出産のニュースを聞いた時会話の中でお互いの反応を探るような間が空くようになった。

 お互いの生活の中でルールや役割分担が出来た。料理は先に仕事から帰ってきた方が作り、後片付けはもう一方がするようになった。

 そして、何より変わったのが家でする仕事の話の量だ。

 アカリは相変わらず仕事の愚痴を家に帰ってから吐き出すように俺にぶつける。飲むお酒の種類もアカリはほんの少しだけ強くなった。「ねぇ、聞いて」と言ってきた時は上司についてで、「ねぇねぇ、聞いて」と言ってきた時は職場の後輩かパートのおばちゃんに関する愚痴だってことが俺にも分かるようになってきた。

 一方、俺は家でほとんど仕事の話をしなくなった。一年目、二年目の時のように仕事を覚えるので必死だった時期も過ぎ、上司に言わせると俺は『慣れた』『落ち着いた』ということらしいのだが俺からすれば仕事に『諦めがついた』のだ。期待しなければ裏切られない、三年間の間に何人もの同期が辞めていったのを見て俺は学んだ。

 愚痴ることなんか何もなかった。何もかもがどうでもよかった。

 あぁ、そうだ。社会人になってから小説なんか一行以上書いたことが無い。書く時間が無いんだと言い訳すれば、俺の背中はダメになってしまうくらい軽くなった。


 俺とアカリの日々の使い方はそんな所で差がついたのだろう。

 俺は相変わらずただ過ぎ去る時間を見送る、夢を忘れた振りを続けた。

 アカリはそんな時間の中で仕事の愚痴をひとしきり話した後はフィンランド語を勉強し、過ぎ去る時間の中で夢を追い続けていた。

 今だから分かる。当時の俺は認めたくなかっただろうが、誰よりも自分の側にいたはずのアカリは、いつの間にか追いつけない程、遠く離れた場所にいたのだ。

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