初めまして、
「だから私はサンタさんにはなれないの」
4年前の冬。場所は京都四条の大通りだった。
外国人観光客がごった返す街の中、白い吐息に紛らわすように呟いた彼女の声は何故だかことさら俺の耳に凛と響いた。
あの頃、俺は大学生だった。卒業を4月に控えていながら、就活も碌にせず、卒業後の進路どころかこの年末年始に帰省することすら決めきれないでいた。
「俺はみんなとは違うんだ」と独りで嘯きながら、リクルートサイトに一応会員登録だけはしてあるという、所謂どこにでもいるダメ大学生。個性を謳っておきながら自身が一番没個性的、鼻で笑うことすら酸素が勿体ない、なんとも情けない奴が俺だった。
リクルートサイトからの『今年最後の大チャンス!!』と銘打った合同説明会の案内メールの受信通知に気付かぬ振りしながらスマホでTwitterを見ていたある日、RTで変わった呟きが廻ってきていた。
『メリークリスマス!! 今年もボランティアサンタ募集します!! 一緒にサンタになりませんか? 沢山の子供たちがあなたを待っています 気になる方はDMまで』
サンタが子どもにプレゼントを渡している写真とともにUpされた15RT 43いいねされたその呟きが俺は妙に気になった。
『サンタになりませんか?』か。
一度はスルーしたが、少し考えたあと人差し指で先の呟きの所までスワイプし戻し、呟き元である『ボランティアサンタ 京都支部』というアカウントをフォローし俺はDMを送った。
『こんにちは サンタ募集の呟き見ました 俺は京都で大学生している者ですが、サンタになれますか?』
就活サボっている事丸分かり、まるで礼儀がなっていない雑文だったが、10分もしないうちに返信が来た。
『初めまして! Ken@イカ専用垢さん☆彡 大歓迎ですよ!! 是非是非一緒にサンタしましょう! ただいくつか条件があって……構いませんか?』
『何ですか?』
『Ken@イカ専用垢☆彡さんのスケジュールです 先ずは本番である12月24日・25日(どちらか片方の日でも構いません)の18時半から21時が空いているかどうかということ。そしてまだ調整中ではありますが本番までの間に土日を使って何回か研修会を開催予定でして、その研修会に最低でも一回は参加頂く事が可能かどうかという事です 年末のお忙しい中お時間頂く形になってしまってごめんなさい!! Ken@イカ専用垢☆彡さんはいかがですか?』
『自分は12月24日・25日両日ともに参加可能です また研修会についても都合付けることいくらでも出来るのでまた教えて下さい あと、呼び方はkenで大丈夫です』
顔を真っ赤に染めながら、俺は返事を返した。うっかりアカウントを間違えたままDMを送ってしまっていた。
イカとは当時ハマッていたゲームの事だ。
同級生達が就活を頑張ってきた中俺はいったい何をやってきて、今もまた何をしているのだろうと妙に頭が冷めてきた自分に気付いていたが、そんな事はお構いなしにまた向こうからDMが来た。
『良かったです! では早速ですが今週の土曜日、午前10時から夕方くらいまで空いていますか? 午後から四条でレンタルスペースを借りて別の参加希望者の方と研修会する予定なので、午前中にKenさんにこの活動について改めて直接説明して、活動に賛同いただけるようならそのまま早速研修会にどうかなと思ったのですが、いかがでしょうか?』
『大丈夫です 何か必要なものはあるんですか?』
『わぁー! ありがとうございます! そうですね。身分証明書のコピーを持参いただいてもかまいませんか? ボランティア活動中に何かあった時の為の保険加入に必要なので ……あとは何と言ってもサンタさんになりたいっていう気持ちですね!! 一番大事です!』
『分かりました』
正直この人、苦手なタイプかもしれないという思いも抱えつつ、取り敢えずサンタアカウントの管理人と集合場所・時間を決めた。
『では当日、お願いします』
俺がそう送りDMを終わらせようとすると向こうから直ぐに返信が来た。
『よろしくお願いします! 実はもう一つサンタさんになるための条件があったのですがそれはまた当日直接聞きますね! それでは! メリークリスマス!』
『それでは』とお互い言っている訳だし、リクルートサイトからのメールよろしく既読スルーで良かったのだが、何となく俺は『メリークリスマス』と付き合って送ってあげた。
管理人からはサンタの絵文字が返ってきた。