シェアハウス(仮)
愛依視点です。
また休み時間になる度に、私への質問は続いた。
家族構成に血液型に家の住所、好きな動物や嫌いな食べ物……
そんな事まで知ってどうするっていう事ばかりだ。
それでもなんとか全部やり過ごして、放課後になった。
「早瀬さん、途中までだけど一緒に帰ろう!」
「ありがとう高坂さん。でもごめんね、私今日は学校の見学をしてから帰るから……」
「なら、私が案内するよ!」
「いいの? ありがとう!」
高坂さんの好きなレンとかいうのをほめただけなのに、ずいぶんと優しくしてくれる。
これで高坂さんが金持ちだったら最高なんだけど……
「高坂さん、帰るの遅くなっちゃうんじゃない? 大丈夫?」
「うん。私の家、お父さんもお母さんも働いてるから、いつも帰っても私1人なの。だから大丈夫!」
共働きって事は、あんまり金持ちじゃなさそうだ。
それはちょっと残念だけど、まぁ金持ちじゃなくても仲良くしとくにこしたことはない。
クラスの金持ち情報とか教えてくれるかもしれないし。
「あっちが音楽室で、こっちが図書室。あそこが科学室だね。私達がよく使うのはそのくらいかな?」
「へぇー、結構分かりやすいね!」
「あ、それからここの掲示板は右側が生徒用だから、何かお知らせしたい事があったら、勝手に張って大丈夫だよ」
「掲示板? 生徒が勝手に使えるの?」
「うん」
今までの学校にはそういうのなかったな……
じゃあここにお金を下さいって書けばいいのか……って違うか。
「生徒がそんなお知らせする事ある?」
「あるよー。ほら、今も読書会を開きますって」
「これ、生徒が勝手に開くの?」
「もちろん先生の許可はもらってるよ。でも読書会の許可っていうより、図書室の使用許可だね。他にも試食会の開催もよくあるし、ペットの里親募集中とかもあるね」
「そうなんだ」
少し変わった学校みたいだ。
生徒の自主性を大切にしてるのかな?
「そろそろ帰ろう」
「うん」
高坂さんと一緒に帰る。
新しい家だけど、帰り道はちゃんと覚えているので問題ない。
私は記憶力もそこまで悪い方じゃないし。
「早瀬さんの家、こっちなんだね。どんなところ?」
どんなところって……
マンションというか、でもどっちかっていうとシェアハウスだよね……
シェアハウス(仮)ってことにしておこう。
でも流石にシェアハウス(仮)に住んでるとは言えないな。
「うーん、ちょっと狭いマンションかな?」
「へぇ、私はね、3階建ての家なの」
3階建て!?
金持ちじゃん!
「す、凄いね!」
「今度遊びに来てね! レンのグッズも沢山あるから!」
「うん!」
これはラッキーだ!
高坂さんから家によんでもらえた。
次までにレンの事をもう少し知っておく必要があるけど……
「じゃあ私、こっちだから。また明日ー!」
「うん。ありがとうー!」
高坂さんと別れてシェアハウス(仮)に帰ってきた。
狭い部屋に荷物をおいて……勉強でもするか。
いや、お父さんが帰って来てすぐに食べれるようにご飯を……
でもやっぱり、温かいのを食べて欲しいし、先にお風呂に入りにいこう。
転校初日で色々あったし、ちょっと休みたい……
お風呂へ行って脱衣所で服を脱いでいたら、女の人が入ってきた。
中学生位のお姉さんだ。
昨日のお風呂の時は誰にも会わなかったけど、この人もこのシェアハウス(仮)に住んでる人かな?
こんな安くていい物件はそうそう見つからないし、ご近所付き合いは大切にしないと!
「あの……私、新しくここに住む事になった早瀬愛依です。小学3年生です」
「そう……」
「よろしくお願いします!」
「……」
って、無視? 無視なの? なんなの?
クールな感じとかっていうよりは、暗くて人付き合いとか嫌ってそうな印象だ。
美人なのにもったいない……
でもまぁ、今のはご近所付き合い的にも、私は何も悪くないはず。
特に気にしないでいよう。
昨日はちょっとバタバタしていて、お風呂もゆっくりは入れなかった。
折角大きいお風呂なんだし、今日はゆっくり入ろう。
ボディソープやシャンプーも使い放題だし、そういう所は本当に最高だと思う。
「痛っ!」
髪を洗っていたら、シャンプーが目に入っちゃった……
シャワー……シャワー……シャワー、どこぉ?
こういう時、慣れてないから困るな……
「シャワーが欲しいの?」
「え? はい……」
「はい」
空中をさ迷う私の手に、シャワーが渡された。
急いで流してみると、さっきのお姉さんだった。
私のためにシャワーをとってくれたみたいだ。
「ありがとうございます」
「……」
って、これは無視なんだね……
よく分かんないけど、優しい人みたいだ。
結局そのあともお姉さんとは全く会話をしないまま、お風呂から上がった。
お風呂も終わったので、調理室へ行って今日の夜ご飯を作っていると、
「おや? 初めてお見掛けしますね?」
と、声がした。
振り返ってみると、スーツ姿のお姉さんが立っていた。
最初にこのシェアハウス(仮)に案内してくれたお姉さんと、同じスーツだ。
「はじめまして。私は、新しくここに住む事になった早瀬愛依です」
「そうなんですかー。私は綾瀬久実といいます。ここには住んでないですけど、隣の社員寮に住んでます」
「社員寮?」
「はい。この調理室は、あっちの社員寮とも繋がってるんですよ。私みたいなのがたまに来ると思いますので、今後ともよろしくお願いしますね」
「はい」
私みたいな子供にも、丁寧に話してくれる人だった。
それに明るいし、話しやすい。
さっきのお姉さんとは全く逆のタイプって感じだ。
「愛依さんは小学生何年生ですか?」
「あ、3年生です」
「学校は楽しいですか?」
「うーん? まだ今日が転校してからの初登校だったので……」
「そうなんですね。お友達、沢山出来るといいですね」
「はい!」
私としてはお友達沢山より、金持ちと友達になることの方がいい事だけどね。
「って愛依さん? 夕食はこれだけですか?」
「はい! モヤシが安かったので」
「育ち盛りがダメですよ。これも使って下さい」
綾瀬さんは私がモヤシを炒めていたフライパンに、鶏肉を入れてくれた。
「え? あの……」
「お近づきのしるしにもらっておいて下さい」
「でも……」
「私は綾瀬、愛依は早瀬で"瀬"仲間ですからね! では私はお先に失礼しますね」
「あ、ありがとうございます!」
綾瀬さんは自分のご飯を作ったようで、そのまま調理室から出て行ってしまった。
また会えるといいな……
それにしても、よく分からない人が多いな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




