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スノーフレーク  作者: 猫人鳥
episode5 貧乏人の虚言編

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同調

愛依視点です。

「今日からこの3年3組に、新しいお友達が増えます。はい、自己紹介して」

「早瀬愛依です。よろしくお願いします」

「はーい、仲良くしてくださいねー」


 私は今日から新しく、○◎小学校に通うことになった。

 転校初日、私のやるべきことは決まってる。


「早瀬さん、どうして転校してきたの?」

「お父さんのお仕事の都合だよ」

「へぇー、ねぇ、前はどこの小学校だったの?」

「▽▽小学校。でもお父さんの都合でよく転校してるから、その前は□◇小学校だったの」

「色んな所へ行ってるんだね」


 もう慣れたけど、転校してくると必ず質問攻めに合う。

 もちろんこの人達が悪いわけじゃないし、私と仲良くなる為に質問してくれてるのは分かってるからちゃんと答えるけど、正直面倒くさい。


 でもそんな事を言ってる場合じゃない。

 私にはやらないといけない事があるから。

 それが、"金持ち探し"だ。

 今日の朝もお父さんに言われた。


「いいか、愛依。まず金持ちを探せ。見つけたら全力で媚を売るんだぞ。絶対に気に入られるように振る舞うんだ!」


 朝の会話……というか、転校初日の日に、お父さんが必ず言う台詞だ。


「分かってるって。もう転校だって何回目かも忘れるくらいしてるんだよ」

「あぁ、そうだったな。兎に角人を褒めるんだぞ! おかしいと思っても否定をしたらダメだからな」

「うん! 金持ちがいたらちゃんとこびを売るから。売りまくるから。だから安心してね!」


 私は学校で金持ちを見つけないといけない。

 そして気に入られて、お父さんの苦労を少しでも減らすんだ!


「もし金持ちの家でご飯とかもらえそうだったら、俺の事なんか気にしなくていいから、ちゃんともらって食べてくるんだぞ」

「うん、分かってるよ!」


 これもお父さんの決まり文句。

 お父さんはいつも自分の事はいいからって言う。

 でも私が帰ってきてお父さんのご飯を作らないと、お父さんのご飯がない。

 だからこれは素直に分かったとは言えなかった。


 でもこの新しい家はシェアハウス的な感じで、調理室にいつでもご飯が置いてある。

 しかも好きなときに勝手に食べていいらしい。

 お金もすぐじゃなくて、後払いとかに出来るってお姉さんが言っていたし、私が帰らなくてもお父さんのご飯はなんとかなる。

 お父さんのご飯を心配しなくていいから、私も金持ち探しに集中できる。


「行ってらっしゃい、お父さん! 気をつけてね」

「おう」


 朝はそうやってお父さんを送り出したんだ。

 お父さんも新しい職場で頑張ってる。

 だから私も頑張らないと!


 今までは金持ちを見つけれなくて上手くいかなかったけど、今度こそ金持ちを見つけて、凄い仲良くなって、お菓子とか夜ご飯とかもらうんだ。

 本当はお父さんの分ももらいたいけど、そこまではちょっと難しいと思うし……

 私1人分でも食費が浮くなら丁度いい。


 今私を質問攻めにしてる子達の中に、金持ちがいるかもしれない。

 ここで悪い印象を持たれるわけにはいかないし、面倒で疲れるけどちゃんと受け答えをしないと!


「ねぇねぇ、早瀬さんって何が好き?」


 出た、グループを分ける質問だ。

 こういうので同じ物を好きじゃないと、仲良くはなれない。


「えっと……好きな食べ物とかかな? 甘いお菓子が好きだよ! 特に駅前のドーナツとか大好き!」

「あー! あそこのドーナツ美味しいよねー!」

「ねー」


 よし、上手くかわせた。

 駅前のドーナツなんて食べたこともないけどね。

 いつも行列が出来てるっていうのは知ってたから、言ってみただけ。


「高坂さんは何が好きなの?」


 今私に好きなものを聞いてくれた子に、質問を返した。

 聞いてくれたから聞き返したんだし、話の流れ的にはおかしくないはずだ。

 名前も覚えた事で、好印象だろう。

 名札を見やすいようにしていてくれてよかった。


「私はね、レンが好きなの! 早瀬さんはレンのこと好き?」


 レンとは?

 知らないもんがきちゃったな……

 せっかく万人受けするスイーツの話をしてるんだから、スイーツの話で返してよ、高坂さん!


「え、ごめん……レンって?」

「えぇーっ! 早瀬さんレンを知らないの?」

「嘘……」

「えっ、レン様を知らないってヤバくない? あんなに有名で、めちゃくちゃカッコいいのに?」


 高坂さんだけじゃなく、まわりの他の女子達も驚いてる。

 知らないもんは知らないけど、この感じは知ってないとダメそうだな……

 様とかつけてるし、有名とかカッコいいとかっていうんなら、多分レンは人……芸能人かなんかだろう。


「私の家、あんまりテレビとか見ないんだよね……」


 あんまり見ないっていうか、テレビがそもそもないんだけどね。

 でもいきなり貧乏がバレるのはよくない。

 仲良くなってからバレないといけないから、今は隠しておく。


「あぁそっか……それならあんまりレンを見ないのかな? でもね、街中にポスターとかもいっぱいあるから、絶対に知ってると思うよ! ほら、これがレンだよ!」


 高坂さんはそう言って下敷きを見せてくれた。

 そこには男の人が写っていたけど、やっぱり知らない……

 でもレンが人だっていう推理が当たってたのが嬉しい。

 そもそも街中なんてあんまり行かないし、ポスターなんて見ないんだから、有名人だろうと知らないんだけど……


「あぁ! 知ってる! いつもカッコいいなぁって思ってたんだ。へぇ、レンっていうんだね! 教えてくれてありがとう!」

「だよねー! やっぱりレンってカッコいいよね!」


キーン コーン カーン コーン


「あっ! 早瀬さん、また話そうね!」


 予鈴が鳴って、私のまわりの子達はとりあえずいなくなった。

 まだまだ初日だけど、とりあえず私の第一印象はなんとかなったはずだ。

 危険な質問も、上手くしのげたみたいでよかった。


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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