新しいお家
早瀬愛依視点です。
お父さんの口ぐせは"世の中金"。
ほぼ毎日みたいに言うから、正直もう聞きあきた。
そんなに言わなくったって、私だってもうわかってるよ。
この世の中、お金が全てなんだって事くらい。
だってお金があったら、お父さんはもっと楽になれるはずなんだ。
いっつも一生懸命に働いてくれて、お父さんまで倒れちゃうんじゃないかって、いっつも心配になる。
お金がもっとあったら、お父さんはこんなに苦労しなくていいのに……
「ただいま、愛依」
良かった、今日もお父さんはちゃんと帰ってきてくれた。
「お父さん! お帰りなさい。ご飯作ったよ」
「おぉ、いつもありがとうな。今日は何だ?」
「モヤシ炒め」
「そうか! じゃあとりあえず夜ご飯……って言いたい所なんだがな、愛依」
「どうしたの?」
「もうこの家は今日で出て行くことになったんだ」
まただ……
またお家に住めなくなったんだね……
でも大丈夫。
もう慣れてるし、また次のお家を探すだけだ。
今の家は雨もりもしない、いい家だったけど、別に雨もりしたって私は大丈夫だから。
「じゃあとりあえず、このモヤシ炒めはタッパーに入れておくね!」
「あぁ、あとで食べような」
「うん」
私が家を出ていく準備をしていると、
「早瀬さん、お迎えに上がりました」
と、初めて見るお姉さんが、玄関の前に立っていた。
スーツを着てる、きれいなお姉さんだ。
「あぁ、もう少し待ってくれ」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
「ね、ねぇ、お父さん? あの女の人、誰?」
「あー、あれだ。次に住む家の管理人さんの知り合いみたいな?」
「ふふっ、まぁそんな感じですかね?」
「そーなんだ……」
お父さん、もう次の家を見つけてくれていたんだね。
それにしても、きれいなお姉さんだな……
「よしっ! 荷物はこれで全部だ。愛依、行くぞ」
「うん!」
「こちらへどうぞ」
お姉さんに案内されるままに車に乗った。
乗り込むときに、お姉さんが車の扉を開けてくれた。
何でこんな、VIP対応みたいなんだろう?
「お父さん、どうしたの?」
「何がだ?」
「何かおかしくない?」
「そうかもしれねぇな……俺もよく分からないんだよ……」
私とお父さんは後ろの座席、運転手さんとその横にさっきのお姉さんが座ってる。
一体この車は、どこに向かってるんだろう?
「そういえば言っていませんでしたが、愛依さんには転校していただきますよ?」
「あぁ、そうか……愛依、今の学校とはお別れだ。ごめんな」
「ん? 別に全然大丈夫だよ?」
だって友達も何もいないし。
貧乏人だ何だって、雑巾ぶつけてくる人達とのお別れなんて、どうでもいい。
あいつらは私が反応しないのがつまらないとか言っていたけど、私からするとそんなことを気にしてやる時間ももったいないと思う。
下らない事に私の考える時間を使いたくないから。
「愛依さんはお強いみたいですね」
「え? けんかの話ですか?」
「いえ、心の話です」
よく分からないお姉さんだ。
「そろそろ到着です」
お姉さんにそういわれて車を降りたのは、おしゃれな感じのマンションの前だった。
「早瀬さん、ご案内いたしますね」
「あぁ、愛依行くぞ」
「うん」
お姉さんについてマンションに入っていく。
どうみても前の家よりいい家なんだけど……
「こちらが早瀬さんのお部屋になります。どうぞ」
お姉さんが玄関の戸を開けてくれたので、部屋に入る。
入ってすぐにおどろいた。
この部屋の、狭さに……
「狭っ……」
「そうだな」
思わず声に出していた。
だって本当に狭かったから。
部屋には2段ベッドがあって、机が1つ置いてあるだけで、あとは人1人が通るのがやっとな隙間が空いているだけだった。
雨もりはしないし、足は伸ばして寝れるとは思うけど、お風呂もキッチンもなにもない。
「あの、お風呂とかないんですけど……」
「浴場は、5階にありますよ。時間指定がありますけどね」
「時間指定?」
「時間内にお風呂に入って下さいという事です。時間についてはまたご連絡致しますね」
「キッチンは?」
「調理室が3階にありますので、そちらをお使い下さい。細かいルールもございますので、後程ご確認下さいね」
「シェアハウスって事ですか?」
「まぁ、似たようなものです」
新しい家はシェアハウスだったんだ……
何かルールとかは面倒くさそうだけど、お父さんと別れずに安く住めるなら何だっていい。
「ごめんな、愛依」
「お父さん何言ってるの? 私は大丈夫だよ! 私がベッド、上の段でもいい?」
「あぁ、上でも下でも、愛依が好きな方を使えばいいさ」
「うん! ありがとう」
急に変わった家になったけど、今までと変わらずに生活していこう!
お父さんに変な心配をかけないように。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




