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スノーフレーク  作者: 猫人鳥
episode5 貧乏人の虚言編

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世の中

episode5になります。

愛依(めい)のお父さん視点です。

 "世の中金"だ。

 "人の心はお金では買えない"なんて綺麗事はよく聞くが、金で人の心を動かす事だって出来るんだ。

 だったら、心だって買えてるのと一緒じゃないか。


 金がなければ何も出来ない。

 大切なものを守ることさえ出来ないんだ。

 それはどれだけ綺麗事を並べたって、変わることのない真実だと俺は思う。


 仕事をクビになった。

 だがそんな事にはもう慣れている。

 いちいち気にしてなんていられない。


 金がなければ愛依と暮らしてい事さえ、無理になってしまう。

 愛依と共にいる生活の為にも、もちろん金が必要だ。

 だから落ち込んでいる暇はないし、早く次の仕事を探さないといけない。

 じゃないと金が手にはいらないから。


 喉が渇いてきたので公園に立ち寄り、水道の水を飲んだ。

 無料で水が飲めるだけ、この辺はまだ良心的な町だとは思う。

 そして少し休憩をと、ベンチに座った。

 こういう無料休憩所は、本当にありがたい。


 いっそ愛依を施設に預けてしまえば、愛依は幸せに暮らして行けるんだろうか……

 そんな事も何度も考えた。

 だがあいつを失った今、俺の宝は愛依だけだ。

 愛依をも失ってしまえば、俺が生きていく事も出来ない。

 愛依にも辛い思いをさせているのは分かっているが、俺は愛依と暮らしていきたいんだ……


 あー、ダメだ。

 動いていないと余計な事を考えてしまう……


 俺がベンチから立ち、また仕事探しへと歩き出そうとした時、


バサバサッ


と、新聞が風で飛ばされてきて、俺の足に引っ掛かった。

 ただの飛んできたゴミに過ぎない新聞。

 その一面の記事をたまたま読んでしまった。

 スノーフレーク、なんでも屋。

 そこの社長である桜野奏海が、大金を寄付したという記事を……


 ったく、金持ちの大金自慢なんて、今一番見たくないもんを見ちまった。

 そんなに金が余ってるなら、俺にも寄越せってんだ。


 その時何を思ったのか、ただ冷やかしたかっただけなのかは自分でも分からない。

 だが、俺の足は、とある場所に向かって歩き出していた。

 もしかしたら疲れていて、涼しい所で休憩をしたかっただけかもしれないが、俺はほぼ無心のままに、スノーフレークに足を踏み入れていた。


「こんにちは。なんでも屋、スノーフレークです。ご用件をお伺い致します」


 俺の担当として出てきたのは若い女。

 見たところまだ20代前半位だろう。


「金を貸してほしい」


 俺はそれだけ言った。

 スノーフレークはなんでもしてくれるなんでも屋だが、あくまでも()()()()()()なんでもしてくれるなんでも屋だ。

 つまり金のない奴の依頼は受けない。

 金を貸してほしいなんて矛盾した依頼が無理に決まってる事くらい、分かってて俺は来たんだ。

 さぁ、どんな対応をするんだ?


「あなたは何の為にお金を求めるのですか?」


 まさか質問で返してくるとは思わなかったな。

 まぁ流石に、"金がねぇなら帰れ"とは言わないか。


「金がなきゃ生きていけねぇだろ。俺も娘もどうしようもねぇんだ。結局世の中金なんだよ」

「ではお金は家族との生活の為に必要だと?」

「あぁ」

「そうですか」


 女は俺と目を合わせ、俺の顔をガン見してくる。

 こういう目を見て人と話すタイプは、少し苦手だ。


「確かに世の中はお金なのかもしれません。ですが、そのお金の使い道が家族の為であるのなら、世の中家族とも言えるのではありませんか?」

「は?」


 ……こいつ、何言ってんだ?

 世の中金で世の中家族……


「おいくら程必要ですか?」

「え、は? なんだ? 貸してくれるのか!?」


 女に言われた言葉を考えていたせいで聞き逃しかけたが、今こいつ、貸すっぽい事言ったよな?


「いくらとか具体的な数字は出さねぇが、とにかく俺と娘が暮らして行ける位の金額だ。俺は今は無職だし、家賃も待ってもらうのもそろそろ限界だ。だ、だからっ!」

「落ち着いて下さい。事情はゆっくりお伺い致しますので」


 てっきり追い返されるものだとばかり思っていたせいか、俺は捲し立てるように女に喋っていた。

 これじゃ貸してもらえるもんも、貰えなくなっちまう……


「ご存知かとは思いますが、我々スノーフレークはなんでも屋です。なんでもする代わりに代金は頂きます」

「あぁ」

「お金を貸すというのは……いえ、ややこしい話はやめましょうか。あなたは十分にご理解下さっているようですし」


 ようは、スノーフレークにとって金を貸すっていうのは、矛盾した仕事だって事だな。


「あなたには我々所有のマンションで、規約に沿った生活を送っていただく事になります」

「それは娘はどうなるんだ?」

「ご一緒に過ごしていただいて構いませんよ。ただ、部屋は大分狭いですよ」

「雨風は凌げるか?」

「もちろんです」

「足を伸ばして寝れるか?」

「私の説明不足でしたね。そこまで狭くはありませんよ」


 狭かろうが愛依と暮らしていけるんなら、俺は問題ない。

 愛依が嫌じゃなければ……


「それからあなたには、スノーフレークの子会社にあたる、こちらの場所で仕事をしてもらいます。慣れない環境になるとは思いますが……」

「仕事もくれるのかっ!?」

「はい。ですが結構な肉体労働ですので、それなりの覚悟はして下さいね」


 まさか仕事もくれるとは……

 いや、考えてみたら当然か。

 俺が無職で金を返せないって事は、もう分かってるんだから。


「一応先に申し上げておきますが、考え方によっては牢獄とかわりありませんよ。食事や娯楽等にも制限がかかりますし、お金を返済していただくまで、我々の監視下で生活していただくのですから」

「なるほどな……俺達が使える金も制限されるって事だな」

「はい。ご理解いただけました?」

「俺に理解できる範囲のことはな」

「では、細かい規約について説明致しますね。お部屋へのご案内は、娘さんとご一緒に致します。よろしいですか?」

「あぁ、頼む」


 正直急展開過ぎて、理解なんて出来ていなかった。

 だからもしかしたら、何か騙されているのかもしれない。

 だが、一度も俺から目をそらさずに話をするこの女はどこかあいつに似ていて、少し信じてみようと思ったんだ。


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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