演技派
真視点です。
「おー、こっちだこっち!」
「真! 久しぶりだな」
待ち合わせ場所で無事に空音と合流した。
予定より早く合流できたし、これで落ち着いて目的地に迎えるな。
それにしても久しぶりに空音に会ったが、変わらず元気そうで何よりだ。
「そーだな、なかなか会う機会なかったよな。俺はお前と違って高校なんてとっくの昔に卒業してるからな」
「なんだよ飛び級エリート。嫌みかよ」
「嫌みじゃないさ。お前はボスと楽しい学園生活を送りたかったんだろ?」
「でも、送れてない……こんなんなら俺も留学組に入っとけばよかったよ」
ま、ボスは空音とは違う高校に通ってるしな。
空音が思い描いた学園生活とは違ったんだろうけど。
「でも聞いたぜ。この間、ボスと恋人役で学園生活を満喫してたって」
「してねぇよ」
俺は別の仕事をしていた時だったから参加してないが、この間まで赤い羊とかいう奴を捕まえる為に、ボスは空音と同じ高校に通っていたはずだ。
しかも恋人役で。
そんな面白そうな事を見逃すとは……実に残念だ。
「しかもお前、ボスと遊園地デートまでしたらしいじゃねぇか! よかったな!」
「お前なぁ……あれは遊園地デートじゃなくて、遊園地デッドだよ」
「ははっ、なんじゃそりゃ」
まぁ、結局は殺し屋を捕まえる為の作戦に過ぎねぇし、デートとは言えないか。
でも面白かっただろうな……
誰か録画とかしてねぇかな?
また今度、葵か乃々香に聞いてみるか。
「それにさ、たとえ演技だとしてももう御免だ。あんな、大切な人が目の前で撃たれる光景なんてもんを見るのはさ」
「でも、だからこそお前もいい表情が出来たんだろ?」
「それはな……」
「まぁ、お疲れ」
よっぽどボスがいい演技だったのか……
まぁそうじゃねぇと、殺し屋も騙せないしな。
「ってか真、お前爆弾投下して逃げてんじゃねぇよ。片付けるのがどんだけ大変だと思ってんだよ」
「あ? 何の話だ?」
「この間、奏海にみーが倒れたって報告だけして逃げただろ」
あー、あれか……
「逃げたって、俺はこっちでの仕事があったんだよ」
そういえば創太、あれからどうなったんだろうな……
みーと上手くいくか……
いや、みーはアホだからな……
「あれ、大変だったんだぞ」
「へぇー、どんな風に?」
「みーが報告に来たときに、奏海が『みー、また倒れたって聞いたんだけど?』って、言い出してな」
空音は得意の声帯模写で、ボスの口調まで真似てくる。
お陰でボスがどんぐらい怒ってたのかも分かるな。
「で、それに対してみーが、『聞き間違いじゃないかしら?』なんて挑発したんだよ」
「あー、やっちまったか……」
「で、そっからが……」
「それも自殺志願者の面倒みてたとか? 報告を受けていないんだけど?」
「それは報告したじゃない。暫く助手がいてくれるって」
「それは確かに聞いたけど、そんな寝ずに見張ってないといけないような助手だとは聞いてない。それにいくらなんでも、男なんて何があるか分からないし、危ないでしょ」
「危ないわけないじゃない」
空音の声帯模写は、ボスもみーも完璧だ。
その時の状況が分かりやすい。
「ってなってたから、俺が、『みーなら男といても危なくねぇって!』って、みーに助け船出したのに、『うるさい』って、みーに睨まれてな……」
「お前がみーに、酷いあだ名をつけるからだよ」
「まぁ、それはいいんだよ。で、一旦会話を切ってやったのに、また……」
「私がお願いした仕事量は、その報告を受けていない上で、みーになら出来る分をお願いしたの。それなのに、倒れたって、何?」
「だ、だから……倒れたんじゃなくて、床で寝てみただけ」
「しかもその、面倒みてた自殺志願者に助けられたとか? 私はちゃんと言ったはずなんだけど? 無理しないようにって」
「無理はしてないの。ちょっと寝ちゃっただけだって……」
「みー、私達は遊びで仕事をしている訳じゃない。自己管理も出来ないような奴が他人の面倒をみようなんて、笑えてくる話じゃない?」
「そ、それは……」
「もっと責任感を持ちなさい」
「ごめん……次からは気をつけるから……」
「それ、もう何度も聞いたんだけど?」
「って感じで、奏海のながぁーい説教が始まってな……」
怒りだしたボスはそう簡単には止められない。
下手な事を言って、こっちにまで飛び火してきたらより面倒になるんだし、俺でも止めるのは大変だ。
ましてや空音にボスを止めるのは無理だろう。
だから空音も、爆弾投下して逃げたなんて言ってきたんだな。
「そういう時は葵とか紅葉を呼んでくるか、お前が止めろよ」
「俺も呼びに行こうと思ったけど、みーが気になる事を言い出してさ」
「気になる事?」
「ほら、今回の仕事って急だったろ? なのにみーの奴、奏海の出した期限よりかなり前に終わらせてたじゃん」
「あぁ。俺がこっちにくる前には終ってたな」
あれには俺も驚いた。
あの日本当は、"創太は俺がみてるから寝ろ"って言うために俺はみーの所へ行ったんだ。
創太が心配で寝れてないんだってのは、仕事を渡しに行った時に気づいたから。
だからまぁそろそろ倒れるだろうとは思ってたけど、まさか仕事を終らせてるとは思ってなかった。
「それで奏海が、『こんなに早く終わらせる位なら、遅くてもいいからちゃんと睡眠と両立させなさい』って、怒ったんだけどさ、みーが『両立させてたけど、途中から出来なくなったのよ』って言い出してさ……」
「それってもしかして……」
「あぁ。で、またそっからが……」
「なんで出来なくなったの?」
「助手君が変な行動をしたのよ。私の予想外の意味不明な行動だったから気になってね」
「それで寝不足?」
「それでというか、その後からはいつも以上に気をつけてみてたんだけど、特に変わった様子もないし……それに、なんかあの日から、ちょっと心臓が落ちつかなくて……それもあって寝れなかったのよね。だから仕事もやっちゃった」
「は? 心臓が落ちつかないって……そんな話聞いてない!」
「だってもう治ったし」
「すぐに柳佑に診てもらわないと!」
「心配しすぎっ! もう治ったって」
「ってやってたら紅葉が来て、止めてくれた」
「流石、紅葉だな」
「ったく、あの鈍感女共がっ!」
「全くだ」
それにしても、創太も脈ありのようで少し安心した。
「空音、そろそろ目的地だ。近況報告はまた後で」
「おう。でも今回の仕事が終わっても、真はまだ残るんだろ?」
「そうだな」
「なら、また暫く会えないな」
「なんだ? 俺が居なくて寂しいのか?」
「んなわけあるか! ただ、別にわざわざ真が残って、守ってやる必要なんかないと思ってるだけさ。どのみち盗人なんだから、なんかあっても天罰だろ」
「そういう訳にもいかねぇさ。だいたいボスは完璧主義なんだから」
「それは、そうだな……」
そう言ってる間に目的地に到着した。
後は仕事の開始を待つだけだ。
「空音、分かってると思うが、これで俺達は今まで以上に目立つことになるんだぞ」
「分かってるよ。とっくの昔から、覚悟なんてできてる」
空音の表情にも緊張感がでている。
さっきまで声帯模写でふざけていた男とは、まるで別人のように真剣な空音。
こいつは昔から、誰よりもボスの事を考えてるんだし、当たり前か……
こういう所をみると、本当にボスとお似合いだと思うんだけど……っと、それは今は関係ない。
これからもっと忙しくなるんだろうし、俺も気を引き締めないとな!
「真、そろそろ」
「あぁ」
空音の合図で、俺も気合いを入れ直すと同時に、今回の仕事の始まりの言葉を言った。
「なぁ、今日あのオークションの日じゃね?」
と。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)
episode4は完結です。




