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スノーフレーク  作者: 猫人鳥
episode4 オークション編

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売名行為

記者視点です。

 一体どれだけの人が気づいたんだろうか?

 この奏海という少女の恐ろしさに……


「そ、早急にミス桜野にお伝えしてほしいとの事で……」

「これは、困りましたね……ミスターグリーンが受け取らないにしても、オークションに出品された事実は残りますし、当オークション側に納めていただく金額も……」


 オークション側のスタッフ達が困っている。

 こんな事になるとは、誰も予想出来なかったのだから仕方ないが……

 いや、予想出来た奴はいるな、俺の目の前に……


「でしたら、残りのお金は全て寄付致します」


 奏海は、騒然となっている会場を一気に黙らせる程の凛々しい声で、そう言った。


「え?」

「こちらとしましても、一度支払ったものを返してもらうというのは気が引けます。誰も受け取らないというのなら、それが妥当かと」


 取材陣が騒ぎたてる。

 1億ドルなんて大金を寄付するというんだ。

 騒がない方がおかしいだろう。

 それがいくら、奏海にとって最初から決まっていたシナリオだったとしても……


「ミス桜野、本当によろしいのですか?」

「私は友人の手元に宝物が残ればそれで構いませんから。行き違いからこのような騒ぎになってしまいましたが、きっとケヴィン・グリーン様も友人の元にこのイヤリングがあることを、望んで下さっているのでしょうね」


 無理矢理美談にしやがった……

 そして、もうここに用はないと言わんばかりに、


「あ、そろそろ……」


と、奏海が司会者に合図を送った。


「皆様、ミス桜野のお時間の都合もございますので、ここまでとさせていただきます」


 会場全体へ挨拶をし、奏海は裏へと消えていく。


 その姿を見送り、各国の取材陣達も慌ただしく片付け始めた。

 何よりも今回のこのニュースを、急いで知らせなければいけないのだから……

 だが俺は動けずにいた……

 今回奏海が何の為にこのオークションに来たのかという、本当の目的が分かってしまったからだ。


 これはただの売名行為だ。

 奏海はこのオークションというものを利用して、友人を助ける優しさ、ケヴィンを許す心の広さ、そして1億ドルなんて大金を簡単に手放せる財力までもを、全世界に見せつけた。

 そして更に、あの出品者が誰なのかを特定させるような発言。

 あの奏海の発言は、ケヴィンが死んでもいいと言ったも同然だ。

 いや、寧ろそう言っている……


 普通にこの生放送を見ていた一般人は、おそらく何も思わないだろう。

 ただ奏海が友人の為にイヤリングを取り返し、その莫大な金すらも寄付したのだという、表側しか見ていないからな。

 ケヴィンの事も、名前を出された事で自分の行動が恥ずかしくなって、金を受け取らない事にした奴……くらいにしか思わない。


 だが裏側まで考えてみると、話は違ってくる。

 今、このオークションとは別の所で、ケヴィンは相当恐ろしい状況に見舞われていたに違いない。

 知り合いからの連絡や、近隣住民から訪問……

 もしかしたら、知り合いですらないような奴が家に来ていたりもして、誰の事も信用できないような状態に追い込まれていたかもしれない。


 ケヴィンには、他にもう道がなかったんだ。

 元より金持ちでないのなら、セキュリティ万全の家に住んでいる訳でもないし、安心して眠る事もできないだろう。

 金を持っている以上、何処に逃げたって絶対に逃げれないし、誰も信用できなくなっていく。

 だったらもう、安寧の為に金を手放すしかない。


 だが、金を手放したとしても、本当に持っていないのかを証明する事はできない。

 本当は隠し持っているんじゃないかと疑われ、手放してもなお襲われる事は想像に容易い。

 それすらも防ぐ事の出来る唯一の方法が、奏海が出ているこの同じ生放送内で、金を断る事だ。


 世間には恥ずかしい奴だと思われるだろう。

 それでもこれから先、ずっと恐怖と共に暮らさなければならない事を考えれば、ケヴィンにはこの選択しかない。

 それが分かっていたからこそ、奏海は俺達からの質問で時間を稼いで待っていたんだ。

 ケヴィンが連絡してくるのを……


 匿名というものの大切さがよく分かった。

 いや、何より分かったのは、その匿名という制度を利用した、奏海の恐ろしさだ。

 奏海は、ケヴィンが特定されれば最悪の場合、ケヴィンが死ぬ事だって分かっていたはずなんだ。

 それを厭わず今回のこの発言をした。

 つまり奏海がケヴィンを特定できる情報を出した時点で、あれは世界中に"自分達に危害を加えたら殺す"と、伝えているも同然なんだ。


 俺みたいな普通の人間でも気づく事ができたんだ。

 奏海はかなり分かりやすく、この真実に気づかせようとしている。

 それでもいったいどれだけの人が気づき、奏海を……いや、奏海達スノーフレークを敵にまわすのだろうか……


 俺は結局、目先の奏海にとらわれていたんだな……

 基本的に記者は、実際に起きた表側の事をそのまま記事にするのが当たり前だ。

 記事を見る側も表側のみを考え、その裏側で何があったのかまでを考える者はあまりいない。

 だからこそ俺は、今回の裏側まで記事にしてやろうと、イヤリングの真実を暴いてやるという事しか考えていなかった。

 真の裏側はケヴィンだったのに、それが見えていなかった……


 急に大金を手に入れた奴の家が特定されたとなれば、その後どうなるのかなんて誰にだって分かるだろう。

 だが、それを考える者は少い。

 そんな裏事情よりも、奏海の成した事のインパクトが大きいからな。


 各国のメディアのほとんどは、奏海が高額寄付したというニュースを報道する事だろう。

 それもケヴィンを悪者として、母親の手作りの大切なイヤリングを、友の為に奏海は取り返したのだと、まるで奏海を正義としたかのようなそんなニュースを。

 そのニュースを見た何人が、裏で起こった事を考えるのだろうか?


 出来ることなら俺でも気づいたこの真実を、もっと沢山の人達に知らせたい。

 だが、実に残念な事に、俺も他社と似たり寄ったりな、奏海を正義としたような記事を書くしかない。

 ここでまるでケヴィンが被害者のように、奏海がイヤリングをだしに使い、売名行為を行ったなんて書いてみろ……

 確実に、次のターゲットは俺になるんだから……


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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