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スノーフレーク  作者: 猫人鳥
episode4 オークション編

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緊張感

記者視点です。

 イヤリングの落札が決まると、奏海は会場を出て行ってしまった。

 もう他の品物には用がないといった感じだ。

 誰もが注目するあの絵画にも、興味がないんだろう。


 会場から奏海を追って抜けていく人が何人か……

 あれは、他の記者達だ。

 会場を出ていくという事は、今回のオークションでのビッグニュースを、絵ではなくイヤリングにすると決めたんだろう。

 もう誰もがあの絵よりも、奏海の行動の方が気になっていた。


 俺も他の記者達に後れをとる訳にはいかない。

 急いで奏海の後を追い、会場を出た。

 奏海はどうやら会場近くの別室で、オークション主催者達と話しているようだ。


 少し待つと、オークション主催者側のスタッフから、これから奏海にイヤリングを渡す所を、特設会場で行う事が決まったという連絡が入った。

 更に奏海の仕事の都合上、空いている時間が少ないらしく、今すぐにでも行いたいとの事だ。

 これを聞いた記者達は、皆慌てて連絡をしている。


 何より慌てないといけないのは、生放送の準備だ。

 元々絵画を落札した人物用に用意されていた生放送。

 それを今すぐに始めないといけない。

 この急展開に各国の取材陣達も忙しそうだ。

 だがこれで世界中に、一気に奏海がイヤリングを落札した事が知らされるだろう。


 当然奏海の顔だって世界中に知られる事になる。

 奏海は今までずっとメディアを嫌い、全く顔出しもしていなかったというのに、急にどういう心境の変化なのだろうか?

 それに生放送までされるとなれば、何故あのイヤリングをそこまで欲しがったのかというのを、説明しなければならない。

 おそらく奏海だけが知っているであろう、イヤリングの秘密を全世界に知られてしまう。

 本当に何を考えているのか分からない少女だ。


 特設会場の準備は異例の早さで進み、俺達取材陣の入室も許可された。

 俺は前方の奏海の顔までよく見える、なかなかいいポジションを陣取る事ができた。


「ミス桜野が当オークションにて、1億ドルでイヤリングを落札されました! そしてこちらに、ミス桜野に来ていただいております!」


 奏海に余程時間がないのか、案内されてすぐに始まった。

 取材陣達からの質問や混乱を防ぐためだろうが、司会者までいる。

 しかもオークション側のスタッフが司会をしている状況だ。


「各国が生放送で全世界にお届けしておりますよ! どうですか? 今の心境は?」


 司会者が訪ねると、奏海は、


「そうですね。こういった経験は初めてですので、とても緊張しています」


と、冷静な声で返した。


 嘘つけっ!

 おそらく誰もがそうつっこんだ事だろう。

 さっきあんだけ堂々と1億ドル宣言してた奴が、こんな生放送位で緊張なんかするものか。

 大体緊張してるなら、そんなに冷静に喋るなってんだ。


「ははっ、では早速ですが、こちらがミス桜野が1億ドルで落札したイヤリングです」


 生放送の会場にイヤリングが登場した。


「おおぉぉぉぉぉおおっ!」


パチパチパチパチ!

パシャパシャパシャ!


と、歓声と拍手が巻き起こり、シャッター音も止まらない。

 最初は誰も注目なんてしていなかったイヤリング。

 それが登場しただけでこの騒ぎになるとは……凄いな。


「それにしてもミス桜野、あなたは何故このイヤリングを落札されたのですか?」


 司会者が早々に切り出した。

 誰もが注目する落札の理由……

 ここまでの大事になったのに、これでただ単にデザインが気に入ったからとかだったら、滅茶苦茶面白いんだが……


 俺が多少ふざけた事を考えていると、


「実はこのイヤリング、私の友人の物なんです」


と、奏海は誰も想像していなかったであろう理由を答えた。


 は? 友人の物? どういう事だ?

 俺の理解も追い付かない。

 確かあのイヤリングは匿名出品のはず……

 なら、出品したのが奏海の友人という事か?

 いや、ならなんで出品してんだよ、意味が分からない……


「し、失礼ですがミス桜野? このイヤリングが友人の物だというのは、どういう意味ですか?」


 司会者がも困惑している。

 これだけの早さでこの場が儲けられているという事から考えても、この質疑応答は全く何の打ち合わせもしていないんだろう。

 だから司会者にだって、奏海が何を言い出すのかが分からないんだ。


「先日、私の友人が△△の方へ旅行へ行ったんです。◇◇を観光していた時に、運悪くこのイヤリングを落としてしまいました」

「このイヤリングの話ですか?」

「えぇ、そうですよ。その落としたイヤリングは◇◇の近くに住んでいらっしゃる、ケヴィン・グリーンという方が拾って下さったそうなのですが……」

「ス、ストップ、ミス桜野。生放送中ですので、あまり名前とかは……」

「あっ! すみません……こういった事に慣れていないもので……」

「いえ、次からお気をつけ下さいね。続きをどうぞ」


 司会者は早く進めたいからか、あまり気にしてはいないようだが、何か今のは気になるな。

 奏海らしくないというか……

 いやまぁ、俺だってそんなに奏海に詳しい訳でもないが。


「その……えっと、イヤリングを拾って下さった方に友人が、そのイヤリングは自分の物だから返して欲しいと頼んだのですが、聞いてもらえなくて……」

「それはその、ご友人の物だということが証明出来なかったという事でしょうか?」

「そうなんです。証明するものを持ってくるようにと言われてしまったんです。なので友人は、対となるもう片方のイヤリングをケヴィ……その、拾って下さった方にも見せて、自分のイヤリングだと主張したんです。あ、今日は友人から借りてきました。これが落としていない方のイヤリングです」


 奏海はそう言って、ハンカチに包んである物を取り出した。

 とても丁寧にゆっくりと、こちらの期待を誘う様にハンカチを捲っていき、もう片方のイヤリングを取り出した。

 そして俺達取材陣の方へ、見やすいようにと向けた。

 落札したイヤリングとデザインも全く一緒で、間違いなく対のイヤリングだと分かる。


「おぉ!」


パシャパシャパシャ!


 歓声やらシャッター音やらが響いている中、俺は少しの疑問を抱いていた。


 急に決まった生放送だったのに、奏海の準備が良すぎないか?

 その友人と共に会場に来ていたなら分からなくもないが、奏海がイヤリングを持っている必要はない。

 あのイヤリングを落札した人に、それは実は落としたもので……と、説明するつもりだったのなら、持って来ていてもおかしくはないが、どれだけ高額になろうと買うつもりだったんだろう?

 なら、何故奏海がそのイヤリングを借りてきているんだ?


 それにさっきのケヴィン・グリーンという名前……

 もっと言えば、△△の◇◇の付近で等と、場所や人物を特定できてしまうような発言をしている。

 慣れていないからってそんな失態を演じるような奴が、あの若さで桜野グループをあれだけ大きくなんて、出来るわけがない。


 何か裏があるとしか、思えなかった。


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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