注目
ケヴィン・グリーン視点です。
今日はオークションの日だ。
俺はいつもなら見ないようなその番組を見るため、テレビをつけた。
このオークションには各国から美術品等が集まり、金持ちがそれを買っていく。
俺も一度くらいやってみたいもんだ。
「続いてこちら!」
ネックレスに、皿に、壺に……どんどんと落札が決まっていく。
今回のオークションには物凄く有名な絵が出るとかで、誰もがそこに注目している事だろう。
「なぁ、今日あのオークションの日じゃね?」
「そういえばそうだな……」
「なんかそこの家からオークションっぽい音聞こえてるし、時間的にもう始まってるって!」
「なら携帯での配信見るか?」
「おぉ、見る見る!」
窓が開けっ放しだからか、外からそんな会話が聞こえた。
若い2人の男達が、オークションの配信を見始めたみたいだ。
あいつ等もあの絵を誰が買うのか、価格はいくらになるのか、そういった事が気になっているんだろう。
だが、俺の注目は違う。
「続きまして、こちら!」
次に見せられたのはイヤリングだった。
来たっ! 来た来た来た来た、待ってました!
これこそが俺の注目のイヤリングだ!
「こちらは細部まで丁寧な細工がしてあり、各所に宝石があしらわれています。使われている宝石は、ルビー、サファイア、そしてダイヤモンドです! 1番大きな飾りは宝石ではなく人造石かと思われますが、そちらも宝石に見劣りしない美しさです!」
そうだ、そうだ!
かなり価値のあるものだぞ、金持ち達よ!
「1つしかございませんので、両耳に着けていただく事は出来ませんが、観賞用としていただいても十分に豪華な品物です!」
両耳に着けれなくったっていいじゃないか!
飾ればいい!
そうだろう?
「今回こちらを出品して下さった方は、匿名とさせて頂いておりますので、ご紹介は出来ませんが、このイヤリングは我々の鑑定済みですので、ご安心下さい!」
「おいおい、匿名出品だってよ」
「怪しいよな。なんか人造石とか言ってたし、こんな怪しいもん、誰が買うんだよな」
外の男達はそんなことを言っている。
だがな、買うもんなんだよ、金持ち達ってぇのは。
「では1万ドルからスタートです!」
「2万ドル!」
「3万ドル!」
「4万ドル!」
「4万5千ドル!」
「5万ドル!」
何故俺がこんなにも興奮しているのかといえば、何を隠そう、俺こそがあのイヤリングを出品したケヴィン・グリーン様だからだ!
ずっと前から、こういうのに一度出品してみたかったんだ。
思わぬところで偶々手にいれたもんだし、あのイヤリングに特に思い入れがあるわけでもない。
「10万ドル!」
おぉっ! 10万ドル!
テレビに映ってるのは、かなり有名な金持ちのオヤジだ!
もう決まりだな!
最高だ、こんな大金が簡単に手に入るなんて……
「20万ドル」
おっ!?
もう決まりかと思ったら、若い女が金額を上げた。
そうだよな、やっぱ女はアクセサリーとか好きだよな。
にしても見たこともない女だな。
「30万ドル!」
お、またオヤジの方が上げたぞ!
「50万ドル」
すると今度は女も上げた!
ご、50万ドルとか……!
「70万ドル!」
ちょ、ちょっと待てよオヤジ……
俺の心臓が持たないって……
70万ドルかぁ……
「100万ドル」
ひゃ、ひゃ、ひゃ……100万ドルっ!?
聞き間違いじゃないよな!?
100万ドルもあったら相当遊んで暮らせるぜっ!
それにしてもあの女は何者だ?
あの有名なオヤジと競うなんて……
「なぁ、アレ……桜野じゃないか?」
「あぁ、本当だ桜野奏海だ!」
オークション会場の声で、そう言ってるのが聞こえた。
あの女は、桜野奏海というらしい。
俺は知らないが、会場がこれだけ騒がしくなるという事は、相当な有名人なんだろう。
「おいっ、桜野奏海だってよ」
「マジかよ……」
「このイヤリング凄いもんなんじゃねぇの?」
「そうだな」
「出品者も匿名とか言ってたし、なんか怪しい裏がありそうだよな」
「絵より面白くなってきたな」
外の男達もそう言っている。
そんな凄い人物なのか、あの女は……
会場もかなりざわついているようだ。
外の男達と同じように、誰もがあのイヤリングを訳ありだと思っている。
でも出品者が俺である以上、出品者との関係に裏も何もない。
このオークションは、目玉であるあの絵は最初から発表されていたが、他の品物の発表は当日だ。
つまりあの女があのイヤリングの存在を知ったのも、ついさっきって事になる。
俺にはあの女が、今デザインが気に入ったとかで欲しくなって、落札しようとしているようにしか見えないんだが……
「500万ドル!」
…………はぁ!?
ご、ごひゃくまんどる?
何それ……意味がわからん……
今度上げたのはなんか博士っぽい奴……
「は、博士……我々の目的はあのイヤリングではありませんよっ!」
「分かっとる。しかし先程のあのイヤリングの説明を思い出してみろ! 1番大きな飾りは人造石だと言ったんだぞ」
ほら、博士って呼ばれてるし、博士なんだよ……
ちょっと待ってくれ、思考が追い付かない……
500万ドルだぞ……
それが俺のものに……
「ほら、人造石とか言ってんぞ!」
「なんか秘密の宝石なのかもしれねぇなっ!」
「あれじゃね? 光を当てると財宝の在処を示す、地図が現れるとか!」
「ファンタジーな思考回路してんな」
「なんだよ、悪いかよ」
「別に、いいんじゃね。俺も似たこと考えてたしー」
「だよなー」
外の男達のお気楽な会話が聞こえる。
全く人の気も知らないで……いや、知らなくて当然だが。
あのイヤリングはちゃんと鑑定に出した。
そこでもちろん光も当てているし、あの人造石は何でもないただの石だった。
「600万ドル!」
「700万ドル!」
「800万ドル!」
会場の金持ち達が、あのイヤリングを手にいれようと動き出した。
あの女が買おうとしているだけで、この騒ぎ……
一体何者なんだよ……
「1千万ドル!」
金額が俺の予想の遥か上を行きすぎて、逆に冷静になってきた……
「に、2千万ドルっ!」
震えながら手をあげる博士……
だが博士の事なんて全く相手にしていないオヤジが、
「5千万ドル!」
と、席から立ち上がり女の方を睨みながら金額を上げた。
俺が出したイヤリングを、あの金持ちオヤジと謎の女が競ってる……
なんなんだ、これ……
夢か?
「1億ドル」
試合終了の合図のような、静な声が響いた。
落札が決まり、女の顔がアップでテレビに映る。
何故かテレビに映ってるその女と、目が合った気がした……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




