謎多き人物
記者視点です。
桜野グループは謎が多い。
まだ高校生の桜野奏海が桜野グループの会長になった事ももちろん謎だが、ここ最近の成り上がり方が尋常じゃない。
元々金持ちグループではあったが、そこまで目立っていた訳ではなく、寧ろ目立たずひっそりとしているような金持ちグループだったはずだ。
それがここ数年でどこのグループよりも上に飛び出てきた。
それに奏海は、スノーフレークという大きな会社まで起業している。
そのスノーフレークを奏海が起業した頃はまだ、桜野グループの会長は奏海の父親、桜野秀紀が務めていた。
だが去年、奏海が高校生になった頃、急に奏海が桜野グループの会長になったんだ。
いくらスノーフレークが成功して、奏海に商才があると分かったとしても、まだ高校生の奏海に会長の座を譲るのは早すぎる。
何よりも桜野グループは奏海の上に長女と長男がいて、子供は3人いたはずだ。
その姉や兄を差し置いて奏海が会長になっているというのも、おかしな話だ。
別に秀紀が死んだという訳でもないのに……
元々奏海は一切メディアに出ていなかった為、謎に包まれていたが、奏海が会長になってからは、前会長である秀紀や、長女や長男も一切メディアに顔を出さなくなり、桜野グループの事は何も分からなくなってしまった。
それがこの間の赤い羊の件で、奏海は急に顔を出したんだ……
顔が公開されたとはいえ、奏海の事は本当に謎が多すぎて、未だ何も分かっていない。
どうやってこんなに成り上がっているのかも分からない。
「あの桜野奏海が欲しがるって事は、あのイヤリング、ただのイヤリングじゃないんじゃないか?」
「確かに……」
会場はざわめきが止まらない。
まさか注目の絵画を前に、こんな騒ぎになるとは……
「500万ドル!」
俺の席から少し離れた斜め後ろの方で、金額をあげた奴がいた。
誰かと思ったら有名な研究者だった。
急に金額が上がった事で会場中が驚き、ざわめいていたオークション会場は静かになった。
「は、博士……我々の目的はあのイヤリングではありませんよっ!」
「分かっとる。しかし先程のあのイヤリングの説明を思い出してみろ! 1番大きな飾りは人造石だと言ったんだぞ」
研究者とその助手的な奴の会話が、静かな会場に響いた。
確かにイヤリングの説明の時、1番の大きい飾りは人造石で、細かい細工の方が高価な宝石だと言っていた。
……そんな変なイヤリングがあるか?
普通1番の大きな飾りに、高価な宝石を使うんじゃないか?
そう考えるとその人造石とやらは、何か特別なものなのかも知れないな……
何しろ、あの奏海が欲しがってるくらいだし……
「600万ドル!」
「700万ドル!」
「800万ドル!」
俺と同じ事を思った奴が会場中に沢山いたんだろう。
今日の目玉だった絵画を狙いに来たであろう金持ち達が、イヤリングの金額をどんどんとつり上げていく。
「1千万ドル!」
ついには目玉の絵画の予想額と並ぶ程の金額になった。
いくら奏海が欲しがっているとはいえ、どんなものなのかという価値も何も分からないのにここまでするとは、本当に金持ち達の行動は理解出来ないな。
「に、2千万ドルっ!」
さっきの研究者が少し震えながら金額を上げた。
この研究者にはここが限界なんだろう。
謎に包まれた奏海が欲しがっている上に、鑑定しても分からなかった美しい人造石が使われたイヤリング。
きっと調べたかっただろうにな……
「5千万ドル!」
震える研究者を無視して金額を上げたのはオッサンだ。
立ち上がり、これでもかというような鬼の形相で、奏海の事を睨んでいた。
ここまでくると最早ただの意地にしか見えないな。
いくら超金持ちのオッサンといえど、隣の女に見栄を張りたいが為の、買う予定もなかったイヤリング……
そんなものに出せる金額にも限界はある。
「1億ドル」
そしてついに、オッサンの睨みも全く気にしていない、冷静な奏海の声が会場に響いた。
その静かな声を聞いたオッサンは、さすがに諦めたようで、力が抜けたように席についた。
1億ドルで、イヤリング落札が奏海に決まった。
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