呼び方
創太視点です。
ななさんに電話の真意を話してもらった。
もともと凄い人だとは思っていたけど、本当にとんでもなく凄い人なんだと実感した。
電話1つの事でもこれだけの考えがあるとか……
……あれ? でもななさんが婆ちゃんの電話番号を覚えたのは、最初の電話の時って言ってなかったか?
「あの、ななさん。もう1つ疑問が出来たんですけど?」
「あら何かしら?」
「今の話だと、ななさんが自分の携帯を使おうと思ったのは、父さんからの電話の後ですよね?」
「そうね」
「なのに婆ちゃんへの電話番号を覚えたのは、最初に婆ちゃんにかけた時なんですよね?」
「そうだけど?」
確か前に聞いた時は、僕の携帯の電池がきれそうだったから覚えたって言っていた。
でも電話番号を覚えたのも、電池がきれそうなのに気がついたのも、父さんとの電話より前だ。
「まだ自分の携帯でかけるかも決めてなかったのに、わざわざ覚えたんですか? 最初から自分のでかけた方がいい可能性まで考えてたんですか?」
たかが電話番号と言えど、そんなの普通後からかけようと思ってないと覚えないよな?
別に僕の携帯を使ってもよかったって言ってたし、電池がきれそうだったから電話番号を覚えたって言うのは、あの時適当に言った理由って事になる。
ななさんは一体、どれだけの可能性を先に予想していたんだろう?
「最初からそんな自分の携帯を使う可能性までは考えてなかったわよ。言ったでしょ? お父様があんな熱血な人じゃなければ、創太の事も帰してたって」
「じゃあ何でわざわざ番号を覚えたんですか?」
「そもそも私は一度見聞きしたものは忘れないから、電話番号はわざわざ覚えた訳じゃないわ。一度でも視界に入れば、覚えてるのよ」
さらっととんでもないことを言ったな……
一度見聞きしたものは忘れないって……
そういえば今朝も分厚い本をパラパラと捲ってたけど、もしかしてあれは本の内容を記憶していたのか?
今の今、ただの凄い人じゃなくてとんでもなく凄い人なんだと実感したばかりなのに、更にその上をいくとか……
「はあぁぁーっ」
「何? その大きなため息は? 人が真面目に話してあげてるっていうのに。しかも、本日二度目なんだけど?」
「あ、すみません。自分の夢の難しさを痛感してました」
「夢? そういえば結局、創太のやりたいことを聞いていなかったわね。どんな夢だったの?」
誰かに言われたからでもない。
僕が僕の意思で考えた僕の夢だ。
「僕の夢は、あなたの隣で共に働いて、あなたを助けれるようになることです」
「えっ?」
そんな事を僕が言うとは思ってなかったんだろう。
ななさんは凄く驚いている。
ななさんが倒れた時、僕は本当に自分の無力さを痛感した。
僕はななさんの支えになりたい!
そのためには、今のこんな僕じゃダメなんだ!
僕には足りてないものが多過ぎる。
「この夢が滅茶苦茶大変な事なのは分かってます。ななさんが何者で、常々何をしていたのかなんて僕にはさっぱり分かりませんし、正直どうやったらこの夢が達成できるのかも、何も分からないんですよ。だからこれじゃ、ゴールの見えない道と一緒ですよね」
「そうね」
「ななさんが前に教えてくれたように、ゴールの見えない道を行くのは怖いし、辛いだけです。なので、その夢に向かう通過点として、目標を2つ作りました!」
「2つ?」
「簡単な目標と難しい目標です」
いきなり、ななさんの隣でななさんを助けていくなんて夢は、叶うわけがない。
だからその為の目標だ。
小さな目標の通過点から一歩づつ、確実に進んで、ななさんを支えていける存在になる為に。
「まず簡単な目標は、◎◎大学に受かることです。◎◎大学での知識や経験は絶対に役に立つと思うので」
「創太、◎◎大学に受かるのは簡単じゃないことくらい分かってるでしょ? それを簡単な目標だなんて……その目標は途轍もなく難しいわよ?」
「分かってますよ。でももう1つの目標と比べたら、多分こっちの方が簡単なので……」
僕が簡単な目標って言ったのは、その目標が簡単だからじゃなくて、2つの目標を見比べた時に、もう1つよりは簡単だと思ったからだ。
決して◎◎大学への入学を舐めている訳じゃない。
◎◎大学に入る事は、本当に大変な事だと思ってるけど、それでももう1つの目標の方が達成するのは難しいだろう……
「で、もう1つの難しい目標は?」
難しい目標……
でもこれを達成しないと、ななさんを隣で支えていくなんて夢は論外だ。
本名も教えてもらえない信用されてない奴に、何が助けられるっていうんだ?
「難しい目標は……ななさん、あなたの本名を教えてもらう事です」
「金本実梨」
「えっ?」
僕が難しい方の目標を言った途端、間髪入れずにななさんは名前を言った……
金本……実梨……?
それがななさんの本名……
「だからね、創太が思っているほどその目標は簡単じゃないのよ。つまり逆もまた然りね」
急に本名を教えてもらえた事による驚きと動揺で、僕は混乱中だっていうのに、ななさん……もとい、実梨さんは楽しそうに笑っている。
逆もまた然りか……
難しいと思ってることも、容易く解決出来ることがあるんだな。
「創太が難しいと思っていた目標はこんなに簡単に達成できたんだもの。簡単な目標なんて、できて当然よね?」
本当に、この人には敵わないな。
「はい! もちろんです!」
「頑張りなさい。待ってるから」
……待っててくれるんだ。
早く近づけるようにこれからも頑張っていこう。
実梨さんが僕を信じて、待ってくれてるんだから。
実梨さん……
「あの、実梨さん……」
呼んでいいものか結構悩みながら、勇気を出して呼んでみたっていうのに、実梨さんは、
「こらっ! 私のことはななさんと呼びなさい!」
と、本名で呼んだ事を咎めてきた。
前は僕の好きなように呼んでいいって言ってたのに、本名呼びはダメなのか。
でもわざわざ"ななさん"って呼ぶように指定してくる辺り、僕のつけた"なな"って名前を、実梨さんも気に入ってくれてるって事なのかな?
もしそうだとしたら、嬉しいな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)
episode3は完結です。




