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スノーフレーク  作者: 猫人鳥
episode3 少年誘拐加害者編

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振り返り

創太視点です。

 僕とななさんが最初に出会った日の事を、ななさんと一緒に振り返る。

 もう結構前の事だけど、あの印象的な日を忘れる訳がないので、僕も何があったのかはしっかりと覚えている。


「まず最初ね。創太の荷物を漁ってた時に、創太の鞄のボロボロさは見ていたからね。いくら扱い方が雑だとしても、そんなに傷だらけになるわけはないわ。それにまるで蹴ったような跡もあったし……」

「そんなのまで見てたんですか?」

「えぇ。だから創太があそこからジャンピングかまそうとしてた理由は、恐らくは学校なんだろうなぁーと思ったわ」

「それで僕に学校に行けって言わなかったんですか?」

「まぁそれもあるけど、私は元より必要のないところには行かなくていいと思ってるからね」

「そうでしたね」


 それでも、いつも行きたくもない学校へ行け行けと言われる日常だった僕には、行けと言われないだけでも落ち着けた。

 漫画に集中して、嫌な事も忘れられてたし……

 まぁ、こんなことしてていいのか? っていうのは思ってたけど。


「次に、創太の携帯からお婆様に私が電話した時、創太は一切喋るつもりがなかったでしょう?」

「はい」

「あの様子からして、他の誰との電話だったとしても一緒だと思ったわ。創太は誰にも何も話さないタイプの子って分かったし。となると私には、創太と家族を繋ぐ物が必要になってくるの」

「携帯とかですか?」

「そうね。だから正直、この時点での創太の家族との連絡手段は、創太の携帯でもよかったのよ」


 僕に聞かれないように夜中にかけてるんだし、履歴だって消せるんだから、婆ちゃんへの電話は僕の携帯を使ったっていい。

 むしろその方が婆ちゃんも普通に出てくれるだろう。

 知らない番号からかかってくるよりは、お互いスムーズに話もできるはずだ。


「そして、お父様が電話してきた時ね。あの時に状況が変わったのよね」

「父さんと言い合いになったからですか?」

「言い合いになったというか、あれはあえて怒らせてみたの」

「なんでそんなこと……」

「創太に代われとか、迎えに行くとか、ずっと一方的な事ばっかり言うんだもの。あの様子じゃ、仮に迎えに来てもらっても、一方的に創太に怒るだけだわ。だから迎えに来てもらわなくていいと思ってね」


 あの時のななさんは、喋り方も相手を挑発しているようなふざけた感じで、誰がどう聞いても喧嘩を売っていた。


「創太の鞄の様子から、学校での事にだって気付ける筈なのに気付いていないし、初対面の私との電話でさえあんなに一方的。となれば、家でも相当横柄な方なんだと容易に想像できる。何より電話してくるのが遅すぎね」

「父さんの様子が分かったからって、何の状況が変わったんですか?」

「創太の悩みの問題点は、学校よりも家庭にあるって事よ。だから最初は、創太が落ち着いたら家に帰らせようと思ってたんだけど、それもやめたわ」

「僕、帰らさせられる予定だったんですね……」


 あんな変なドアで閉じ込めてたのに、帰らせようと思ってたとか……

 でも今から思うと、帰らさせられなくてよかった。


「創太はさっき私に話してくれたみたいに、今日学校であった出来事とかを、家族に話したりしてた?」

「えっ……まぁ、婆ちゃんにはたまに話してましたよ。聞いてくれるんで……」

「誰だって1日過ごせば楽しい事も嫌な事もあるものよ。"ただの愚痴り合い"と言ってしまえばそれまでだけど、そういう自分の行動を振り返るように人に話す事って、結構大切な事なのよ。でもお父様のあの様子じゃ、きっと学校での事も話せてなかったんだろうと思ってね」


 確かに、父さんに学校での事を喋った事なんて一度もないな。

 いつもうるさいとか、俺は疲れてるとかしか言わなかったし……


「そういうことなら創太を家に帰したって、結局一緒で何も変わらないでしょ?」

「それでわざと父さんに喧嘩売ってたんですか?」

「まぁね。でも私も流石に誘拐犯ではないからね、ちゃんと創太の様子をご家族に知らせる必要があった。だけどあの態度をとっておいて、お父様に連絡するわけにはいかないでしょ。だから私が連絡をとれる人物は、必然的にお婆様になるのよ」


 僕を家に帰さないと決めた以上は、例え警察と知り合いで本当の誘拐事件にならないにしても、家族と連絡がとれないといけない。

 だから婆ちゃんに連絡したんだ。

 その連絡の際、僕に聞かれないように僕が寝てから電話をかけたのも分かる。


「それは分かりますが、携帯を自分のにする意味はあるんですか?」

「あるわ。創太の家族関係に私が介入しやすくなる」

「さっきも言ってましたよね? 介入しやすいってどういう事ですか? 別に僕の携帯からでも、僕の家族関係には介入できますよね?」


 そもそも僕を助けてくれた時点で介入しているといえる。

 それなのにまだ、何に介入したかったっていうんだ?


「私が創太の前でお婆様とした電話の事は覚えてる?」

「散々からかわれました……」

「ふふっ、家族と電話をする気のない創太に、電話に興味をもってもらうようにして、創太とお婆様が話をするようにしたの」


 あの頃のななさんは、僕の話も全く聞いてくれなかったし、お寝坊さんだの甘えん坊だの、勝手な事ばかり言っていた。

 その結果、仕方なく僕は婆ちゃんと電話をしなければいけなくなったんだ。


「でもそうやって創太が自分からお婆様と話すようになれば、もう私が間に入る必要もなくなってしまうのよ。それこそ創太が創太の携帯で、お婆様と連絡をすればいいだけだからね」

「確かにそれだと、そこから先はもう僕の家族関係に介入はできませんね」

「だから私は自分の携帯を使ったのよ。私の携帯からお婆様と連絡をするのなら、私がスピーカーにして創太達の話を聞くのも何ら不自然ではないし、ずっと創太の家族関係に関わっていられるから」

「僕と婆ちゃんの話を聞いてたかったんですか? でもななさんは僕と婆ちゃんが話してる間、会話に一度も参加して来なかったじゃないですか」


 介入したかったというのなら、会話に参加するべきだ。

 ななさんは、一度たりとも僕と婆ちゃんの会話中に喋らなかった。

 ななさん自身の話をした時ですら、全くこっちに興味を持たず、パソコンをカタカタやっていた。


「それは、創太とお婆様の会話に参加する必要がなかったからよ。それにスピーカーにして会話を聞いていたのは、参加したかったんじゃなくて、待っていたからよ」

「待ってた? 何をですか?」

「分からない? ヒントは、私が唯一創太の電話内容を指定した時かな」


 そのヒントは最早答えだ。

 何を待っていたのかは、すぐに分かった。

 何しろ、あの時のななさんはとても楽しそうに笑ってたから。


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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